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疑惑と隷属

拷問の後、すぐに北條から芽依子が作った朝食が北條から配られた。黒い靄が俺たちの前にもわもわっとやって来て朝食を置いて消えて行く。なんとも奇妙で、気味の悪い魔法だ。

 

 食欲は一切わかなかった。吐き気がして気持ちが悪かったが、なんとか食べた。

メニューのメインとなるのは、マキーラが食っていた黒パンのサンドイッチだ。なかには、塩っ気の強い肉と、葉の野菜が挟まっており、酸味のあるソースがかかっていた。サンドイッチというよりは、ハンバーガーに近いかもしれない。あとは、穀物で作ったスープと、ミルク。それが今朝のメニューだった。


奴隷時代から考えればかなり豪勢な朝食だ。いや、前世でもろくなものを食べていなかったことから考えると、いままで生きてきたなかでもかなり恵まれた朝食だろう。


芽依子の料理の腕はまぁ、普通だとしても、この世界の食材は素直に美味しい。

 まず、保存用レベルが異様に高い。

 この世界では保存食を作る際、魔法で食材の水分を綺麗に抜いて完璧に乾燥させる。そして、食べるときに専用の出汁に着けて煮戻す専用の出汁がなければ、魔法で水分を行き渡らせるか、普通に水につけてもいい。余計な加熱処理や冷凍処理をせずに、細菌だけを殺すことだって可能だそうだ。

 その保存技術のおかげで、いっそ普通に食うよりも、保存食のほうがうまくなる。

 

そんなわけで、食欲はなかったものの食べれば美味しい朝食をとり、少しは気分が晴れた。


「ギリーとリビィ、それから芽依子は着いてこい。」

食事の後、北條はそれだけを言い残して、自分の天幕に帰っていった。俺とギリー、芽依子は慌てて立ち上がり、北條の後を追った。

残されたメンバーたちは、未だ興奮覚めやらずといった様子で、がやがやと先ほどの拷問やドーグの様、北條が語った言葉について話合っていた。



「やられたことは、やり返すぞ!」

 ギリーと芽依子と、俺が北條の天幕に入ると、開口一番北條はそう言った。意味が汲み取れない俺らに北條は続ける。


「マントハンリの首都 マハトリオは堅牢な要塞だ。都市の周囲に立てられている壁は分厚く高く、さらにその回りには巨大な壕まである。探査系の魔法が張り巡らされている為、許可のないものの進入は極めて難しい。つまり、外からの攻略は容易ではないということだ。

 そこで、ギリーとリビィには工作員となり、マントハンリへ侵入。中からあの鉄壁の防御を打ち破ってもらいたい。」


「一つ疑問なのですが、僕はともかくリビィはどうやってマハトリオに入るのでしょうか?」

 ギリーはそこそこ名の知れた貴族の出だ。いわゆる庶子というやつらしいが、名門であることに違いはない。実家の名前を使えば、マハトリオへの侵入も非常に容易いのだろう。

 

 だが、俺は?

 マントハンリの隣国であり、宗主国のようなライファル教国で指名手配されている。

 こんな俺が、侵入が厳しいというマハトリオに侵入する?

 容易ではないだろう。


 全く真っ当な疑問だ。

 北條は、ギリーの質問にすぐには答えず勿体つけるようにニタニタと俺を見た。まるで、今からおいしそうな料理を食べるかのように粘っこい視線だ。気味が悪い。


「なんだ?俺に何をするつもりだ?」


 嫌な予感がして、一歩、二歩と後ずさる。

 まさか、俺もドーグ同様に殺されるのか?背中に嫌な汗をかいた。

 先ほどまでの会話の流れなど、頭の中からすっかりと抜け落ちる。

 北條は、なんの脈絡もなく突然と人を殺す。そういうやつだ。今回もそうかもしれない。

 いつでも、逃げられるようにと体内で魔力を燃やして身構えた。


 そのとき、後方で何か気配がした。

 チラッと後ろを見ようとした瞬間だ。何かに頭を押さえつけられた。ものすごい力だ。俺はそのまま有無を結わさずに地面に転がされた。


「おい!これはどう言うことだ!」

 

 体が動かない。

 なぜ?やばい?急にきた。これはやばい。俺は北條に殺されるのか?

