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外道は外道のまま世界を救う  作者: カタヌシ
乳幼児期 奴隷編
21/54

報い

 目が覚める。

 頭が痛い。なんだったけ?

 俺はどうして、寝ていたんだっけ?

 すぐには思い出すことが出来なかった。


「起きたようです。さぁ、グレイ殿。質問していただけますね。」

 顔を上げようとして、体が動かないことに気付く。見えるのは、床だけ。

 今までにないほど、隷属の首輪が光っている。

 どうやら、直接的な行動制限をかけられているらしい。


 くっそ。なんだ、俺はたしかリクリエットを見つけて、安心したところで襲われて、それで?

 いまは、どうやら屋敷に戻っているようだ。

 「おい。2567番。お前は、リクリエット=リ=グランリースを殺害したのか?答えろ。」

 グレイが、隷属の首輪を経由して聞いてきた。これは、主人の命令の絶対順守だ。

 魔力判別石を飲まされたときと同じで、この命令に逆らうことはできない。

 

 まずい。

 口が勝手に動く。言いたくない。言わされたくない。

 けれど、そんなことは隷属の首輪が許さない。

 「はい。私は、リクリエット=リ=グランリースと名乗る義勇兵を殺害しました。」

 

「馬鹿な。なんてことを!!!」

 グレイの叫ぶ声が聞こえた。

「リビィ。う、うそでしょ。」

 リンスさんの絶句する声も聞こえた。

「やはり、貴様が、殺してやる。お前は絶対殺してやる。」「ま、まて。ダリッデ」

 誰か知らない奴の怒号と俺に襲い掛かり、誰かにとめられる声と音が聞こえた。


 終わった。俺は静かに終わりを悟った。

 リンスさんには、聞かれたくなかったな。

 もうどうでもいいか。どうせ、俺は殺されるのだろう。

 人殺しの奴隷などに価値はない。ならば、さらっと殺されて終わりだ。


「まってください。きっと、きっとこれは何かの間違いです。リビィが人を殺すはずがありません。第一、隷属の首輪を付けられているものがどうして人を殺せるのでしょうか。」

 

 リンスさんが俺をかばってくれているのか?

 俺の目の前に、リンスさんの細い足が来る。他の者たちとの間に入ってくれているようだ。


「それは、私も疑問です。隷属の首輪は人殺しを禁じています。隷属の首輪をしているものが、人を殺す方法は、大きく二つです。」

 冷たい女の声だ。これで、この場には、少なくともリンスさん、グレイ、ダリッデと言う奴、ダリッデを止めた奴、そして冷たい声の女の5人がいることになる。

 もし、罪から逃れるのであれば、最低でもリンスさんを除く4人を排除する必要がある。そんなことが可能であろうか。隷属の首輪がある状態では、無理だ。まず、一切体が動かない。


「そんなことはどうでもよかろう。その奴隷は、お前らにやる。煮るなり焼くなり、好きにしろ。全く酷い損害だ。」

 グレイは、悪態をつきながらその場を後にしようと動き出す。その音が聞こえた。

 しかし、それはダリッデをとめていた奴に阻止されたようだ。

「どけ。邪魔だ。」

「いや。グレイ殿。話は終わっていない。奴隷が他人への損害を与えた場合、それを補填するのは主人の役目だ。つまり、人殺しの罪は、主人であるグレイ殿にある。」 


「それに、グレイ殿が殺すよう命じた可能性もあるのです。」

 ダリッデをとめていた奴を補足する形で、冷たい声の女が割ってはいる。

「奴隷が人を殺せる二つの可能性。一つは、主人の命令です。グレイ殿、あなたがこの奴隷にリクリエット様の殺害を命じてはいませんか。」


 ふっ、これはいい。お前が疑われているのならば、お前に罪をなすりつけてやろう。

 道連れにしてやるよ。

 グレイ=タイラント。

 おまえは、俺とここで死ぬのだ。こんなところで死ぬのは、無念だが、お前を道連れに出来るのであればそれはそれでいい。さぁ、死のう。グレイ=タイラントよ。


「ぼ、僕は、グレイ様に命令されました。魔物を増やす実験をしているグレイ様は、それを調査に来たものが邪魔だって。7だから僕にリクリエット様を殺せと命じたのです。」


 俺は、言語魔法を最大限にして、大声で怒鳴った。もちろん、大嘘だ。だが、言語魔法で、この言葉は普通よりも真実と感じられるようにしている。この言葉は、すっと人の心に浸透するのだ。グレイですら、そう命じたのではないのかと、錯覚するようにと魔法を発動させた。


