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外道は外道のまま世界を救う  作者: カタヌシ
乳幼児期 奴隷編
16/54

行動開始

 俺は全身に痛みを感じて起きた。咄嗟に周囲を見渡してみるが、痛みの出所は、疑いようもなく隷属の首輪だ。首輪が強い光を放っていた。あたりはすっかり暗くなり、夜になっている。


 これは、屋敷に戻ったら罰が待っているのだろうな。めんどくさい。


 億劫になりながらも、体を起こした。

 ドサッと何かが倒れる音がした。どうやら、リクリエットの亡骸を跳ね除けて起き上がってしまったみたいだ。急に、意識を失う前のことを思い出し、吐き気を催すが、すんでのところで何とか耐える。そういうのとは決別だ。


 今は、とにかく屋敷に戻らなければな。ただでさえ、魔力を持っているということで、グレイに目を付けられているのだ。これ以上、注目されたくはない。今すぐ戻り、うまく言い訳せねばならない。大丈夫だ。うまくやれば、多少の罰は受けるだろうが、グレイが出てくるほどの大事にはならないだろう。


 基本的に、俺たちの教育に関してグレイは、リンスさんを含めた3人の世話役奴隷に任せていた。もし、三人に対処できないほどの問題が起こったり、気まぐれを起こしたり、ストレスを解消したくなったりしたときだけ、グレイは俺たちの教育に介入した。そして、世話役奴隷たちはだいたいがぬるい。リンスさんは置いておくにしても、後の二人の世話役奴隷は事なかれ主義に徹している。その為、ちょっとしたことでは大事にならない。それに、俺には言語魔法や誤認魔法などの魔法がある。思考を誘導し、大事にはしない。

 

 さて、リクリエットの死体をどうするかだが。

 もちろん、屋敷に持って帰るわけにはいかない。だが、この場においておくのも得策ではないだろう。誰かに見つかればこの異常な量の血を見て、なんと思われるかわからない。それに今後のことを考えると操れる死体は自分のこまとして残しておきたい。

 となれば、どこかに隠すのがいいな。それも偽装魔法で見つからないようにするのがいいだろう。


 そう決意して、身体強化と魔力駆動でリクリエットの死体を持ち上げた。その時、不意に気付いた。魔物たちの死体が綺麗さっぱりとなくなっているのだ。確かに気を失うまでは、そこらに存在していた。しかし、気を失ってから数時間で、死体は一つ残らず消えてしまっている。しかも、消えているのは、魔物の死体だけというのがまた気味が悪い。

 俺が、撒き散らした血もリクリエットの真っ赤な鎧も、途中でちぎって投げた俺の腕も綺麗にその場に残っている。本当に、魔物の死体だけがきれいになくなってしまっていた。

 

 考えられる理由としては、「誰かが持ち帰った」か、「そもそもそ、そういうものである」か、か。

 俺は、魔物についてほとんど何も知らない。ライトノベルや漫画、ゲームなどの知識としての魔物についてはいろいろ知っている。作品によって設定が違うが、倒せば何かしらのドロップ品やら魔石を落としたり、もしくは動物の亜種のような扱いで解体することで素材を手に入れたり、討伐証明部位を取ったりとかいうのが多かったように思う。

 この異世界では魔物は倒せば、何も残さず消える、というパターンなのかもしれない。

 

 もしそれが、事実であるとすれば、まあ、それが事実なのだろう。そう考えるのが一番自然だ。だが、それでは本当にただの倒し損ではないか。そもそも、義勇兵とやらはどうやって生計を立てているというのだろうか。疑問に思うが、この場では誰も教えてはくれないし、わからない。

 いろいろと学ぶ必要があるのだろう。この世界について。それから、魔法についてもだ。

 なぜ、俺の魔法はあんなにも威力が弱く、リクリエットの魔法はあんなにも威力が高かったのか。俺が、感じた直感を信じるのであれば、リクリエットの炎の剣や壁にこめられた魔力は、あきらかに俺のそれよりも少なかった。俺の魔法の方が、確実に大量の魔力が込められていた。

