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教授

俺とリグは管理局に一度戻り、カンカに小言を貰いながらもリグの登録証を再発行してもらった。リグは、言葉を濁しながらも、なんとか俺に魔法を教える報酬として、銀貨をもらうことになったと説明していた。大分カンカに小言を言われて、シュンとしてしまっていたが、それも管理局を出るまでで、管理局を出てしまえば大事そうに登録証を眺め、これでまた働ける、酒が飲めると呟いていた。


すぐに酒が出てくる辺り、完全に懲りていない。また、同じような失敗をするだろう。


そのあと、俺たちは義勇兵斡旋所に行き、訓練所を借りる手続きを行った。斡旋所では、義勇兵育成のために地下にいくつかの訓練所を有しているらしい。そこは、義勇兵の登録証を提示すれば誰でも無償で借りることができる場所とのことだった。


周りを壁で囲まれた薄暗い訓練所で、俺とリグは向かい合う。

「じゃあ、まずお前がどのくらい魔法を使えるか、見せてくれ。」

俺が水魔法を使えること、その威力が低いことは道中にリグに伝えておいた。それじゃあ、一度魔法を見せてみろということになったのだ。


腕に魔力を集める。そして、水のカッターを高速で打ち出す様子をイメージして魔法を発動させた。水圧はなるべく高く、そして鋭く、速く、できるだけ魔力を込めて、魔法を打ち出した。

 魔法は、うまく発動し、リグに向けて高速で魔法が飛んで行った。自分の中ではなかなかにうまく発動したほうだ。威力も高そうだ。しかし、三日月状の水の塊をリグは手を払うだけで打ち消した。まるで、冗談でかけられた水を払うかのように、いともたやすく、俺の魔法は霧散した。


 「なるほどな。確かに弱い。」

リグは呆れるように、頭をかいた。

 「なぜ、なのでしょうか?」

 「うーん。坊主は魔法を発動させるときにどんな風にイメージしているんだ?」

 「水をカッター状に発射して、なるべく速く飛んで、それからたくさんの水で、それからなるべく鋭利なようにでしょうか?」

 

 本当はもっと具体的なイメージをしているのだが、いかんせんイメージというのは言葉に表しにくい。必然、漠然とした説明になってしまう。

 「なるほど。坊主は魔法はほとんど独学で学んだといっていたな?」

 「はい。」

 少しリンスさんに習いはしたが、それもとても短い時間だけだった。それにリンスさんは、もともとが奴隷で魔法の知識も乏しかった。だから、ちゃんと魔法のスペシャリストに魔法を教わったことはないに等しい。


 「端的に言って、魔法の発動方法そのものが間違っている。それが、坊主の魔法の威力が出ない理由だ。」「発動方法ですか?」

 魔法の発動方法が間違っている?

 どういうことだ。ちゃんと魔法は発動しているぞ。リンスさんから習ったイメージも大事にしている。魔力を込めることに気を使ったりもしていなければ、PMPとかPMとかはもはや気にしてもいない。しかし、それでも発動方法は違うのだろうか?

 確かに俺の魔法の威力は異常に低い。それを考えるのならば、発動からして間違っているというのは納得できるといえば、納得できる。しかし、何がどう間違っているのか、それが全くわからない。


 「発動方法だ。坊主のそれははっきり言って無駄が多すぎる。」

無駄?何が無駄だと言うのだろうか?

 「無駄ですか?何が無駄のでしょうか?」

 「前提として、俺は強身流の魔術を使う。だから、坊主が使うような属性魔法はあまり得意ではない。それだけは覚えておいてくれよ」

 そう前置きしてからリグは、俺のほうに歩み寄り横に並んだ。そして、腕を前に突き出す。強身流?聞きなれない言葉だが、今はどうでもいいか……

 「いいか。過程はいらないんだ。どんな攻撃をしたいとか、どんな形状の攻撃だとか、どんなスピードがいいとか、そういうのはすべて無駄だ。イメージするのは魔法が引き起こす結果だけ。過程にイメージの力を使ってしまえば、その分だけ威力が低くなる。さっき、坊主が使った魔法でいうのならば、ただ俺を水で切り裂くことだけをイメージするんだ。どんな水で俺を攻撃するとか、そんなのは必要ない。」