 しかし、すぐに俺の試みはグレイにつぶされる。グレイ自身にはうまく魔法が効かなかったようだ。

 当然といえば、当然だが悔しい。くそが。

 一瞬の沈黙の後、ダリッデがグレイにつかみかかろうとするのを先んじて、グレイは俺に命令したのだ。

「奴隷の分際でなんて嘘を。おい。真実をはなせ。」

 その言葉に、瞬時に隷属の首輪が発動する。

「いま、語ったことはすべて嘘です。どうせ死ぬのならば、せめてグレイも道連れにと思いました。

 私は、私の意志でリクリエットを殺しました。」

 

 思っていたことが、自然と口をつく。

 なんだよ。これ。人権も何もない。黙秘権もなにもあったものではない。

 

 さいていだ。最悪だ。

 心の中で、悪態をつく俺の耳に、リンスさんの泣き声が聞こえてきた。

 「そ、そんな……リビィ、リビィ。どうして?」

 胸が締め付けられる。

 本当に俺は取り返しのないことをしてしまったんだな。

 その泣き声で改めてそう気付いた。

 嘘をついたことさえも後悔した。そんな嘘つきな姿をリンスさんには見せたくなかった。


 裏切ってはいけない人を裏切ってしまった。

 自然と涙が出てきた。ごめんなさい。リンスさん。ごめんなさい。

 でも、違うんだ。本当に、本当は救おうとしたんだよ。

 殺そうともしたけど、救おうともしたんだ。

 殺したくなんてなかったんだ。それだけはわかって欲しいんだ。リンスさん。


「この悪魔が。いまさら嘘なきしたところで、お前の罪は消えん。」

 グレイが俺をののしって唾を吐きかけてくる。

 今さら、グレイに何を言われても何も感じない。

 ただ、リンスさんに申し訳ない。せめてもの救いが、隷属の首輪で押さえつけられていて、身動きがとれないことだろうか。これのおかげで、リンスさんの顔を見なくてもすむ。


「あなたはどうやってリクリエット様を殺したのですか?」

 冷たい声の女が、聞いてきて、グレイもそれにあわせて「答えろ」と俺に命じる。

「大量の魔物にリクリエットを襲わせました。それで、負傷したリクリエットに治癒すると騙し、止めを刺しました。」

 首輪が俺の意志を無視して事実だけを語らせる。

 違う。治療すると騙したんじゃない。確かに結果的に言えば、そう隷属の首輪を騙して、止めをさしたみたいだ。けれど、違うんだ。俺は助けようとしたんだ。まさか死ぬなんて思っていなかったんだ。

 心の中で言い訳するが、声が出なかった。

「な、なんて卑劣な。」「その年でそんなことを?」「り、リビィ……」

 その場にいる全員が絶句する声が聞こえた。

 その中で、大きな音がなって、こちらに高速で何かが近づいてくる。

 それが、俺の前で何かにぶつかって止まった。


「じゃ、じゃまをするな。スーズー。」

 ダリッデがわめき散らしている。

 どうやら、俺を殺そうと突っ込んできたダリッデをスーズーという奴が止めたみたいだ。

 もうどうでもいいよ。好きにしてくれ。

 こっから逆転なんて無理だ。本当に煮るなり焼くなり好きにすれば良い。


「待ちなさい。ダリッデ。このものは、きちんと適切な場所で裁くべきです。もちろん、グレイ殿あなたもです。」

 どうやら、スーズーというのは冷たい声の女で間違いないようだな。

「あぁ?俺は関係ないとさっきそいつが白状しただろう。」

「そうですね。ですが、先ほどソーラスが申し上げたように、奴隷の罪は主人の罪。つまりこの奴隷の罪はグレイ殿の罪なのです。」

 そういえば、さっきそんなことも言っていたな。

 ということは、グレイに殺人の罪を着せることは出来るということか。いいねぇ。これはいい。

 

 さぁ、どうするグレイ。


「あぁ、そのことならばそこの奴隷に言え。名をリンスというのだがな。その人殺し奴隷の主人は、書類上リンスになっている。痛い損失ではあるが、二人をおぬしらに引き渡そう。」

 グレイはそれだけ言うとその場を後にしようと再び歩き出す。


 ちょっと、ちょっと待て。

 おい。まてよ。グレイ。まてよ。俺の所有者は、グレイだろ?