 しかしだ。俺の攻撃魔法は、熊の魔物相手に十分な威力を発揮しなかった。このあたりも知る必要があるのだろう。独学でなんとか学んできたが、そろそろ教えを請う時期にさしかかっているのかもしれない。

 世界を救うとなれば、世界を旅することにもなる。そのためには、自分の殻に閉じこもり、グレイの屋敷の中だけで生活を完結させているのではだめだ。さしあたり、奴隷屋敷での授業や、リンスさんの魔法の授業を受けてみるのが良いのかもしれない。


 とにかく、まずは、リクリエットの死体を隠して、屋敷に戻ろう。考えるのはそこからでいい。


 俺は、リクリエットに適当に鎧を着せてから担ぎ上げ、すっかり暗くなったあたりを慎重にグレイの屋敷に向かって歩く。ちなみに、辺りの血やちぎった俺の腕は放置した。

真っ暗な闇を皮肉にも、首輪から発せられる光が、光源となり周囲を照らしてくれたおかげで楽に進めた。幸いに、魔物に会わなかったのは、ただの偶然か、青い熊の魔物を追い払ったからなのかはわからないが、とにかく俺は魔物に会うことなく、森の終点である崖にたどり着いた。場所から考えても、俺が飛び降りて入ってきた崖で間違いなさそうだ。

 リクリエットを担いだ状態でも、崖は容易に登れることが出来、俺はもと来た道を引き返す形で魔物の森をあとにした。リクリエットは、途中、裏山の中に偽装魔法を入念にかけて、隠しておいておいた。

 その際、腐りにくくするためにすべての血に魔力をたっぷりと含ませておいた。魔力には、防腐作用があることはこの2年の実験で検証済みだ。魔力をこめたパンを、数ヶ月放置しても腐らず食べれたことから考えても、リクリエットの死体はしばらくは腐らないだろう。ちなみにだが、数ヵ月後パンを食べたのは、デクである。

 偽装魔法も入念にかけておいたし、どうやら崖を越えた先のグレイの裏山は魔物が発生しないらしい。とりあえず、あとは誰にも見つからないことを祈るしかない。と、何度もリクリエットを振り返りながら、後ろ髪を引かれる思いで、俺はグレイの奴隷屋敷への帰路を急いだ。


 屋敷に帰る上での偽装工作として、まず服を治した。俺の服は、俺の血で出来ていた。血での回復魔法を使う際に、いちいち服を脱いでいたのでは、格好が悪いし、非常にめんどうだ。だから、俺は、血で服のような生地を作り、それを成形して服を作ることに成功していた。この血でできた服は、俺の血で簡単に修復可能というメリットがあった。

 他にも、偽装工作として木に足を思い切りぶつけて、傷つけておいた。歩いている道中に足を挫いたと言い訳する為だ。


「リビィー!リビィ!」

 屋敷に近づくと、リンスさんが俺を探す声が聞こえてきた。俺は、わざと足を引きずるように歩いて、そちらに近づいていった。

「リビィ!」

 リンスさんは俺を見つけると、走ってきて俺を抱きしめてくれた。

「心配したのよ。リヴィどこにいたの。」

 あぁ、やっぱりリンスさんの腕の中は温かい。胸の中から温かいものがあふれ出すような感じがした。

 不意に泣きそうになる。リンスさんの温かさが、今は少し辛かった。

「大丈夫です。心配かけてごめんなさい。」

俺は素直に頭を下げた。そして、その後嘘八百を並べ、リンスさんを騙した。そのときは、もう胸の痛みは感じなかった。結果から言って、俺は3食食事抜きという軽い罰を与えられただけで許された。グレイにも今回のことは報告されていないようだ。どうやらリンスさんが色々手を回してくれたようだった。


 次の日、俺は早朝からリクリエットの死体を回収しに裏山に入った。リクリエットの死体はすぐに見つかった。まずは、その死体の持ち物を物色することにした。リクリエットの荷物をひっくり返して、持ち物を確認する。

