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ソーティカルト・マティカルト  作者: 黒楼海璃
003 北方大陸(ブリザード・フォートレス)
11/18

010

 一度だけ、北海道に行った事がある。

 丁度五歳の頃の冬、家族で北海道旅行に行った。あの頃僕は沢山の雪に大はしゃぎして、ヘトヘトに疲れるまで夢中に遊んだ。けどかなり寒くて寒くて、完全防寒しないと風邪を引きそうだった。泊まったホテルの夕食に、チーズフォンデュが出た。初めて食べたチーズフォンデュは熱くて舌が火傷するかと思ったけど、体が暖まって美味しかった。

 あの時食べたチーズフォンデュ、もう一度食べたいなあ。


 けど、


 何故今になって昔の事を思い出してしまったのか。そりゃそうだよ。


「……ヘクションッ!」


 こんな雪の降る街に転送されたならね。


「う~、さむ~」


 僕が転送された街は、一言で言うなら氷の街だ。街中凍ってる。何処も彼処も。中に入れない訳じゃないけど、もはやこの街全部が氷の塊と言っても良いってぐらいに凍ってる建物が多い。しかも雪まで降っている。立っているだけで凍りそうだよ。こんな北国同然な街がある大陸なんて、ゲーム時代は一つしかなかった。


「あーあ、最悪だよ。まさか《北方ノース大陸》に転送されちゃうだなんて」


 僕はあまりの嫌さに溜息を吐いてしまう。

 《北方大陸》。グリスネアワールドの五大大陸の一つ。名前からでも分かる通り北の方角に位置し、レベル10になったプレイヤーが転送される大陸の一つ。

 北方大陸の特徴は三つ。一つ目は、北方大陸にはダンジョンが多い。森フィールドや山フィールドなどと言ったフィールドゾーンよりも洞窟や神殿という名のダンジョンが数多く存在する。恐らくダンジョン数で言えば五大大陸で一番だろう。

 二つ目に、北方大陸に出現するモンスターは様々で、主に物質系、魔獣系、アンデッド系、悪魔系、亜人系、ダンジョン内にはドラゴン系モンスターが時々出現し、極稀に一部の精霊系モンスターも出現する。モンスター達の共通点は、それらが水属性か氷属性を持っている事が多いという事だ。何故水と氷か多いのか。その理由は北方大陸三つ目の特徴で大体分かる。

 三つ目の特徴は、北方大陸は五大大陸の中で一番の難所と呼ばれている。理由は至って簡単。北方大陸はその殆どが雪と氷で覆われ、一年中雪が降る極寒大陸と、ゲーム時代はそういう設定になっていたから。

 寒いというのは《ソーティカルト・マティカルト》では結構重要になってくる。何故なら北方大陸などの寒い所にいるプレイヤーはHPが徐々に減っていくからだ。勿論街や村の中ではHPは減らないが、雪に覆われた森や氷の洞窟などでは寒さの影響でHPが減っていく。これを防ぐ方法は、耐寒性効果のある防具を装備するという事一つだけだ。故にこの大陸で楽に行動するには防寒具を買わないといけない。しかもその防寒具は結構値が張る。

 ゲーム時代、僕がソロでやっていた時にこの大陸何度も来た事があった。初めて来た時に買った防寒具を装備してレベリングを行っていたけど、正直魔術師マジシャンなのにソロだというのは少々大変だ。でも僕の場合は後先の事を色々考えてたから、運悪く中ボスに出くわしても正確に魔法を連発して難なく対処出来たし、この大陸の事も大体は頭に入っている。だから問題は無い筈。ゲームの時までだったら。

 今僕がいる世界は、もうただのゲームじゃない。十万人のプレイヤーを転生させた史上最悪のビックイベント。原因は、100人の元レベル100プレイヤー。僕もその内の一人。大体67人目ぐらいでレベル100になった。

 よもや自分が、そんな恐ろしい事をした共犯だっただなんて、僕は夢にも思わなかった。このどんなに酷い目に遭っても、それは全部自業自得だと思った。甘んじて受けよう。そう思ってた。けど、そんな時に僕は偶然会ってしまった。ビックイベントを引き起こした大元凶にして、僕の数少ない友達――刀使いサムライりゅうに。

 龍刃は、自分が100人目の元レベル100プレイヤーで、ビックイベント開始を承諾してしまったと言っていた。それを聞いた時、僕は内心で驚いた。まさか身近な知り合いがそんな大きな罪を犯しただなんて、誰が思うのだろうか。