 

「待てよ。」

 当然のように、ソーラスと呼ばれた男が、グレイを止める。

「まだ何かあるのか?」

 グレイは心底不快そうな声を出した。

「そんなことは許されない。結局は、リンスという奴隷もおまえの所有物だろう。そんな事は認められるわけがない。」

 ソーラスが怒鳴るが、グレイは笑った。

「おい。下民のお前に良いことを教えてやろう。この国には法律って奴があるんだ。教皇様が我らのために記されたルールだ。さて、この国の法律では、奴隷の罪をかぶるのは、その主人と明記されている。しかしだ。その主人の主人までは明記されていない。

 それに裁判の判例だってあるんだ。

 あらかじめ言っておくが、奴隷が奴隷の所有権を有するのも違法じゃないし、隷属の首輪の命令権と所有権を別に設定するのも違法ではない。あまたの奴隷を所有する奴隷商の知恵だと思ってくれてさしつかえない。」


「そ、そんな。そんな言いわけが通じると思っているのか。

 この奴隷に人殺しを命じていなくても、殺せる方法や魔法を教えたのはお前だろう。」

 次に、ダリッデが怒鳴った。

「違うな。なぁ、2567番。答えろ。」

 すかさず、グレイが俺に命じた。

「はい。自分で考えた方法と編み出した魔法です。」

 そして、答えたくもないことを答えさせられる。

 

 ちょっとまてよ。このままでは、俺の道連れにリンスさんが殺されるのか?

 いやだ。

 なんでだよ。リンスさんは関係ないだろう。俺が勝手にやって、勝手に殺したことだ。

 リンスさんは、何も悪くない。


「ちっ、こんな餓鬼がか?信じられない……」

「それについては、おそらくだが、2567番は闇子だろう。生まれながらに闇属性の魂を持っている。穢れた存在だ。」

 

 闇子?初めて聴く言葉だ。

 闇属性については、リンスさんから昨日聞いた。

 後天的に闇属性を有したものは、ゴブリンに落ちるだったか?

 ならば、最初から闇属性だったら?それが闇子なのだろう。


「この奴隷が闇子であるというのには、同意しましょう。魔物を先導した事実や不快な感じのする言葉。闇属性の魔法の効果なのでしょう。ですが、だったらなんだというのでしょうか?」

 それにスーズーだったか?冷たい声の女が反応する。

 俺の参加できないところで、俺に関して意見が飛び交っている。酷く不快だが、今はリンスさんのことだけしか考えられない。本当にリンスさんは俺のために殺されてしまうのだろうか?

 そんなことがあっていいのか?

 

「本当に学のないやつらだ。生まれながらに光や闇属性をもっているものは普通の人間とは違う。高い知能を持っているし、成長速度も並ではない。そして闇属性を持った闇子の場合は、生まれながらに狡猾で、残忍だといわれている。生まれながらの、悪の天才。それが闇子だ。闇子は本能的に、誰に教わるわけでもなく自分に適した闇魔法を使うらしい。その最たる例が、従王 エリシャンテ=サヴァードだ。もともと、闇子だったエリシャンテは、若くして隷属の首輪を作って世界中にばら撒いた。なぜそんな事が出来たのか。簡単だ。最初から、魂に刻まれていたからだ。闇子とは、そういう存在なんだ。そして、そこの奴隷も同じなんだろうよ。」


 珍しく長々とグレイは語った。

 初めて聞くことが多かったが、とりあえず、エリシャンテとかいう野郎を殺したくてたまらない。

 隷属の首輪をつくった?これさえなければ、と何度思ったことか。

 つまり、エリシャンテっていうやつさえいなければ、俺はこんなにも苦しまなかったのだ。

 その報いはかならず、受けさせてやりたい。


 まぁ、その可能性は限りなく低いわけだが……

 