 そういって、リグは「水」をつぶやいた。その瞬間リグの手から水のカッターが打ち出される。俺のものと速度や水量はほぼ同じに見える。しかし、その威力は桁が違った。

 水のカッターは、地面を大きく抉りながら進み、訓練場の壁に巨大な縦の溝を作った。訓練場の壁には防御の魔法がかけられていて、並みの攻撃では傷一つつかないというのはさっき訓練場を借りるときに、斡旋所の受付に聞いた話だ。

 しかし実態はどうだ。リグが、放った魔法は壁の魔法などなかったかのように、簡単に食い破った。これで、苦手だというのだから嫌になる。


 「今俺は、ただ壁を水で壊すその瞬間のみをイメージして魔法を発動した。他の瞬間にイメージの力を使っていないからその一瞬にすべての力が集約されてこういう強い魔法が発動するんだ。形状なんかはその結果に一番似つかわしいものに自然となる。そこにイメージを使ってはいけないんだ。」

 リグは、さらにもう一撃魔法を発動しながら教えてくれた。次の魔法も先の魔法と同様、壁を大きく破壊した。


なんだ、そのファンタジーは?

いや魔法の存在そのものがファンタジーなのだからそれも当然といえば、当然か……。だが、何か起こるには原因があって、理由や理屈があるってのは普通考えることだろう。それを考えるのが無駄とかマジかよ。例えば、強い炎を出すとき普通の俺の感覚では燃料を入れるとか、酸素を送るとかそんなことを考える。しかし、魔法においてそれは全くの無駄と言うことらしい。ただ、強い炎をイメージする事だけが炎を強くする方法ということだった。


無茶苦茶だ。科学とか全て否定している。

確かに俺の魔法の発動方法は根本から間違っていたようだ。俺はなんでも理屈で考えすぎたのだろう。もっとイメージを大切に、いやイメージのみを大切にするべきだったのだ。


俺がしばらく黙って考え込んでいるとリグはさらに魔法について教えてくれた。

 「魔法なんてものは、そもそも理屈抜きに魔力を使い世の中の法則を書き換えるものだ。法則や理屈を考えるべきではない。どんなものが強いとか、速度の速いもの、質量の多いものが強いとかそんなことは魔法の上では関係ない。ただイメージの力が強いものが強い。それが、魔法だ。」

「なるほど……」

俺は妙に納得してしまった。ファンタジーは、ファンタジーらしく考えるべきか……

「強い魔法を使うためには、あとはまぁ、才能だな」

最後に付け加えてリグは苦笑いを見せた。

こういうところだけ現実かよ。結局、努力も鍛練もすべて持っている才能によって大きく変わる。前世でもそうだった。上に立つやつは、結局は何かしらの才能を持っているやつらだった。

確かに努力が才能を倒すなんてことはあるかもしれない。しかし、そんなのは極端に少ない。稀だ。それに結局は、努力する側にも才能があって、才能のあるもの同士の戦いだったりするんだ。才能の欠片もない凡人はそれをよだれ垂らして見るだけだった。なんてことはない。この世界も同じか……


だが、俺は俺のままで世界を救うと決めた。リクリエットにそう誓った。できる限りやってやろうじゃないか!

最強でなくても、弱くても、外道でも俺が世界を救ってやる。


俺は無言で腕をつき出す。さっき見た壁が破壊されるその瞬間だけをイメージして魔法を発動する。魔法は無事発動した。

魔法の形状なんかはさっき俺が発動したのとほとんど同じに見える。 しかし威力は全くの別物になっていた。俺の放った魔法は、壁の防御魔法を突き破り、壁に小さな傷を作ったのだ。確かに小さな傷だ。リグのものと比べれば、月とすっぽん、クジラとイワシだ。

 それでも、俺の中ではかなり威力が上がった。正直にうれしかった。

 「や、やりました。すごい、ほんとに威力が上がった。」

 素直に、うれしさが言葉に出る。

 「あぁ、よかったな。なかなかの威力だ。」

 リグが遠慮がちに俺の頭を撫でた。正直頭を撫でられるのはあまり好きではないが、バーストに比べれば大分配慮のある撫で方なのでまぁ、いいだろう。あいつのは本当に首がもげるかと思った。

その後、何度か魔法を見てもらい、イメージのアドバイスをもらい、そして魔法についてリグの解釈を聞かせてもらった。ついでに、強身流についても聞いておいた。

強身流とは、魔法で自分の体を強化して武器を用いて戦う戦い方らしい。リグの場合は、背にある斧を自分のからだの一部と見立て、斧ごと自分を強化して戦うのだと言う。この辺は見た目通りの豪快さだ。