 救いを求めるように、北條を見る。


 北條は、相変わらず俺を楽しげな表情で見ていた。

 殺される。きっと気紛れかなにかだろう。俺がドーグの拷問の時に嫌な顔をしていたとか、北條に秘密にしていることがあるとか、北條に敵意を持っているとか。

 北條が俺を殺そうとする心当たりが全くないわけではない。


 だが、こんなところで?

 こんなとこで死ぬのか?

 嫌だ、死にたくない。死にたくない。俺はまだ何もやってはいないんだ。

 俺はなんとか体を動かそうと力を入れた。

 動物のようなごわごわした手にがっしりと抑えられて、姿勢を変えることも出来ない。


 キキットか……悪魔め!

 キキットは手から自分の魔力を流し込むことで、魔法の発動も阻害できるんだったか?

 思い出して、実行しようとしたが案の定というか、魔法はうまく発動できなかった。


 くっそぉ。


「ほうじょぉ!どういうつもりだぁ!」

 俺は言葉に言語魔法で脅しの効果をつけて放とうとした。しかし、言語魔法もうまく発動してくれなかった。まずい。キキットに抑えられていたら再生魔法も使えない。それは大いに不味い。


 北條は俺の問いに答えない。ただ俺を見下して笑っている。横に目を向けた。ギリーは、状況が飲み込めていないという様子で北條と俺を交互に見ていた。


 芽依子は、いつの間にか北條の隣に移動し、腕にすがっていた。別に俺を助けるように進言しているという様子ではない。ただ雌として、雄に甘えているそんな感じだ。


 くっそぉ!だめだ。殺される。

 ゆっくり、ゆっくり北條が俺に近付いてくる。

 北條の手の辺りに、北條の魔法である黒い靄がもわもわと出現している。武器でも取り出しているのだろうか?


 やばい。嫌だ。やめろ!

 俺は必死に暴れようとした。血流魔法で、少しずつ近付いてくる北條に攻撃もしようとしたが全く上手くいかなかった。頭に何か霞がかかったみたいにイメージが出来ないのだ。


「なぁ、リビィ…」

 北條が、語り出す。それは今まで殺してきた奴等に語りかけていたのと同じようなトーンだ。北條は今から殺す相手にこそ語りたがった。


 ごくっと唾を飲む。


「お前はこの世界に来て最初の2年半を奴隷として過ごした。それは、壮絶な日々だったんだろう。

 

俺はさ、逆賊の徒に参加する転生者以外にも数人の転生者と会ってきたが、穢れた魂のやつは、どいつもこいつも醜悪な環境に生まれていた。だが、奴隷に生まれたのはお前だけだ。


 例えば、俺は、誰もいない魔物が出る森に捨てられていた。芽依存は、卸す金もない娼婦の子供として、孝之は貧民街の子供ばかり集まるスラムで孤児として、マキーラは広く名の知れた暗殺者の息子として生まれた。まぁ、魂が汚れていて、穢れた環境に魂が選ばれるというなら仕方がないってことだろう。

 アルが貴族の長男として生まれてきたってのが気に食わないが、それはまぁいい。


 みんな奴隷ほどひどくはない。奴隷はお前だけだ。リビィ。

 糞みたいな環境で過ごしたやつらばかりだが、お前ほどではない。俺たちは皆奴隷よりはまっしだったって思っている。そういう意味ではお前の魂が、一番穢れているのかもしれないなぁ。」


 北條がまた一歩近づく。俺は何かを叫ぼうとしたが言葉が出てこなかった。頭の中に、キキットの声で、「北條の話は妨げないことをお勧めしよう」と聞こえてきた。おそらくキキットが俺の頭に魔力を流し、発語を阻害しているのだろう。厄介な魔法だ。

 俺は、魔法だけでなく、言葉も奪われ、なすすべもなく北條の話を聞くしかできなくなった。


 北條が話し終われば、きっと俺は殺されるのだろうか?

 ならば、北條が永遠に話し終わらないことを祈るしかない。俺の命は北條の匙加減だ。俺にできることはもうない。

 

 いやいや、違う。何かあるはずだ。

 諦めそうになる心に鞭を打って、考える。そうだ。助かる方法を考えることはできるはずだ。何かないかと考えてもがくことをやめてはいけない。ここで諦めてしまえば、俺が殺したリクリエットやリンスさんに顔向けできない。俺は、世界を救って、自分の罪を清算しなければならないのだ。


「俺はなぁ、リビィ。お前を尊敬しているんだ。お前は、そんな下劣極まりない環境にいて、悪党であり続けた。独自の魔法を、独学で生み出し、他の子供奴隷たちを支配し、掌握した。


 年上の奴隷を魔法で脅し、自分の思い通りに動かしていたそうじゃないか。

 中には、お前の魔法が強力すぎて、心神喪失状態に陥る者もいたと聞いた。」


 北條が俺を尊敬している?

