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外道は外道のまま世界を救う  作者: カタヌシ
乳幼児期 奴隷編
12/54

行動開始 はじめての実戦

気付けば、体が動いていた。

爪で腕の皮膚をざっくりと傷つけ、血を取り出す。

そして、それを使って無数の血の槍を生成した。

その槍を熊の魔物のどもに打ち出す。大量の血の槍が、5体の熊に襲いかかった。


「お、おぬしは?」

リクリエットは、驚いた顔でこちらを見た。俺だって驚いてるよ。まさか、自分がこんなふうに動くなんて思ってもみなかった。俺は、最低のクズ野郎だという自覚はある。

しかし、しかしだ。

人はやっばり殺せない。殺してはいけない。

そう心がズキズキと痛むのだ。


散々、死ねだの殺すだの言ってきたが、結局は口だけってのは実に俺らしい。あの憎たらしい神様とやらがいうように俺は、「小悪党」で、本物の悪党にはなれそうにもない。俺には大それたことをするよりも、小さな悪事をコツコツと積み重ねるのが性にあっている。

殺人なんて大それたことは、出来そうにもないし、やりなくもない。


そう思うと自分の行動にも合点がいった。

早い話が罪悪感に負けたのだ。

俺には、人を殺す勇気なんてなかった。せっかくの人生だ。自分がしたいように、気持ちよく生きて何が悪い。

そして、なによりもリクリエットは美しい。

可憐な女を守りたいってのは男の性だろ?


俺が放った血の槍が熊の魔物たちに襲いかかる。しかし、槍は熊の魔物たちを貫かない。全て皮膚で弾かれて、バシャッと液体に戻って消えていった。


はぁっ?


戸惑っている時間はなかった。

熊の魔物のうち一体が、隠蔽魔法が解けた俺を知覚し、襲ってきたのだ。隠蔽魔法は、制御が難しく他に強い魔法を使おうとすると解けてしまう。今回のやり魔法は、かなりの魔力を使って発動し、強力であるつもりだった。そのため、隠蔽魔法は、解かれ俺はその姿を熊の魔物どもに晒してしまっていた。


あわよくば、不意打ちで全員殺してしまうつもりだったのだが、熊の魔物の体表を傷つけることすら叶わなかった。


やばい。やばい。やばい。やばい。

近くに迫る熊の魔物が、俺を爪で切り裂こうと大きく腕を振り上げた。


まずい。まずい。まずい。まずい。

熊の魔物は、ものすごいスピードで腕を振るう。

俺は、身体強化と魔力駆動を全開にして、それを避けようとした。

しかし、避けきれない。

鋭い痛みと共に、右腕が体から離れ、宙に飛ぶ。

俺は、左に転がりながら熊の魔物と距離をとった。


速い。速すぎる。しかも強い。

はた目で見ていただけではわからなかったが、熊の魔物のスピードはとんでもなく速かった。


くそ。


リクリエットがあまりにも容易に攻撃をいなすから、気付かなかったがこの熊の魔物マジでやばい。


強い。強すぎるぞ。

こちらからの攻撃は、全く効かなかったくせに、一撃で腕を落とされるとか。

かなりまずいだろ。


背中の奥の方がぞわぞわする。

死ぬかもしれない。

そう思うと、ゾッとした。恐い。恐い。恐い。

死にたくない。


幸いにして熊どもの攻撃は即死するほどではない。

痛みには慣れている。大丈夫だ。まだ戦える。

俺は、なくなった腕を止めどなく流れる血をつかって再生した。腕が飛ばされた映像を逆再生するかのように、はえてきた。


それと同時に、飛び散った大量の血を魔力を使って増やし、血のカッターを熊の魔物たちに向かって打ち出した。


腕がみるみる再生していく様に、ぎょっとしていた熊の魔物たちに血のカッターが命中する。しかし、相変らず効果は薄い。熊の魔物の薄皮をめくる程度のダメージしか与えられなかった。


攻撃を受けたことで、我に返った熊の魔物たちの敵意が完全に俺の方に向いた。


くる。

今度は、一体だけではない。五体全員が襲ってくる。あの青い熊の魔物までもが俺を狙って、攻撃してくる。やばい。


そう直感した。


そのときだった。

突如、熊の魔物たちを、つぎつぎと炎の剣が貫いた。

「わ、私を忘れてもらっては困る。」

リクリエットだ。

リクリエットの炎の剣が、熊の魔物たちを貫いた。

剣で貫かれた熊の魔物たちは、炎に焼かれて次々と灰になる。


一体を除いて…


そう一体だけ炎の剣が刺さらなかった。リクリエットの攻撃を読んでいたのか、完璧な形でそれを避けた。

青い熊の魔物だ。

青い熊の魔物は、リクリエットの攻撃を無傷で避けた上に、魔法を発動させて、大きな水のか溜まりを生成していた。


まずい。いまリクリエットがそんな魔法を受ければ、確実に死ぬ。


俺は、あたりに飛び散った血を増幅させて、青い熊の魔物に次々に血のカッターを浴びせた。しかし、青い熊の魔物にはそんな俺の攻撃は全く効かない。それどそろか、こちらを見すらしなかった。


