目的に合わせて最適な脳を ~Brain Tunerが創る新しい未来~
常に最善を目指す人なら、「始まりは、あなたの脳から」という言葉を知らないはずがないでしょう。そうです。これは、一躍有名人となったジェームス・リバーピーポーの開発した「Brain Tuner」が販売されたときの謳い文句です。
さて、今日は「Brain Tuner」が販売されてちょうど地球が太陽を一周した記念日です。という訳で、その特集記事を組ませていただきました。ACE Timesの慣例に則り、様々な観点から「Brain Tuner」を眺めていくことにします。賛成意見や反対意見はもちろん、他国の大統領のぼやきから一般市民の無関係なコメントまで玉石混淆いっしょくたにして紹介していこうと思うので、読者の皆様は自分の頭で良く考えながら記事を読んでくださいね。「Brain Tuner」を持っている人はスイッチをONにすることを忘れずに。ああ、申し遅れましたが、今回の記事を執筆するのは自称「ACEに駆ける閃光」ロナルド・ライトジャック、ロナルド・ライトジャックでございます。この記事を読むのにかかる時間はおよそ七分でございます。どうぞ宜しくお願いします。
さて、最初のインタビューはこの方にお願いしましょう。「Brain Tuner」の開発者、四十歳のおっさんにしてシンデレラストーリを登り始めたジェームス・リバーピーポーです!
「皆さん、こんにちは。今回はBrain Tunerのことを皆さんにより知ってもらいたいと思ったので、簡単にその成り立ちについて説明します。
さて、皆さんの脳は常に活動しています。生きているのですから当然ですね。死んで魂にでもならない限り、その活動が止まることはありえません。自然が流動するのと同じように、脳の状態も常に流動しているのです。
我々はその活動の一部を自身の制御下に置くことができます。俗に云う《意志の作用》 ですね。しかし、それ以外の部分。脳の大半は自分の意志で制御することができません。それらは無意識に支配されています。Brain Tunerはそんな無意識に支配された領域を少しだけ我々の手に取り戻してくれるのです。
こんな体験をしたことはありませんか?
《勉強に集中したいのに、気になることがあって集中できない》
《明日はピクニックなのに、気分が逸ってしまって眠れない》
《友人達とバーで楽しく遊びたいのに、いまいち気分が乗らない》
十年前までは私もよくそんな体験をしました。仕事のことで頭がいっぱいで、どうしても他のことに熱中できなかったのです。
どうしてこんなことが起こるのでしょうか。それは、目的と脳の状態がマッチしてないからです。勉強や睡眠や遊びでも何でも、その目的に適した脳の状態というものがあります。しかし、我々はときに目的のみが先行してしまい、脳が追いつかないことがあるのです。迷子になった脳は仕方なく元の状態に戻ってしまい、結果として目的と脳がそぐわないちぐはぐな状態になってしまいます。
Brain Tunerはそんな無意識的な脳の流動を任意に調節してくれます。脳の中に埋め込んだ機械から微弱な電気パルスが発信されることで、脳の状態を直接コントロールするのです。機械はスマートフォンアプリで簡単に操作できます。ON・OFFのみなら奥歯を二回強く噛むことでも切り替えられます
機械を脳の中に埋め込むということで、安全面が気になる方がほとんどでしょうが、心配ありません。私の脳の中にはおよそ十年ほどBrain Tunerが入れっぱなしになっていますが、それが原因で健康を害したことは一切ありません。もちろん医学界からも安全性はある程度保証されています。「ある程度」とは、まだBrain Tunerの歴史が浅く長期に渡る安全性の検証ができないため付け加えられたワードです。しかし、私はこのままでも問題なく老後を迎えられると固く信じています。
目的に合わせて脳の状態を最適にできるということは、その目的に合わせて最高のパフォーマンスを発揮できるということでもあります。我々の実験では、Brain Tunerを使った人とそうでない人では、課題の正解率がおよそ十%も違うという結果が得られました。また、日ごろBrain Tunerを使っている人でも、非使用時より使用時の方が明らかに良い結果になっています。
Brain Tunerは脳の状態を目的に合わせるだけでなく、その実力を最大限まで引き出す可能性を秘めています。脳の世紀と言われる今、脳の力をフルに活用して新しい自分になってみてはいかがでしょうか。あなたの脳から、全ては始まるのです」
はい、開発者からの素敵なお言葉でした。
「Brain Tuner」には基本的に三つのモードがありまして、それぞれ「集中モード」「睡眠モード」「ポジティブモード」と云うらしいですが、これらはそういった理由から造られたようですね。さて、次の意見は販売された「Brain Tuner」を世界で誰よりも先に使用したジョン・ドゥからです。