体感で一時間ほど練習したのち、リグとは別れた。

 「あとは、反復練習と実践だ。成功体験ってのは、魔法を強くする。ある程度練習で自身が付いたら、どんどん魔物を狩るといい。この辺だと、グルーウルフやバルガがいいだろう。ビッラビッドの森に近づかない限り問題なく狩れるはずだ。」

リグは最後にそう助言を残し、歩き出す。俺は深々と頭を下げた。

「ありがとうございました。あの、また教えていただけますか?」「あぁ、何時でもいいぞ。坊主には借りがあるからな。」

リグは笑って手を振って去っていった。


訓練所を出ると、すでに日が傾き始めていた。さて、これからどうするか?とりあえず、宿に帰ってみるか……



記憶を頼りになんとか宿にたどり着く。宿に着く頃にはすっかり日が暮れていた。この国、とにかく同じような作りの建物が多すぎて道に迷う。俺は日常会話は問題なくできるが、文字を読むのはまだまだ不馴れだ。幼い頃に、リンスさんに絵本を読んでもらったり、屋敷にある本を勝手に見たりしただけだからな。


宿に帰ると、ギリーはすでに宿にいてベッドに座って俺を待っていた。

「お帰りなさい。サック。遅かったですね。」

この男の屈託のない笑顔が嫌になる。

「すまない。道に迷った。」

「いえいえ。では、報告を聞きましょうか? 」


報告?なんのだ?

俺は別にお前に何も頼まれていない。報告することなどないないのだが?


「報告?」

「ええ、報告です。僕もホージョウさんにしなきゃいけませんので。まさか、何もしていないってことはないですよね?」

 報告……報告ね。つまるところ、この国で地盤を気づくために何をしたかの報告か……

 自由にしていいって言ったくせに、勝手なことこの上ない。それならば、そうと言ってから離れればいいだろう。急に見ず知らずの場所に放置されて、何を望むというのだ。俺の中で黒い気持ちがふつふつと湧き上がる。支配されている感覚。自由に動いて、やっと正しい魔法を覚えて、人と関わって、それらすべてが北條の手のひらの上だといわれているようで悔しくて、腹立たしかった。


 「そんなことはない。今日はいろいろな奴と知り合って、話をした。それから義勇兵の一人に魔法を習った。」しかし、俺は促されるままに、今日の出来事をギリーに聞かせた。

 カンカとリグに出会い、バーストとリグと飯を食い、ランイと話した。それからリグに魔法を教わって、迷いながらも宿屋に戻ってきたとそんな話をきっちりと報告する。

 別にギリーが怖かったわけではない。北條が恐ろしかったわけでもない。ただ、今俺は裏切る可能性があるとおそらくだが思われている。そんな状況で下手な嘘をつく気にはならなかったのだ。


 「さすがですね。初日で、戦斧のリグと縁を結ぶなんてすごいですね。」

 話し終わるとリグは、感心した声を上げた。

 「リグってのは有名なのか?」

 「その辺は、自分で探ってくださいよ。」

 ギリーはそう言って、含みのある笑いをみせた。どうせ北條にでも、情報を流しすぎないように言われているのだろう。

 「それから仲良くするなら、管理局の受付よりも斡旋所の受付のほうがいいですよ。そっちのほうがこの国では影響力があります。所詮、管理局の人間は、同盟列強四国側の人間ですからね。その点、斡旋所の人間はこの国の人間です。上と知り合う足がかりになると思いますよ。」

 上と知り合う足がかりか。そんなのは別に望んではいないが……望まなきゃいけないんだよな。

 俺がここにいる目的は、マハトリオを落とすために潜入し、溶け込むこと。そして、来るべき日に北條の作戦を成功させる補助をおこなうことか……


 「わかった。報告は以上だが、明日は?」

 「そうですね。明日も朝から依頼を受けて、午後からはまた自由行動にしましょう。リグに習ったという魔法も見てみたいですから。」

 

 そういって、ギリーは話を勝手に打ち切り、さっさと寝支度を済ませ、寝てしまった。本当にマイペースで嫌になるやつだ。俺も寝ることにしよう。今日は疲れた。明日は、強くなった魔法を実践で試すことになる。それはそれで、楽しみだ。

 

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