青い熊の魔物は、俺の方をちらりもも見ずにリクリエットだけを睨んでいた。


歯牙にもかけないってのかよ。

ならば、こちらを振り向かせてやるよ。

俺は血の魔法を大量に打ち出した。

しかし、その全てが熊の青い体毛にはじかれてしまい、十全に効果を発揮しなかった。マジで、硬い。硬すぎる。


そうしているうちに青い熊の魔物は、俺を完全に無視したまま水球をリクリエットにむけ、打ち出した。まるで弾丸のようなスピードで、水の弾がリクリエットに、迫る。

「なめるなー」

リクリエットがそう叫ぶと巨大な炎の壁が、リクリエットの目の前に出現した。

ドカーン!

水の弾と炎の壁が衝突した瞬間、凄まじい音と水蒸気が発生する。辺りは白いもやにおおわれて、一瞬なにも見えなくなった。

直ぐに視界は晴れて、そこに残るのは炎の壁だった。


青い熊の魔物は、もう走り始めていた。

どうやら、水の弾は完全に目眩ましで、狙いはリクリエットに接近することだったようだ。


青い熊の魔物が、一気にリクリエットとの距離を詰める。

維持が難しいのか、熊の接近に気付いていないのかわからないが、炎の壁がすーっと消えた。炎の壁が消えた先に見えてきたのはリクリエットが驚いている顔だった。炎の壁が消えたときには 、もう青い熊の魔物は壁の目の前まで迫っていたのだ。

魔物が手を伸ばせば届く距離だ。

まさか、そんなに接近されているとは思っていなかったのであろう。


このままではリクリエットが殺される。

そう思った瞬間咄嗟に、俺は魔法を発動させることに成功した。

体をめぐるすべての魔力を使いきるほど魔力をこめて魔法を発動させた。

イメージしたのはライフルの弾丸だ。

まず、人差し指くらいの血を固めた弾丸を作り出す。その弾丸には、何リットルもの血が圧縮されてこめてあり、小さいがかなりの質量になった。

ちなみに、血を固めるのは、非常に簡単だった。

少し前に血で服を作ったときに色々実験済みであり、それによりどんな形状や形態にも血を固めることができるようになっていた。


今回、魔法により作り上げた弾丸は、ひたすらに硬く、そして重く作られていた。さらに、魔法で生み出した血の弾丸に、横回転を加えておいた。

キュイーーーンっと空気との摩擦で音をならすほど、血の弾丸は高速に回転させてから、出来うるかぎりの魔力をこめて、魔法を発動し、弾を撃ちだした。

我ながら、一瞬でこんな魔法を思いつき、そして実行できるとは思っていなかったため、びっくりした。ってか、なかなか強力な攻撃かもしれないな。

俺は、内心ほくそ笑みながら、撃ち出した自分の光景を観察した。


その血の弾丸を今まさにリクリエットに迫らんとする青い熊の魔物に襲い掛かった。

ヒュン!!

風を切り裂く音が鳴り、血の弾丸が魔物の背に直撃する。弾は体毛を貫き、魔物の肉へと喰い込んだ。

しかし、それだけだった。

懇親の血魔法も青い熊の魔物の体を貫通することはできなかった。ただ弾丸が、肉に喰い込んだだけだ。


そんなことでは、当然魔物は止まらない。

魔物の鋭く振る爪が、リクリエットの剣を弾き飛ばした。

キーン!!

魔物の攻撃を剣でガードしようとしたが、もうそんな余力も尽きていたのか、いとも容易くリクリエットは剣を手放した。

まずい!