 もう一つ驚くべき事は、その話を聞かされる前に知り合った、ゲーム時代の龍刃の友人、ゆきだった。初めて会った時は、こんな可愛い女の子と知り合いの龍刃が羨ましく思えた。けどゲームの時のアバターと見た目が全然違う事を聞かされて、それはそれで驚いた。更に驚いたのは、雪華も元レベル100プレイヤーの一人らしい。少なくとも本人はそう言っていた。

 僕、龍刃、雪華。三人がそれぞれ抱えた罪の重さを胸に秘めて、再会の時を誓った。僕も早く会いたいよ。に。

 二人と別れた後の僕は、只管レベリングを続けた。勿論ソロで。睡眠時間を削った訳でもなく、休める時にはしっかりと休み、戦う時は全力で戦う。レアアイテムを手に入れたら使い道を考える。効率の良い狩場を探す。そんな日々を続けて、二十日間でレベルは10になった。本当ならもっと掛かると覚悟していたけれど、ここまで早かったのはソロでサクサク行っていたからだと思う。

 そんなこんなでレベル10になって転送されたのは、北方大陸にある街の一つ、《初雪の街》。この街以外にも、《氷の街》、《霜の街》、《氷柱の街》、《ツンドラの街》、《吹雪の街》、《雪だるまの街》、《氷河の街》の合計八つの街が存在する。なので転送先で二人に会える確率は皆無と言って良いだろう。着いた直後にフレンドリストを確認してみたけど、やっぱり二人はこの街どころかこの大陸にはいない。まあ、逆に会えたらそれはそれで奇跡だけど。


「……さーてと、まずは服でも買おっかな」


 僕は初めて訪れた《初雪の街》を歩き回る。何処かに武器屋がある筈だから、そこでいらないアイテムを売ってお金を足して、色々と足りないものを買い足そう。

 手を息で温めながら歩く事十数分、僕はお目当ての武器屋に到着した。武器屋で僕は、さっきまで戦っていたモンスターからドロップした《ミニストーン・ゴーレムの岩》と《ブラウン・ウルフの毛皮》を売り払い、分厚い毛皮の付いた《どうもうぐまのコート》なる耐寒性の付いたコートを二着買う。何かあった時の事を考え、予備も買っておく事にした。その後はブーツを新しいものに変え、今自分が装備している魔法盾マジック・シールドも買い換える。

 魔法盾とは、魔術師の様なINT優先型のプレイヤーなら大抵は装備している、魔法障壁の付いた盾の事である。装備すればINT(知力)や防御力を上げてくれるので、中々重宝する。ただ武器屋には滅多に売っていないので、こういった街で手に入るのは結構ラッキーである。

 僕が新しく買った《アイス・マジックシールド》は、装備すれば氷属性に耐性が付与される、この大陸ならではの盾だ。

 ちなみに杖は買わない。今の僕には、《ビギナーの森》で戦った植物系モンスター《アイビー・スペル》からドロップした《アイビー・スタッフ》がある。《ビギナーの街》を出てから少ししてこの杖に変えたんたけど、他の杖よりも凄い。INTが+10もされるから魔法攻撃力も上がるし、《ウッド・スタッフ》や《アイアン・スタッフ》なんかとは全然違う。今は強化を施しているから、多分魔術師の中ではズバ抜けてると思うね。僕は。

 装備を買い換えた後は雑貨屋に行き、お金がまだ結構余っているので、スキルブックを買う事にした。

 スキルブック。それはINT優先型プレイヤーにとっては必須アイテムである。

 魔法スキルのスキルブックは多種多様。例を挙げるとすれば、《治術ヒーリング》、《召喚術サモン》、《錬金術アルケミ》、《妖術ソーサリー》。

 《治術》はHPの回復や支援バフを発動したりするスキル。

 《召喚術》は従者を召喚してモンスターと戦うスキル。

 《錬金術》は四大元素、火・水・風・地と無の五つの属性魔法、複数種類のアイテムを合成して新たなアイテムを生み出す、またアイテムを分解して素材アイテムを作る、戦闘と生産を両立したスキル。

 《妖術》は火、水、いかずち、地、風、氷、毒、光、闇、無の全属性をひっくるめたスキル。

 この他にも色々な魔法スキルがあるが、大抵のプレイヤーなら属性魔法を選ぶ場合が多い。

 属性魔法とは、それぞれの属性のみを持った魔法スキル、《火術フレイム》、《水術アクア》、《雷術ライトニング》、《地術グラウンド》、《風術ウインド》、《氷術アイス》、《毒術ポイズン》、《光術ライト》、《闇術ダーク》、《無術ゼロ》の計十種類の総称である。これらの属性にはそれぞれに似合った特徴というものがある。