 闇子か。なんかえらく大層な名だ。俺は、ただの転生者だ。もともと魂が穢れているってのならその通りだが、それは前世の記憶なんて余計なものをもっているからだ。別に、才能があるわけではない。

 

 たとえ、奴隷スタートでなかったとしても、遅かれ早かれ俺は、犯罪を犯し、その報いを受けていただろう。俺は、前世でも小悪党の犯罪者だったのだ。

 生まれ変わったって、性格が変わったわけではないのだ。当然だろう。

 

 だが、リンスさんはどうだ。リンスさんに一体何の罪があるというのだ。

 首輪に押さえつけながらも何とか声を出した。

「僕が生まれながらの悪だというならば、リンスさんに一体何の罪があるのですか。僕は、たしかに卑劣な手を使いリクリエットを殺しました。ですが、リンスさんは関係ありません。リンスさんはどうか許してください。」


 俺は懇願した。こんなときでも、言語魔法に頼らなければならないとはなさけない。

 必死に魔法をこめる。同情を買うように、俺だけが穢れていて、リンスさんは何も悪くないと思ってもらえるようにと、魔法を発動させた。


「いいのです。リビィ。たとえ、あなたが闇子でも。私は、あなたに人の命の尊さを教えることが出来なかったのです。人は、皆等しく尊いと私は教えなければならなかった。たとえ、奴隷であっても。それが、私の罪でしょう。」

 リンスさんは泣いていた。


「もういいだろう。俺は行く。二人は好きにしろ。俺としても、重宝していた奴隷と今後高く売れると思っていた奴隷を二匹も手放すんだ。これは相当な痛手さ。この辺で手打ちでだろう。」

「ソーラス。ダリッデ。これ以上は、グレイ殿をこの場にとどめる理由はないでしょう。くやしいですが、今回の件。グレイ殿は、無関係です。」

 スーズーが首を振って、動こうとする二人を制止するのが聞こえる。

 隷属の首輪の命令権をスーズーに渡したたあと、グレイはその場から立ち去っていった。

 

「だったらもう良いだろう。殺しても。俺はもう我慢の限界だよ。二人とも俺がぼろぼろに殺してやるよ。じゃないと、気がおさまらねぇよ。」

 ダリッデがわめいた。

 くっそ。二人ってか。リンスさんもやっぱり殺す気なのか。

 どうにかして、この場をやり過ごしてリンスさんだけでも助けなければ……


「だめです。二人にはしかるべき場所で裁きを受けていただきます。」

 ダリッデをスーズーは冷静にいさめた。それに、ダリッデは激昂する。

「おい。こっちは、リクリエット様を殺されてんだぞ。相手は、奴隷だ。殺しても問題ないはずだ。」

「いいえ。奴隷でも犯人は、見目5歳にも満たぬ子どもです。それを殺して、犯人として発表するのですか。仮にも、この奴隷はグランリース家の人間を、紅蓮の火剣と呼ばれた義勇兵を殺したのですよ。誰が、それを信じるというのですか。今の状態で、この奴隷を殺せば、悪者になるのはわれわれです。

 ならば、しかるべき場所できちんと罪を告白させたのち、死にたくなるほどの苦痛を味あわせ、見世物にしたうえで、公衆の前で自身の罪を懺悔させ、斬首し、そして晒しあげれば良いのです。」


 スーズーあくまでも冷静に、そして冷淡にそういって俺をにらんだ。見えたわけではないが、ものすごく冷たい視線を感じた。込められたあまりの怒気に、ぞっと背筋が冷える。この女も俺を心底憎んでいるというのだろう。

 

 斬首か……痛いのか?

 確か、一瞬で死ねるわけではないんだったな。前世の記憶だが、首を落とされてから十五秒から二十秒間瞬きした例も存在するらしいと聞いたこともある。それだけずっと、死ぬ恐怖に怯えなければならないのか。それは、いやだな。


 いや。ちょっと待てよ。

 そうだよ。それだけの時間があるのであれば、可能ではないのか?

