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転生者

「おかえりなさい。お疲れのところ悪いですが、報告をしてもらってもいいですか?」


宿に帰ると案の定ギリーは俺を待っていて、帰るなり報告を求められる。まずは一息つかせろと思うが、「遅くなってすまない」と謝っておくことにした。

さて、報告だがその前にダッロについて聞いておいた方がいいだろうな。


「今日はお前に聞きたいことがあるんだ。

 この世界には『船頭多くして船山に登る』って言葉があるのか?」


「そのような言葉聞いたことがありません。それが、どうしたのですか?」


 「いやぁ、今日会った義勇兵が俺にわざとらしくそう言ってきたんだ。この世界では、聞き馴染みのない言葉だったならな。気になった。」


「なるほど。言葉の意味を教えていただいても良いですか?」

 ギリーの顔が真剣なものに変わる。

「確か指示するものばかりが増えると、船が山に登るようなおかしな結果になり、物事が上手くいかないみたいな意味だったと思う。」

 

「なるほど、率直に言ってその方はほぼ間違いなく転生者ですね。」


 それを聞いたギリーは、確信をもって言い切った。


 「なぜそう言いきれる?」

「簡単です。ホウジョウさん達の世界のことは僕にはわかりませんが、この世界では船とは空を飛ぶものです。そして、山を越えることはおかしくも不思議でもありません。」

 俺が聞くと、ギリーはこの世界では意味が通じないことわざであると教えてくれた。

「船が空を飛ぶ?」

 ギリーによると、この世界でいう船とは飛空艇のような空を飛ぶもののことをさすらしい。そして、俺が思う海や川を渡る乗り物については存在しないようだ。そもそも水に何かを浮かべて渡るという発想自体がないらしく無駄に驚かれてしまった。

 

 「わかりました。もしその方が、さらなる接触を求めてきた場合はすぐ報告してください。僕からもホウジョウさんに指示を仰いでおきます。」

 「すぐとは言うが、どうやって報告すればいい。俺はお前がどこにいるかなんて知らないぞ?」

 「ギリーは便利な魔法を持っているとホウジョウさんから聞いていますよ。確か思念魔法でしたか?

相手の魔力さえ登録していればある程度距離があってもメッセージを送れるらしいじゃないですか?」

 俺の魔法はこの4年でいろいろと進化した。そのうちの一つに思念魔法がある。

 昔は相手の位置を正確に把握していなければ情報を送れなかった思念魔法だが、今は違う。

 相手が魔法を使えるやつ限定にはなるが、魔力を俺の体に登録しさえすれば、ある程度の距離ならば位置の分からない相手にも情報を送れるように進化していた。

 「よくご存じだな。」

 「ホウジョウさんに魔法の申告義務があるでしょう。あなたの監視役である僕がそれを聞いているのは当然です。」


 そう「逆賊の徒」には、使用できる魔法を北條に報告し、披露しなければならないという規則がある。これは絶対の規則で違えれば、命はない。

 北條曰く裏切りを未然に防ぐかつ作戦を考えるうえで必要なことだそうだ。まぁ、進化した思念魔法に関してはほとんど北條が作ったと言っても過言ではないのだが……


 「まぁいい。じゃあ、お前の魔力を登録させてくれ。」

 「いいですよ。どうすればいいですか?」

 これはチャンスだと思った。魔力さえ登録すれば、思念魔法で情報を送れる。言葉だけではない。

 情報を送れるのだ。それに拷問魔法などいろいろな魔法を乗せることもできる。

 つまり、俺にとっては、不意打ちに相手を攻撃する手段を得ることを意味する。いつ敵対するかわからな逆賊の徒のギリーに対してこれは大きなアドバンテージになる。

 しかし、それを悟らせてはいけない。

 俺がここで無駄に協力的になったり、率先したりしたらこの可能性に気付かれてしまう。そうすれば、余計に警戒されてしまうかもしれない。あくまでもめんどくさそうに、命令のため、嫌々やっているという体を装わなければならない。

 「簡単だ。魔力を込めた血を俺にくれ。それを俺が飲み貯蔵しておく。それが魔力の登録だ。」

 「相変わらずサックの魔法は気持ちが悪いですね。」

 ギリーはそうこぼしながらも、風でさっと人差し指の指先を斬り、血がにじむ指を俺に差し出してきた。


 俺だってこんな気持ちの悪い魔法ばかり習得したくはなかった。しかし、これが一番簡単だと研究の結果わかったのだから仕方がない。北條に言わせれば魂が穢れているのだから当然らしい。