 まず、目に付いたのは模様の入ったコインだ。それは、小さな布の袋に入り、鎧の内側に隠されるように仕舞われていた。コインは、形状や金属の種類から推測するにお金なのだろう。リクリエットが持っていたのは、金、銀、銅のコインと鉄のコイン、それとよくわからない白く光る金属で出来たコインの5種類だった。それぞれ知らない白人風の顔が表面に描かれており、裏面には植物の絵がそれぞれ描かれていた。表を見たり、裏を見たりしてみるが、結構精巧に作られている。前世の硬貨とも遜色はない。この世界の文明は俺が思っているほど進んでいるのかもしれないな。


 白く光る金属の硬貨が1枚、金貨が4枚、銀貨が8枚、銅貨が15枚、鉄貨が10枚か。

 これがどのくらいの価値があるのかは全くわからない。しかし、金とは力だ。前世では金さえあれば、大抵のことはできた。金持ちどもが、世界を回し、牛耳っていた。この世界では金がどれほどの力を発揮するかはわならないが、所詮は人の作った社会だ。根本はそう変わらないだろう。大切にしなければならないし、増やす努力をしなければならない。にしても、金か。正直ニヤニヤが止まらない。金貨とか響きが最高だ。それにこの白く光るのなんて金貨よりも価値が高そうだ。

リクリエットは、結構名だたる義勇兵みたいだったし、かなりの金額かもしれない。

俺は、しばらく金を手に取ったり、穴が開くほど眺めたり、手で転がして遊んだりしながら至福の時を過ごした。しかし、そんなことばかりに時間を使ってはいられない。


 俺は硬貨を布に丁寧に仕舞ってから、次のものに注目した。

 取り出したのは、何かの葉に包まれた干し肉と白っぽいパン、それと乾燥させた果物だった。干し肉はカチカチに乾燥しきっていてかなり硬い。パンもかなりぱさぱさしていて乾ききっている。これは、このままでは食べられそうにない。唯一食べられそうなのは、乾燥させた果物だろうか。

 この乾燥させた果物も乾燥させすぎではないのだろうか。完全に水分を抜かれてしまっていて、強く力を入れればぼろぼろと崩れてしまいそうだ。

 これはどうやって食べるのだろうか。食料であることに間違いはなさそうであるが、あまりにも水分が抜かれきっている。正直腹はかなりすいているので、喰えればいいのだが。

 とりあえず、乾燥しきった果物を口の中に入れてみる。どうやら柑橘系の果物のようだ。強めの甘さとすっぱさが口の中に広がる。辛い。それが、率直な感想だった。明らかにこのまま食べることを想定していない味な気がする。たとえるならば、カルピスの原液を飲んでいるような感じだ。いや、さすがにそれはいいすぎか……

 

 乾燥技術が進んでおらず、加減が出来ないのであろうか。いや、ちがうな。ここまで完璧に近い形で食物から水分だけを抜き出すなんてなかなかできることではないだろう。前世で言うならば、フリーズドライのような方法に近いものを感じる。

 おそらく、魔力を物体の水分に直接流し込み、水分だけを操って外に出しているのだろう。ならば、元に戻す方法は、魔力を用いて水分を内部に流し込んでやればいいのだろうか。とりあえずやってみるか。

 俺は、空気中から水分を集め、増やし、そして乾燥したパンに水分を満たしていくイメージで魔法を使った。結果、パンの中に水分が、吸い込まれるように浸透していき、乾燥したパンは、もちもちしたおいしそうなパンに変化した。

 本当にこの世界はファンタジーだよ。俺は、次に干し肉、果物を同じ方法でもとの姿に戻して食べた。おいしかったよ。それもかなりだ。肉は、香ばしく燻製されていて、程よい弾力があり、かめばかむほど口の中を肉汁で満たしてくれた。果物は、取れたてのようなみずみずしさを誇り、食べるだけで喉が潤った。パンは、ライ麦パンのような独特な酸味が口の中に広がるのに、パサパサとした食感はなく、しっとりともちもちとしていた。かなり充足した食事だ。この世界に生れ落ちて始めて食うまともな食事といってもいいかもしれない。