 火属性は植物系モンスターに与えるダメージ量が多く、一定確率で相手を《火傷バーン》による持続ダメージを付与させる。また、氷属性と毒属性を持つモンスターに与えるダメージ量が大きく、水属性と風属性には小さい。

 水属性は機械系モンスターに与えるダメージ量が多い。また、火属性と地属性を持つモンスターに与えるダメージ量が大きく、雷属性と毒属性には小さい。

 雷属性は魚介系モンスターに与えるダメージ量が多く、魔法を当てた相手を一定確率で《麻痺パラライズ》にする魔法が多い。また、水属性と風属性を持つモンスターに与えるダメージ量が大きく、地属性と氷属性には小さい。

 地属性は魔法攻撃力が高い魔法が多い。また、雷属性と毒属性を持つモンスターに与えるダメージ量が大きく、水属性と風属性には小さい。

 風属性は高確率でクリティカルヒットする魔法が多い。また、地属性と火属性を持つモンスターに与えるダメージ量が大きく、雷属性と氷属性には小さい。

 氷属性は魔法を当てた相手を一定確率で《凍結フリーズ》にして一定時間行動を停止させる魔法が多い。また、風属性と雷属性を持つモンスターに与えるダメージ量が大きく、火属性と毒属性には小さい。

 毒属性は攻撃命中後に《毒》による継続ダメージを付与させる魔法が多い。また、水属性と氷属性を持つモンスターに与えるダメージ量が大きく、火属性と地属性には小さい。

 光属性はアンデッド系と悪魔系モンスターに与えるダメージ量が多い。また、闇属性を持つモンスターに与えるダメージ量が大きい。

 闇属性は相手の防御力を一定量無視する魔法が多い。また、光属性を持つモンスターに与えるダメージ量が大きい。

 無属性はモンスターの属性の相性によってダメージが増減はしない。

 そして、これらの魔法スキルを全て取ろうと思う人はまずいない。仮に全て習得しても全てのスキルレベルをMAXにするには、プレイヤーレベルを100にするよりも遥かに時間が掛かるからである。なので、プレイヤーは魔法スキルを習得する際、杖を装備するだけで習得出来る魔術スキル以外に一つか二つの魔法スキルを自分て選んで習得する。

 例えば燃やして濡らす矛盾な《火術》と《水術》、混沌とも言える《光術》と《闇術》、疾風迅雷って表現したかったらしい《雷術》《風術》、氷炎の《火術》と《氷術》。大抵は属性魔法を二種類選ぶ場合が多い。或いは《治術》を選んで治術師ヒーラーとしての道を磨くか。その場合は《光術》も取る事が多い。光術スキルにもHP回復魔法があるからだ。それか攻撃用に連撃出来る《火術》や攻撃力の高い《地術》を選ぶ。

 今僕が《魔術》以外に習得しているのは、《妖術》と《付与術》の二つ。《妖術》を選んだ理由は、攻撃用と、このスキルは全属性全ての魔法が使えるからなので、属性魔法を取る必要が無くなり、どんな属性にも対応が出来る。但し、全属性が入っている分、各属性魔法に比べて個数は少ないし、レベル毎に習得出来るまで時間が掛かる。

 そして《付与術》。これは魔法スキルの中で人気がない魔法の一つ。タイプとしては支援系にあたる魔法で、敵の攻撃や動きを阻害、パーティーメンバーの攻撃を有利に進める。けど魔法そのものの攻撃力は極めて低く、スキル経験値を上げるのに難がある。その上自分以外に効力を及ぼすものが多く、ソロには向いていない。それなのに何で僕は態々不人気の魔法を取っているのかというと、個人的にこの魔法が好きだから。ゲーム時代はよくこれでを援護していたなぁ。

 ちなみに僕がそれ以外に習得しているのは、主武器用の《杖》、補助装備の《魔法盾》、他にもスキルブックを読んで《策敵》、《隠蔽》、《拡張》、《疾走》を習得した。《体術》や《武器戦闘》は持っていない。僕は魔術師だからSTR(筋力)は上げていない。よって物理攻撃を行う系統のスキルは全部捨てている。《闘争本能》はあるにはあるけど、あれは別に放っておいて問題は無い。