 思念魔法の進化について、北條にアドバイスを受けている時、奴はこんなことを言っていた。

 「さすがに醜いなリビィ。

 魔法っていうのは魂の具現化だ。

 魂のありようが魔法の形に現れる。お前の魔法が卑屈で、卑怯なものが多いのはお前が卑屈で、卑怯だからだ。

 だが、悪はそれでいい。悪が光り輝き、清楚で、美しく、神秘的ではいけない。

 悪とは醜くあるべきだ。そういう意味では、お前のありようは正しく、美しい。

 いいか、リビィ。今のおまえを、お前は恥じてはいけない。むしろ誇らしく思い、胸を張るべきだ。


 朽ちていく、すたれていく、腐っていく。


 世間一般には後退に見えることが実は俺たちにとって進歩である。

 そういうことは往々にして起こりうる。すべてを受け入れろ。

 抗うな。

 ただ魂の示すままに魔法を作っていけ。

 それが醜悪で、他者から眉を顰められれば、顰められるほどに誇れ。」


 奴は俺の気持ちなど忖度することなく、自分の意見を押し付けてくる。そのほとんどがよくわからない悪に対する讃歌であったり、あり方であったりして非常に気持ちが悪い。そして、なによりも意味が分からないし、度し難い。


 北條の高尚な悪についての演説は俺にはとても理解できないものが多かった。

 俺だって醜く、みじめな魔法は嫌だし、格好いい魔法を使えたほうがずっといい。

 しかし、俺はそういう綺麗な魔法はあまり使えないし、使えても威力が低かった。俺は、実利を優先して諦めているだけだ。誇りたくもないし、抵抗もある。


 そんなことを考えながら、俺は垂れるギリーの血を飲み、魔力の登録を終える。感覚的には体の中に血の貯蔵庫があり、そこに一つ新たな貯蔵庫を作ってギリーの血を保存するような感覚とイメージだ。これを北條は貯蔵魔法と呼んだ。あくまでもイメージの中のやり取りで実際にギリーの血が俺の中に保存されているかどうかなんて知りはしないし、知りたくもない。

ただ、思念魔法を使うときに、貯蔵魔法を意識するとそこに貯蔵された血の所有者に情報を送れるのだ。自分でもどういった原理かはわからないが、できるのだからどうでもいい。

 


「それで転生者をどうするつもりなんだ?」

魔力の登録を終え、一息ついてから尋ねてみた。

「ホウジョウさんのお考え次第ですが、恐らくは利用し、殺すことになるんじゃないですか?」

こういうことを笑顔でなんの忌避感もなく言えるところが狂っている。ギリーの場合は、もともとからこうなのか、北條に毒されたのかはわからないが気持ちが悪いことこの上ない。


「仲間にはしないのか?」


同じ転生者ならば、仲間にしてしまえば良い。

 逆賊の徒には転生者が何人もいる。使えそうならば、殺さない方がいい。

「要りませんよ。僕たちは、この国に仲間を作りに来たわけではありませんから。名声を稼いで、上位者に取り入り、そして壊すためです。目的を違えてはいけません。

 欲をかいた行動は、目的を潰します。

 そういう意味で言えば、あなたを転生者と認識しているであろう転生者は、我々にとって計画にはない邪魔者。つまりは、敵ですね。」

俺の考えはあっさり否定されてしまった。北條の敵と認定されたダッロには同情を禁じ得ない。

 俺が知る限り、北條の敵はすべからく無惨な死を遂げた。奴にも決して安念な死は訪れないのだろう。


「全ては北條さんの指示待ちなんですけどね。さて、それで?今日の報告をしてください。」


俺は今日あったことをギリーに簡潔に話した。主には、バーストに防御魔法を教わり、明日一緒に依頼に誘われたことについてだ。


 「わかりました。さすがですね。まさか半日で防御魔法を習得するとは思いませんでした。」

 俺の報告を聞いて、ギリーは感心したようにうなずいたのち、明日が楽しみですと漏らした。

 「報告は以上のようなので、僕はもう寝ますね。あと、義勇兵の登録証は明日の僕との依頼が終わったら渡しますので誰とでも自由に依頼に行ってください。ただ、夜には帰ってきてくださいね。」


 そういって早々にギリーは床にはいって行ってしまった。

 俺ももう寝よう。とにかく疲れた。明日は死にかけたくないなぁ。

 そんな当たり前の希望を抱きながら眠りについた。

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