 俺が奴隷を支配した?

 心神喪失?


 一体何の話をしているのだ?

 まず、北條が俺を尊敬しているはずがない。というよりも北條が人を尊敬しているところなんて想像だにできない。北條は、常に誰をも見下し、そしていつでも教えてやるというスタンスで長ったらしく語るのだ。北條に尊敬は似合わない。


 そして、もっと意味が分からないのが、俺が奴隷を支配し、魔法で心神喪失に陥れたというところだ。

 そんな事実はない。たしかに、デクを支配していたことは認めよう。しかし、俺が支配したのはデクだけだ。後のやつらは、俺に対して反抗しないように脅して、関わらないようにさせていただけだ。


 あぁ、でも文句を言ってきたやつに対して拷問魔法を使ったこともあったか……

 それで、心神喪失?あんな未完成だった拷問魔法でか?

 ありえないだろう。

 おそらくは、スーズーが俺の悪行を針小棒大に、流布したのだろう。それが、北條の耳に入った。そうに違いない。

 

「さらに、お前は隷属の首輪を騙し、人を殺した。隷属の首輪をはめている人間が、命令以外で人を殺すなんて前代未聞だ。まず、隷属の首輪をつけられて、それに逆らおうという気にすらならない。まして、生まれてからずっと首輪付きだったわけだ。普通はどこかで諦める。俺の第二の人生はくそみたいなもんで、こうやって終わっていくんだって投げ出しても仕方がない。それをお前は、あきらめなかった。諦めず、自らの魂が定める通り悪に生きた。

 しかもだ。殺したのがあの火剣だ。将来を有望視されていた、あの紅蓮の火剣 リクリエット=リ=グランリースだ。紅蓮士 ファイライ=シンゲートの再来とも呼ばれ、将来炎属性の最上位魔導士になることが確定していたやつだ。グランリース家復興のために、世界のために粉骨砕身戦っていた偉大な義勇兵だ。

 非常に尊いライファル教国の、義勇兵の、人類の宝だ。そいつをお前は、隷属の首輪をはめながら、幼い身で殺した。すごいの一言に尽きる。俺だって、火剣とさしで戦ったら勝てるか怪しいものだ。それを、お前は見事に殺したんだ。

 

 そして、火剣の仲間に追いつめられると、世話になっていた奴隷を盾にして殺し、逃亡した。どうやったか隷属の首輪もその極限の状態で見事に外して見せた。

 お前は知らないかもしれないが、常識で言えば隷属の首輪はそう簡単に外れるものではない。外す方法はたった一つしかないんだ。どんな高名な魔導士でも、あの男を除き、一度はめられた首輪を外すことは不可能だった。


 隷属の首輪は、従王 エリシャンテ=サヴァードに多額の金を払わなければ外せない仕様になっていたんだ。それは、エリシャンテが隷属の首輪を作り、各地にばら撒いた時から変わらない絶対不変のルールだった。

 そんな隷属の首輪をお前は外した。

 いともたやすく、敵と戦いながら、追い詰められ、死の淵に瀕しながら、外したんだ。


 奴隷が、人を殺して、首輪を外して逃亡した。

 お前がしたのは文字に起こしてしまえば、確かにそれだけだ。だが、それは誰にも成せなかったことだ。誰も到達しえなかったことだ。前人未踏と言い換えてもいい。

 その前人未踏の偉業は、ライファル教国中に、いや全世界に衝撃とともに響き渡った。

 それはそうだろう?