 どうせこのまま待っていても死ぬのだ。試してみるか……


 その瞬間、俺は一つの可能性を思いついた。普通は試そうともしない手だろう。

 しかし、俺はそれにすがるしかないだろう。 


「ちっ、おい。ソーラス。おまえはどう思うんだよ。」

 ダリッデは、口ではスーズーには勝てないと悟ったのか、話をソーラスとか言う男に振った。

「任せるよ。そこの奴隷が死ぬのならそれでいい。願わくば、一番残酷に、一番苦しんで死んで欲しいね。」

「でしたら、私に任せていただけませんか。なるべく苦しませることを約束させていただきます。私にとって、リクリエット様がすべてだったのです。それを奪ったものをただでは殺しません。」

 底冷えするような声だった。

 

 こわい。だが、俺はリンスさんを殺させたくない。

 俺のせいで、誰かが死ぬなんてもうごめんだ。おまえらに、殺されている場合ではないんだよ。


「ちっ、わかったよ。お前に任せる。スーズー」

 ダリッデは、しぶしぶ了承した。

 さぁ、一発勝負だ。こい。一瞬でも俺を自由にしたときが勝負だ。


「さぁ、いくぞ。もし不審な動きをしたら、お前の守りたがったリンスとか言う奴隷を殺す。わかったら、たって。」

 スーズーが俺に向けてそういった瞬間だ。首輪の力が弱まった。

 

 瞬時に俺は、血魔法を発動させた。

 そして、俺の首をスパッと切った。隷属の首輪のすぐ下のほうだ。

 魔法で、血を操作し、隷属の首輪をその切断面から外す。

 大丈夫だ。魔力駆動で体は動かせる。

 意識は薄らいでいるが、何とか保たれている。

 他の奴らは、突然の事で混乱しているのか、動けていない。


 隷属の首輪が外れると、すぐに首と体をくっつけて、治癒魔法で癒した。

 あほみたいに血が飛び散ったが、大丈夫だ。上手くいった。血なんていくら失ったところで、すぐに増やせる。忌々しい首輪がようやく外れた。笑いがこみ上げてくるが、グッと我慢して、行動を起こした。


 俺の命を懸けた首輪からの大脱出から少し遅れて、リンスさんが大声で叫んだ。

「いやゃー。リビィ、リビィ、く、首がー」

 その声に我に返った義勇兵三人が行動を起こす。

 しかし、遅い。俺が、血のカッターを放つ方が速かった。


 俺の最大威力の攻撃が三人を襲った。その瞬間だ。

 三人と俺の魔法の前に、リンスさんが割って入った。


 俺の魔法が、リンスさんの体を切り裂いた。腕が飛び、足が斬れ、そして、体がざっくりと割れる。

 いやだ。いやだ。いやだー。

 

 時間がゆっくりなる。リンスさんがゆっくりとばらばらになって落ちていく。

 いやだ。

 死なないで、リンスさん。

 あの温かい手で俺をまたなでて欲しいんだ。

 俺は、俺は、俺は、あなたが母さんだったらまともになれた気がしていたんだ。

 いやだ。

 いやだよ。

 リンスさん。

 リンスさん。リンスさん。

 リンスさん。リンスさん。リンスさん。

 リンスさん。リンスさん。リンスさん。リンスさん。

 

 生き返って。おねがいだ。死なないで。

 「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 あたりに無差別に魔法を打ちまくる。打ちまくる。PMを燃やして、なにもかもを燃やして打って打って打ちまくる。しらない。もうなにも知らない。こんなのってないだろう。

 俺は、リンスさんを助けようとしたんだ。

 それがなぜ。なぜなんだ。酷いだろ。ひどすぎるだろ。

 これが因果応報って奴なのかよ。ち、ちくしょーが。


 殺してやるよ。お前ら三人も、まとめて殺してやるよ。


「リ、リビィ、ひ、人は、こ、殺しては、いけま、せん……」

 その時、聞きなれた優しい声で、そんな言葉が聞こえてきた。

 床に目を向ける。そこには、叱る様な顔をしているリンスさんがいた。

 見事に四肢を切り裂かれ、ばらばらになりながら俺をみていた。

 

 しってるよ。そんなこと、けどこいつらのせいで。リンスさんが。

 俺は、違うんだよ。殺したくなんてなかったんだよ。

 リクリエットもころすつもりじゃなかったんだ。

 ひたすらに頭が痛んだ。


 俺は、逃げ出した。

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