「私がBrain Tunerを使って最も実感したことは、どれだけ自分が時間を無駄にしていたかが分かったことです。特に集中モードと睡眠モードには随分と助けられました。これのお陰で、仕事も休暇も充実した日々を送っています。
私はとある会社の責任者なんですが、Brain Tuenrを使う以前は毎日仕事に追われていました。やることが多すぎて、家にも仕事を持ち込んでは妻に怒られていましたね。しかも、それでいて会社の業績が登り調子という訳ではなかったので、随分と心に余裕がなかったと思います。
ところがBrain Tuenrを使用すると、仕事が見る見るうちに片付いていくんですよ。いつもと同じ量の仕事が、いつもよりもずっと少ない時間で終わっていくんですね。これは凄いですよ。まさに、驚くべき成果だと、早くに帰宅した私に妻も言ってくれました。
家での生活も変わりましたね。家族と一生に過ごす時間が増えたし、何よりも、睡眠時間が少なくて済むんですよ。睡眠モードにすると、まるで麻酔ガスを嗅がされてようにふっと意識がなくなって、それでいてスッキリと目覚めることができます。一日五時間しか眠らなくても、仕事中に眠くなることは一切ありません。まさに、無駄のない睡眠をしているわけです。家族の誰よりも朝早くに起きるので、朝食を作るのは私の仕事になりました(苦笑)。仕事が減った分、妻も喜ぶかと思ったんですが、寝る前のちょっとしたピロートークがなくなってしまったので、寂しいと言い出したんですよ。それで結局、妻もBrain Tunerを使うことになりまして、この前その予約をしてきたところです。私の頃はそうでも無かったんですが、今ではもう四ヶ月待ちなんですね。驚きました。とりあえず、それまで私は朝食の専門家になりそうです。
ポジティブモードは、休暇で友人や家族と遊びに行くときに使用しますが、これは仕事にも成功をもたらしてくれました。スピーチや議論で発言するときこれを使用すると、凄く受けがよくなるんですよ。聴衆の様子も良く観察できるようなりましたし、自信を持って話せるようになりました。
このように、Brain Tunerは私の生活を仕事においてもプライベートにおいても劇的に変えてくれました。今ではもうなくてはならない存在ですね。これからも手放すことはないでしょう」
とても肯定的な意見ですね。彼からすると、「Brain Tuner」には劇的な効果があったようです。ちなみに、このような変化に対してジェームス・リバーピーポーは「個人差がある」とコメントしています。
この「個人差がある」という言葉、最近よく目にしますが、とても良い言葉ですね。使い勝手がいいという意味で。私も書く記事全部に「この記事の効果には個人差があります」って書きたいんですけど、ボスが許してくれないんですよね。これがあるだけで、何を題材にしても良い気がするのに。
さて、次の意見はどうやら「Brain Tuner」に否定的な意見のようですね。人権に関する団体に所属のジェーン・Q・シチズンからです。
「最近のBrain Tunerの人気は憚るところを知りませんが、私はあえてそれへの警告という意味で意見を投書させていただきます。Brain Tunerは三つの意味で危険だと考えられるからです。
まず一つ目は身体的リスクです。知っての通りBrain Tunerは脳内に機械を埋め込むことが必要です。入院も要らない、簡単な手術だという話ですが、そこには必ずリスクが付きまといます。また手術だけでなく、埋め込んで日常生活を送っているとき。つまり、Brain Tuenrが脳内にあるだけでも危険な話です。一応、それが原因で脳卒中などのリスクは上がらないとされていますが、異物を挿入するわけですから、例えば転んで頭を打ったとき、埋め込んだ機械が原因で脳内出血する可能性はゼロではありません。
次に他人から使用者への介入のリスクです。Brain Tunerは操作を簡単にするため、スマートフォンアプリでモードを切り替えられます。自分で操作する分には良いのですが、スマートフォンはともすると他人からも操作できてしまいます。他者が本人に無断でBrain Tunerを操作できるのは、非常にまずいと言わざるを得ません。
眠っている旦那のスマートフォンを勝手に操作し、睡眠モードを興奮モードに変えて無理矢理起こすというのはまだ可愛い悪戯です。それとは逆に、例えば車を運転している人のBrain Tunerが睡眠モードになってしまったらどうでしょうか。それが原因で事故が起きるかもしれません。これでもやはり、Brain Tunerは安全だと言えるのでしょうか。
最後に、使用者の人格に対するリスクです。Brain Tunerにより脳の状態を変えられるということですが、それは本当に変えてしまっても良いものなのでしょうか。本人が望んでBrain Tuenrを使ってる分には問題無い、と多くの人が言うと思います。しかし、変更の際には必ず切り捨てられる部分が出てきます。Brain Tunerにより切り捨てられた部分が、本当は捨ててはいけないその人の人格を形成する大切な部分ではないのでしょうか。私はBrain Tunerによって酷く人格が変わってしまうことを恐れているのです。