そう思って、また魔法を発動させるが間に合わなかった。


いや、たとえ間に合っていても結果は変わらなかっただろうが……

青い熊の魔物の爪が、リクリエットの体を袈裟懸けに切り裂いた。


馬鹿みたいに血がリクリエットの体から吹き出る。

胸が強烈に締め付けられる。

「私は、私は、いやだ。こんなところで……」

自分の思考以外がスローモーションのようにゆっくり流れる。

ゆっくり、ゆっくりリクリエットが地面に倒れていく。

ドン!っと、リクリエットは地面にうつ伏せに倒れた。


くそがー。

俺は、さきほどの弾丸を無数につくる。

大丈夫。PMPはまだまだ先が見えない。

どんどん燃やして、魔力をつくる。

そして魔力を使って、弾丸を作って、撃って、撃って撃ちまくる。殺す。殺す。殺す。醜い化け物を殺してやる。


俺は、ひたすらに魔法を発動し、青い熊の魔物を攻撃した。

最初の2,3発は確かに効果があった。弾丸は、青い熊の魔物の肉に食い込み、ダメージを与えた。

しかしだ。

すぐに、魔物が俺に標的を変えると弾丸は当たらなくなり、あたっても魔物を覆う水の膜のような魔法に弾かれてしまうようになった。そして、数秒で魔物に距離を詰められた。


まずは、体当たりを決められた。

あまりのスピードで動く青い熊に対応できず、モロに体で受ける。ダンプカーに衝突されたみたいな衝撃が体を貫いた。

全身の骨と内臓のほとんどがぐしゃりとつぶれる感覚がしたのち、強烈に痛みがやってくる。そして、視界がぐるぐると目まぐるしく回り、気付いたら何メートルも吹き飛ばされていた。

すぐに、俺は吐き出した血を大量に増幅させて針を生成し、全身を貫くことで傷ついた臓器や骨、その他もろもろを瞬時に再生する。


青い熊の魔物は、完全に俺を敵認定してしまっているようで、攻撃の手を休めない。

再生が終わるか終わらないかのところで、熊の爪が俺を襲った。

右手が斬りおとされ、腹が深く切り裂かれる。

しかし、それも俺は流れ出た血を使って瞬時に再生する。

それと同時に、腹から血が吹き出るのを増幅させる。大量に噴射させることによって、その血を推進力に青い熊の魔物から距離をとった。噴射させた血が、魔物にかかる。

「ぐおぉぉぉぉっ」

青い熊の魔物は、不快そうな声をだし、血まみれの俺をじっと見つめてくる。俺のことをかなり不気味に思っているようだった。

それはそうなのだろう。

傷つけても、傷つけても瞬時に気味悪く再生するどう見ても幼体の人間だ。少々の知性があれば、気味悪がって当然なのだろう。

それを狙って血の魔法なんか使っているのだ。

目論見通りといってもいい。


にしても、痛い。辛い。寒い。そして、ねむい。

魔法で再生しているとはいえ、痛みは全然引かないし、かなり疲れを感じる。こんなに危機的状況なのに眠気まで感じた。


くっそ。リクリエットは、生きてるか?

早く回復させないと死ぬよな。

こいつさえ。あとはこいつさえ倒せる力があれば。

だが、俺には決定力がない。

血魔法は、青い熊の魔物に対しては有効なダメージを与えられない。威力が決定的に不足しているのだ。

思考魔法も、魔物相手では効果が薄いし、今は使えるとは思えない。

偽装魔法も、戦闘には役に立たない。

隠蔽魔法も、これだけ戦った後では、知覚をごまかすのなんて不可能だ。

誤認魔法も、閾下魔法も、言語魔法も使ったからといってだから何だって話だ。


身体強化も魔力駆動も使っているが、圧倒的に身体能力で上を行かれてしまっている。

なんだよ。俺めちゃめちゃ弱いじゃないか。

魔法を手に入れて、いろいろ実験して、必死に練習してきたが、実戦ではまるでだめだ。

なにも役に立っていない。

こんなその辺の魔物に苦戦して、本当にこの2年間はなんだったんだよ。


くそが!!

このままでは、疲労で魔法が使えなくなって死ぬ未来しか見えないぞ。あぁ、失敗した。

こんなことならリクリエットなんて助けなければよかったんだ。

だいたい、自分で襲わせといて助けるなんて馬鹿だろ。


くそ。くそ。くそ。くそ。くそ。くそ。

逃げれないか?無理だろうな。見逃してはくれないだろう。

死んだ振りとかどうだ?通じなかったらどうするというのだ。

だいたい逃げたらリクリエットを助けられない。

いや、そもそも助ける必要なんてあるのか?

殺しておいた方があとあと俺のためになるだろ?

馬鹿か。それなら、最初から助けようとするな。

あーくっそ。思考がまとまらない。

とりあえず、リクリエットを見捨てるのはとりあえずなしだ。

逃げてもどうせ逃げられないなら、戦うしかない。


青い熊の魔物はじりじりと俺に近づいてきている。

ちょっとまてよ。

じりじり?なぜ、さっきみたいに一気に来ない?

ああ、そうか。

青い熊の魔物は、こっちをじっと伺うような目をして、にらんでいる。なるほど。こいつも怖いんじゃないか?

警戒しているのかもしれない。

俺が、どんな傷を負っても再生するから、不気味で、気味が悪く、嫌悪しているのだろう。

いける!

ならば、ならばだ。やれる。やってやる。

生き残れるかもしれない。

決して勝てはしないだろうが、生き残ることは出来るかもしれない。


俺は、意を決して魔法を発動した。

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

熊の魔物たちの鳴き声をまねて腹のそこから声を出して、怒鳴る。最後に俺がかけのは、俺がもっとも得意とする言語魔法だ。




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