 何度も言うが、何度でもいうが、今までの隷属の首輪の信頼を根底から覆す出来事だったわけだ。噂によれば、エリシャンテ率いるサヴァー独立国は、お前の事件の火消しに大変だったらしいな。クレームや問い合わせ、それから返品が続き、てんやわんやの大騒ぎだ。お前たぶん相当エリシャンテに恨まれているだろうな。


 お前は、この世界に転生して、三年もたたぬうちにそこまで登ったのだ。本当に、俺はお前を尊敬するよ。リビィ、お前はすごい。


 お前が成し遂げたことはまだある。逃亡中に魔物を先導し、火剣の仲間を襲わせて全滅させたことだ。人間が魔物を操るというのも世界には衝撃だった。今まで魔物をあやつるってのは、魔族にしかできないことであり、魔族と人間の違いを語るうえでの一つの要因になっていたからだ。

 お前は、それもぶっ壊した。この世界の常識をことごとく覆した。それが、悪魔の子供奴隷 リビィ。お前だ。」


 言いたいことはいっぱいあったが、言葉を発することができなかった。

 実際に俺がやってしまったことを言葉にされると悔しくて、憎らしかった。


 俺は悪くない。俺はそんな大人物ではない。前代未聞の犯罪を起こすのはガラじゃない。小悪党で、スーパーで万引きするとか、女を騙して貢がせるとかが関の山で、やむにやまれず一大決心をしてコンビニで強盗したら、失敗して死んでしまったとかそんな情けない奴だ。 


 頭がぐちゃぐちゃして、そしたなぜか妙に悲しかった。

 リンスさんやリクリエットを思い出してしまったからかもしれない。

 北條が、俺を褒めながらも見下し、キキットに抑えつけられ何もできない様を、ニタニタと笑ってみているのが腹立たしかった。



 うるせぇよ。ほんと、どいつもこいつも、魂がどうとか、人を殺したからどうとか、闇子がどうとかうるさすぎる。俺は、俺だ。それ以上でも以下でもない。やってしまったことは仕方がない。

 生きるしかないんだ。このままやるしかないんだ。いくら穢れていても、穢れても、奴隷スタートでも何でもかんでもやるしかない。いくら悪魔と誹られようと俺はもう世界を救うとそう決めたのだ。


 北條、お前の賛歌は明らかに俺を貶している。馬鹿にしているようにしか聞こえないんだよ。いったい何が目的だ?俺を貶めてお前は楽しいのか?

 楽しいんだろうな。むかつくよ。何より反抗や抵抗ができない自分が一番憎らしいよ。


「さて、そんな敬愛するべき仲間の魂の性質だが、これがなんとも乙なものだ。

 一口両舌。つまりは、二枚舌ってことだ。

 これはよくない。信用に足りない魂の性質だ。

 今は、お前は俺を組織のリーダーとして付いていく公言しているが、お前は何しろ二枚舌だ。

 心のどこかで、つくべき組織を決めているかもしれない。そもそもお前は初めからどこかの施設のスパイかもしれない。そうでいながら、お前はさらっと俺たちに耳障りの良い言葉を使っているのかもしれない。

 何しろ魂の性質ってのはなかなかに的確にその人物の性質を突く。お前が他の組織、例えばライファル教国に寝返っても不思議ではない。その際も、お前は俺に対し、最後の最後まで甘ったらしい言葉を言い続けるのだろうと推論することもできる。

噂によればお前主人のグレイ=タイラントに対しても、従順で聞き分けのいい奴隷を演じていたそうじゃないか。

 はっきり言おう。俺はお前を信頼していない、信用できない。俺が信用できないやつに対して何をしてきたか、お前はこの4年でよく見てきたな?」


 来たと思った。これが俺が殺される理由なのだろうか?

 ふざけるなと思う。言ってみれば、俺は自分の魂の性質というよくわからないもののために殺されようとしているということだ。俺がなにか敵対的な行動を北條に仕掛けているのではないかと疑っているから殺すということなのだろう。濡れ衣だとはいいがたいが、まだ俺は何もしていない。

 それなのに殺されるなどたまったものではない。


 北條が俺に向けて一歩、歩みを進めた。北條と俺の間にはもう数歩ほどしかない。

 深く目をつむる。しかし、何も見えないのが怖くなり、目を開けた。それも数秒でやめて瞑る。やはり自分が死ぬときに北條を見ながら死ぬのが嫌だったからだ。

 身体が、知らず知らずに身体が震えていた。怖い。いやだ。死ぬのは嫌だ。

 

 そんな俺の恐怖を感じてか、北條は突然に声を出して笑いだした。


「ふっ、はははははははは。

 怯えすぎだ。リビィ。安心しろ。冗談だ。

 It's a ジョークだ。リビィ。少しからかっただけだ。大丈夫、危害は加えない。あまりにも、お前が過剰に反応するからちょっと遊んだだけだ。」


 た、たすかったのか?