 奴隷小屋の食事は、粗末な黒パンと野菜の切れ端や何の肉かもわからないようなゴムみたいな弾力と味がする肉をごちゃごちゃに煮込んだだけの味の薄いスープばかりだった。たまに、腐ったような味のするミルクも出たり、魚の骨や皮を焼いただけのものがでたりしたが、それは贅沢な食事の部類だった。だから俺たち奴隷はいつも腹をすかしていた。

 俺は、夢中になってリクリエットの食料を食った。おろらく三食分くらいの量があっただろうが、それをすべて食い尽くしてしまった。食べ過ぎにより、吐き気にも襲われたが、なんとか意地で吐かなかった。ここで吐いたらもったいなさ過ぎる。

 

 さて、腹を満たしたところで物色を続けた。他に見つかったのは、金属で出来た名刺ほどの大きさのカードだった。カードには、リクリエット=リ=グランリースと547Pと記載されていた。何か身分証のようなものだろうか。Pについては何のことがわからないが、まぁ無難に考えればポイントとかになるのだろう。

 

 他にあるのは、水筒のような筒状のもの、こぶしほどの大きさに折りたたまれた寝袋、宝石のように輝く青い石が数個、薬草のような草のかたまり、リクリエットの武具である真っ赤な剣と真っ赤な鎧くらいだった。以上が、リクリエットの持ち物のすべてだ。


 とにかく飯が上手かった。ありがとう。リクリエット。

 さて、この死体をどうするかだが、やはり一番良いのはリクリエットの死体を操り、金を稼ぐことだろう。練習すれば、結構精密にうごかせそうな気もするし、隠蔽魔法で姿を消しながら、近くで操作したら周囲にばれずにリクリエットを動かして活動できるのではないかとも思う。幸いに体の方は、鎧を装備すれば隠すことが出来る。問題は、顔だな。体を動かすことは出来ても、筋肉は動かすことは出来ない。となると表情をかえることもできないし、瞬きをすることもできないのだ。だから、顔は絶対隠す必要がある。しかし、残念なことにリクリエットは顔を覆う鎧は持っていなかった。 

 

 まぁ、作るしかないか。

 血には鉄分が豊富に含まれているとかいうし、血から鉄の鎧をつくるのも難しくないかもしれない。布のような質感を持つ服さえ作れたのだから、大丈夫だろう。どちらかというならば、鎧を作る方がイメージしやすい。


 それが出来たとしてだ。まずは人の住む村を知る必要がある。リクリエットの死体抜きに、一人で隠匿魔法で姿を消して、情報を集めるのがいいだろう。それにしても、村か。どんなところなのだろうか。リクリエットの持ち物を見てもそんなに生活水準が低いようには見えない。色々と面白いものが期待できるかもしれないな。

 向かう村だが、リクリエットが来たという村にすることにした。グレイの屋敷も一応は、別の村のはずれの森のなかにあるのだが、屋敷の近くではばれたときのリスクが高すぎる。それに、村に行くには奴隷の館を正面から出て、本館であるグレイが住む屋敷を通らないといけない。そして、グレイの屋敷には奴隷の逃亡を阻止する為の仕掛けがあり、それが隷属の首輪に反応するようになっているとも聞いたことがある。

 となれば、比較的自由に出入りできる裏山から村の方に行く方が効率的だし、危険も少ない気がする。と、いうことで活動場所は決まりだ。


 当面の目標としては、村で情報を収集し、リクリエットの死体を使って物を売るなりして金を稼ぐことでいいだろう。それとは別に、リンスさんから魔法を学び、自身の強化に努める。

 

 俺は強くなる。金も手に入れる。情報も手に入れる。そして、それから自由を手に入れる。最終的には、世界なんかも救ってやろう。なりあがってやる。奴隷のままでなんていられるかよ。


 俺は、決意を新たに奴隷屋敷にいったん戻る。さぁ、行動開始である。

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