また、Brain Tunerで得られたものは、本当にその人の実力で得たものなのでしょうか。後にBrain Tunerの危険性が発見され、強制的に体から取り除かなければならなくなったとき、Brain Tuner中毒になっているのではないでしょうか。Brain Tunerがあったときとのあまりの実力差に絶望し、自殺してしまうのではないでしょうか。もしも、Brain Tunerが麻薬や禁止薬物に相当するものならば、それこそ規制する必要がありますし、そのことに多くの人が賛同するでしょう。
以上の理由から私はBrain Tunerを危険と思うのです」
ふむふむ。この意見は「Brain Tuner」の販売が決定されてから出た反対意見の総まとめといった感じですね。確かに「Brain Tuner」を危険視する人が多いのも事実で、未だ「Brain Tuner」の販売・手術を禁止している国もあります。ちなみにその国の大統領は
「Brain Tunerに関してはその安全性が疑問視されるため、極めて慎重にならざるを得ない。もし何かがあったときは、誠に遺憾である」
とコメントしています。
それではここで「Brain Tuner」について地元コルテックスシティで街頭インタビューした中で、とりわけ奇抜で面白……もとい、興味深かったものを掲載しておきましょう。
「Brain Tunerって何? 新しい楽器?」
「Brain Tuner? ああ、あれだろ、アインシュタインになれるやつ。俺も欲しいけど、高いんだよな」
「ああ、知ってる知ってる! 今も使ってるからね、何モードが当ててみな! といっても、睡眠モードじゃないのは見て分かるから、二者択一だね。集中モードかポジティブモードか! さあどっちだ!?」
「知ってるー。僕も大人になったら買うんだ。今お金貯めてるとこだよ」
「あー、あれね。でもあれちょっと怖いよね。外科手術も必要だし、私はあれ要らないかな。うん、そのあれね」
「へぇ? 何? rain toner? 何でワシみたいな爺が化粧水なんぞ使わにゃいかんのじゃ。とっくの昔にボロボロじゃよ」
「Brain Tunerか……。久しぶりにその名を聞いたな。良かろう、彼のことを話してやろう。あれは数百年前のアーカムでのことだった……」
「知ってるよ。面白そうだよね。あ、君ライトジャックでしょ。閃光のライトジャック。いつも記事読んでるよ。へー、思ってたよりもイケメンね。ね、今度わたしのことも記事にしてよ。劇場で役者やっててね、いい役もらったからさ……」
……こういうコメントが聞けるから街頭インタビューって良いですよね。さて、面白い街頭インタビューの中でも、極めて特異な意見が上がったのでここに紹介したいと思います。例によって名前は伏せさせて頂きますが、コルテックスシティの中学生からです。
「私が極めて不思議に思うのは、そもそも多くの人がBrain Tunerを欲しているという、その事実です。また、欲していない人もいますが、彼らはその根拠を危険だからとしていたり、Brain Tunerの効果を聞いて、それらの効果が自分には不必要だから、要らないと言ってるようなのです。
つまり私が言いたいのは、そのBrain Tunerが果たす機能を既に持っているから、それは要らないと言う人が誰もいないということです。目的を定めた瞬間に、脳を瞬時にその状態に移行できる人が、どうやら私以外に誰もいないようなのです。集中しようと思ったときに、集中できる。寝たいと思ったときに、眠れる。楽しもうと思ったときに、楽しめる。それは、とても当たり前のことではないのでしょうか?
もし私と同じことを思っている人がいるならば、私と同じ機能を持つ人がいるならば、どうか声をあげてください。仲間がいるというのは、それだけでとても嬉しいものです」
ふむ。どうやらこの学生は私たち多くの人にはできないことができるようですね。ちなみに、コルテックスシティの街頭インタビューではこれと同じ意見は得られませんでした。この記事を読んでこの学生と同じ思いになっている人がいるなら、ぜひ私まで連絡をお願いします。宛先は雑誌の一番最後に。宛名を「ACEに駆ける閃光」にしても届きますので、宜しくお願いします。
さて、これでひとまず今回の特集は終わりです。読者の皆様が、少しでも「Brain Tuner」について知って頂けたら、他の人が思うところを分かって頂けたら、それだけで私は大満足です。
さて皆さん。お手元の時計をご覧ください。八分以上経過していたら、あなたの脳は衰え始めていることでしょう。お気をつけ下さい。「Brain Tuner」を使うにしろ、使わないにしろ、あなたの健康が何よりの宝です。
それではまた、別の記事でお会いしましょう。さようなら!
No Brain, No Life!