 北條が、合図をキキットに送ると、言葉の阻害が解かれた。

「どういうことだ?」

 俺は安堵する間もないほど、すかさず質問した。解かれたのは言葉の阻害だけだ。キキットは、いまだに俺の頭を押さえ続けている。まだ、安心するには早い。

 北條は、俺の問いには応えずに語り始めた。

「話を戻そうじゃないか。ギリーの質問だ。リビィが、マハトリオに侵入する方法だが、これを使おうと思う。」


 そういって、北條は忌々しい隷属の首輪を取り出した。そして、隷属の首輪を人差し指でくるくると回し、手遊びしている。北條は、凶悪なほど楽しそうに、俺の様子をうかがっていた。俺の忘れたい記憶をつついて、楽しんでいるのだろう。本当に性格が悪い。


「リビィには、ギリーの奴隷として、マハトリオの下に侵入してもらう。」


 また俺は奴隷に戻るのか?

 また、俺は人に支配されるのか?


「なるほど、僕の奴隷としてなら疑われずに、侵入できるというわけですね。ホージョウさんさすがです。」

 

 今までの一連の流れをぼーっと見ていたギリーが感嘆の言葉を上げた。俺は、ギリーのほうを見て、一瞬北條から目を離した。

 

 その時だった。

 カチャリ‼

 首輪が俺の首にはめられた。懐かしいひんやりとした感覚が首を触る。

 

「安心しな、リビィ。その隷属の首輪は別にお前を縛らない。

 プログラムされている禁止事項は一つだけだ。俺を裏切らない。それだけを禁止するものだ。なにも問題ないだろう?お前が嫌がると思って強制命令権の行使対象も設定していない。基本的に、アクセサリーと一緒だ。あの頃の奴隷時代とは違う。」


 隷属の首輪は、禁止事項や許可する行動範囲や隷属する対象を細かく設定できる。それをほとんど未設定にしているから問題ないだろうというのが北條の主張だ。


 冗談ではない。

 やはり、せっかく手に入れた自由を踏みにじられたようで、ひたすらに気に食わない。


 だが、反抗することはできなかった。

 なぜなら、北條が試すような視線で、俺を見ているのが分かったからだ。ここで、反抗したら、確実に殺される。俺は、グレイの屋敷から逃げ出したあの日に、自由を手に入れたと思っていた。しかし、違うことがよくわかった。俺は、何も自由にはなっていなかった。ただ。支配される相手が変わっただけだ。


 このままで、終わると思うなよ。北條。


 俺は、あえて笑った。

「驚かすなよ。北條。了解だ。俺はお前の指示に従おう。ギリーの奴隷に成りきり、マハトリオに侵入すればいいんだな。」


 そんな俺を見て、北條はさらに楽しそうに笑っていた。

「そうだ。お前もそこで義勇兵になれ。作戦開始までに義勇兵として名を上げろ。周囲からの信用を勝ち取れ。そして、最後には裏切り、マハトリオに死と絶望を振りまく悪逆非道の使徒となるんだ。お前にぴったりの作戦だろ?一口両舌。」 

 

「任せろ。必ずお前の期待に応えてやる。」

「期待しているよ。」


 キキットの力が弱まる。もう大丈夫だろう。なんとか殺されずに済んだ。ようやく安堵する。


 キキットが俺から離れながら、俺にしか聞こえないようにつぶやいた。

「モトキを攻撃しようとしていたこと、今は黙っておいてやる。」

 背筋に冷たいものが流れたが、今は考えないことにした。


「詳しい話は、ギリーと詰めておく。お前はもう下がっていいぞ。マントハンリへの出発は明日とする。準備しておけ。」「わかった。」

 忌々しい鉄の感触を確かめながら、立ち上がり北條をまっすぐに見てから、踵を返した。

 北條は、最後には俺を挑発するような目線を向けていた。


「リビィ、お別れに私に抱かれたくなったら、今夜私のとこにきてもいいのよ」

 天幕から出る前に、芽依子の声が聞こえてきたがそんなのは無視で良い。


 とりあえずは、北條のために動いてやろう。だが、最後にはお前も殺してやるよ。チャンスは必ず来る。この屈辱わすれない。


 俺はぐっと手に力を入れて握りこぶしを作った。



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