 そんな僕が新たに買うスキルブックは二冊。一冊目は《瞑想》、二冊目は《探検》。

 《瞑想》は精神集中する事で、一定時間の間だけINTや魔法攻撃力、防御力、命中率、回避率、MPを上昇してくれるスキル。INT型のプレイヤーの大半は取る戦術バトルスキルだ。

 《探検》はダンジョン内を歩く時に重宝するスキル。視界が分からないくらいに真っ暗闇なダンジョン内――そういうダンジョンがたまにある――を照らしてくれたり、ダウジング・ロッドで埋まっているアイテムを探し出したりなど色々である。ダンジョン数の多い北方大陸に来たなら取っておいても損は無いスキルだ。

 僕は残っているお金でスキルブック《精神統一の極意》と《探検の極意》を購入。ついでにマナポーションの補給も済ませておき、買ったスキルブックは今夜読みたいから倉庫に預けておく。

 買い物済ませた後は、早速フィールドに出てみる。何が起こるか分からないけど、だからこそフィールドに出て色々知る必要がある。僕は防寒コートを身に纏い、雪の降るフィールドに足を踏み入れた。



 そして戦闘はすぐに訪れた。


「《ファイア・アロー》!」


 場所は街を出てすぐのフィールド《じゅせつの森》。相手は全身を氷で包み込んだ狼――レベル10魔獣系モンスター《アイス・ウルフ》。通称氷狼。氷属性持ちのモンスターなので、妖術スキル下位5連続攻撃魔法《ファイア・アロー》を一発放っただけで氷狼は青白く光って四散した。

 やっぱり妖術スキルを取っておいて正解だった。ゲーム時代もこのスキル取ってたし、やっぱゲーム時代の時に合わせた方が慣れてて良いみたいだね。


「リリリリリ…………」


 なんて思ってたら、鈴の音の様な鳴き声が聞こえ、目の前に大きな雪の結晶が三体現れた。あれはレベル10物質系モンスター《スノークリスタル・スピリット》。物質系モンスターは他のモンスターに比べて物理防御力が高い。けどその反面魔法防御力が低いから、


「《エレメント・ボール》!」


 妖術スキル初期魔法《エレメント・ボール》。虹色に輝くのに無属性な魔法の球をぶつけるだけで雪結晶は砕け散った。残りの二体にも《エレメント・ボール》を当てて倒す。雪結晶がドロップしたアイテムが僕のアイテムカバンに自動収納される。

 INT型だし、別に走る理由も無いからゆっくり気ままに森の中を歩く。もうちょっとしたら最初のダンジョンに着く筈。


「グルルルルル…………」

「リリリリリ…………」


 でも現実は甘くない。氷狼と雪結晶が一体ずつ出てきた。同時に襲ってこられると面倒なので、まずは魔術スキル下位移動制限魔法《キャプチャー・バインド》で氷狼を動けなくする。走ろうとした氷狼は突然現れた青い鎖に足を縛られて動けなくなる。その後は余裕で《エレメント・ボール》を雪結晶に放ち、氷狼は《ファイア・アロー》を放って屠る。


「……さーてと、行きますか」


 僕は再び足を動かした。歩く度に、積もった雪を踏む音が聞こえた。



 歩く事小一時間。僕はようやく目的地に辿り着いた。

 凍った洞窟。そう表現するのが正しいのだろう。入り口以外は岩石全てが氷漬けになっていて、その大きさは東京ドーム何個分だろうか。

 《せっかいじゅひょう》。《初雪の街》に転送された放浪者達が初めて訪れるダンジョン。このダンジョンは細長い形をしているが、要所要所が枝分かれしており、地図が無いと迷ってしまう事がある。出現するモンスターのレベルは10~20。全部水属性か氷属性持ちなので対処も簡単だろう。それでも油断禁物なので、僕は《オプション》からマップデータを取り出し、中へと入って行った。



 氷の洞窟。そんな印象を遂げていた。ダンジョン内はさほど真っ暗ではない。洞窟内は上から下まで凍っていて、その氷が光を反射して明るさが出ている。

 何が出てくるかと思って警戒していると、早速僕の策敵スキルが反応した。

 現れたのはさっきと同じ雪結晶。数は五体。結構多いけど、こういう複数の同系統モンスターには、一発で仕留めるのが一番。けど生憎今の僕にはそんな事は出来ない。なので、


「……《エレメント・ボール》!」


 先手必勝。僕が虹色の球を雪結晶に当て、まずは一体を四散させる。それを合図に残りの四体も襲い掛かってきた。

 雪結晶の攻撃パターンは単純な体当たりのみ。但し当たると高確率で《凍結》になってしまう。こうなると一定時間動けなくなってしまう。なのでここは素早く正確に倒す。

 まず僕は雪結晶の一体を《キャプチャー・バインド》で動けなくする。その次に最初に体当たりしてきた雪結晶に《エレメント・ボール》を当てて四散させる。けどその次の雪結晶にも攻撃は出来ない。雪結晶の体当たりは思っていたよりも速かったから、二体目の雪結晶の体当たりは魔法盾でガードし、三体目に《エレメント・ボール》を当てて四散。二体目の雪結晶が再度体当たりをしてきたのでもう一度魔法盾でガード。その直後に《エレメント・ボール》を当てて雪結晶を四散させる。最後の一体になった雪結晶に《エレメント・ボール》を当て、これで五体全部を倒す。

 ここまでは定跡通り。後は周囲を警戒しつつ進むだけ。けど、思っていたよりもモンスターのpop率が高い。さっきから雪結晶によく出くわす。その都度魔法を放って倒し、出くわしては魔法を放っての繰り返しだ。当然MPは消費される訳だからマナポーションを飲む必要もある。けどさっきから雪結晶ばかり出てくる。僕はINT型だから良いけど、STR型の人かは大丈夫なんだろうか。


「ケケケケケ…………」


 また新しいモンスターに出くわした。レベル10悪魔系モンスター《アイス・ベビーデビル》。数は三体。人型をした氷の小悪魔達は、手に持っている氷の大型フォークを突き刺してくる接近攻撃を行う。物理防御力の低い僕がそれを喰らえば、元から少ないHPはすぐに0になってしまう。氷の小悪魔達は一斉に襲い掛かってきた。


「……まあ、大丈夫か」


 相手が氷属性を持っている時点で、対処は簡単だった。まず最初の一体を《キャプチャー・バインド》で動けなくし、別の一体に《ファイア・アロー》を放って氷の小悪魔を溶かす。三体目に関しては一旦攻撃を魔法盾でガード。氷の小悪魔は不気味な笑みを浮かべながら氷のフォークを刺してくるが、この攻撃には氷属性が含まれている。装備している《アイス・マジックールド》の氷耐性増加の効果で余計なダメージは受けない。僕は氷の小悪魔を押し返し、《ファイア・アロー》を放って屠る。最後の一体はまだバインドで動けないので、《ファイア・アロー》で倒した。

 三体の小悪魔を倒した事で、アイテムとお金がドロップされた。その中に一つ、珍しいものがあった。


 《フラジャルアイス・トライデント》


 《アイス・ベビーデビル》しかドロップしない槍カテゴリの武器だ。氷を加工して作られたその三叉槍は氷属性が付与されていて、攻撃を当てた相手を一定確率で《凍結》にする効果がある。但し脆いフラジャルと言うだけあって、耐久度の減りが凄い速い。二十回ぐらい攻撃すれば耐久度が半分近くまで減ってしまう。そして耐久度が0になれば破壊される。売ったらそこそこのお金は手に入るだろうし、後で売ろうっと。

 その後もmob狩りを続けた。出くわすモンスターを炎の矢で焼いていき、虹色の球で倒す。そんな感じで三時間が過ぎ、そろそろマナポーションのストックも半分になってきた所で引き上げる事にした。これ以上続けると余計にリスクが高くなってしまう。


 アイス・ウルフ×5体

 スノークリスタル・スピリット×10体

 アイス・ベビーデビル×5体


 これが今日倒したモンスターの数だ。合計で二十体。これでも少ない方だが、ソロでここまでやれるなら上出来な方だろう。

 帰るまでの道のりは結構距離があるので、折角だから魔術スキル移動魔法《テレポート》を使う事にする。《テレポート》は一定距離を瞬時移動出来る、どのゲームの魔法職ではお馴染みの移動魔法である。


「……《テレポート》」


 僕が魔法の名前を告げると、僕の体は一瞬で前に進んでいた。進んだと言っても距離は大体1m前後。スキルレベルが高くなれば距離も長くなると思うけど、今はこれで我慢しよう。

 僕は連続テレポート使用で出口を目指す。当然MPも減るからマナポーションを飲んで回復する。途中で出くわしたモンスターには炎の矢を放って焼いていった。



 五時間後、ダンジョンを出て街に戻った僕は宿を取って倉庫で預けていたスキルブックを読む事にした。

 さすがはスキルブック。分厚過ぎる。二時間経っても半分しか読み終わらない。ちなみに今読んでいるのは瞑想スキルの方。

 読みながら疑問に思っていた事が一つあった。それは、ゲームの世界に転生されたのに僕があまりにも冷静過ぎるという事だ。まあ、その理由も大体分かっている。その理由は、僕が元の世界に戻りたくないと思う節があるからだ。

 僕は、かざおかまさは少し変わった高校二年生だ。勉強は好きな方で、学校での成績は学年でもトップに入るぐらい優秀だった。天然で優しい性格だから困っている同級生や後輩の相談相手になってあげたりしていて、僕の周りにはいつも人が寄ってくる。けど、《ソーティカルト・マティカルト》を始めるまでの僕には学校での友達が1人もいなかった。

 理由は簡単。実は僕は人付き合いが凄い苦手なのだ。まず僕はかなりのインドア派である。勉強は出来るけれど逆に運動が凄い苦手で、体育の授業の持久走でも基本ビリから2、3番目ぐらい。休日の日は勉強してるか、パソコンをしているかのどちらかで、基本的には出掛けたりはしない。行くにしてもそれは軽くコンビニまで買い物に行くかぐらいだった。

 成績優秀じゃなかったら只のニートか引き篭もりになってるぐらいインドアなせいで、学校での打ち上げパーティーとかには行っていない。行っても人と話をするのが苦手なので一人でポツーンといるだけだった。話題を振られても持ち前の頭の良さと独学の心理学――祖父が有名大学の心理学科の教授をしていて、志願して教わった――にコールド・リーディング――相手の心を読んだかの様に話を進めていく話術――とかを駆使して話の輪から逃げていた。只、いつもそうやって逃げてる内に、周囲から気味悪がられてとうとう一人になってしまった。

 勿論学校でも僕に話しかけてくる生徒や教師はいる。けどそれはあくまで勉強や授業の事を聞いてきたりなどの必要最低限の事だけ。おかげで僕にとって友達という存在はほぼ無い。

 加えて言うなら、僕は家族ともあまり仲が良くない。僕の父親は大手電子機器会社に勤める社員だ。役職は部長で業務成績は常に上位。人望も厚く、部下達からも慕われていた。

 両親は将来僕にも有名企業に就職してほしいと願っていた。僕の学力だったら申し分ないとも言われた。その事に対して僕は特に異議を唱えなかった。勉強は好きだし、親の期待に応えたいというのもあった。けどここで、僕は中学の進学の選択肢を間違えた。

 当時僕には仲の良かった唯一の友達が一人いた。インドアな僕とはゲームで話が盛り上がって、何度も遊んだりした。友達は普通の市立中に進学したいらしく、僕もそこに行こうと思った。けど将来の事を考え、名門の私立中に進学させたいという両親の意見が反発してしまい、結果僕は親の反対を押し切って市立中に進学した。そこまでは良かった。けど、その友達は入学早々交通事故に遭い、入院してしまった。退院出来たは良いのだけど、その直後に友達のお父さんの仕事の都合で転校してしまった。当時の僕にとってはその友達しか仲の良い人はいなかった。

 この事がきっかけで、僕は一人になってしまった。学校でも、家でも。

 学校では気軽に話す友達もいないから、休み時間は読書をして過ごしていた。家に帰ったら家族とも目を合わせず部屋に籠もり、勉強するか読書をするかパソコンをするかの日々を送っていた。そんな事ばかりやっていたからなのか、両親も二つ下の弟も僕の事を気味悪がり、いつしか大きな溝が出来ていた。

 だからなのだろう。この《ソーティカルト・マティカルト》の世界に転生されても、ここまで酷く冷静でいられるのは。あんな所に帰るぐらいなら、ずっとここで生きていたい。そんな願いがあるのも事実だった。だからこそ、このゲームに出会えて本当に良かったと、心から思えた。


 中学二年の時、僕は偶然見つけたゲームサイトでデカデカと宣伝されているゲームがあった。


 MMORPG《ソーティカルト・マティカルト》。


 このゲームの内容はかなりハードらしく、見た時は正式サービス開始の一週間前だったけど、見出しにはこう書かれていた。


 【このゲームでレベル100のプレイヤーが100人になった時、一世一代のビックイベントを行う】


 それを読んだ時、僕は不思議と胸を踊らせた。一世一代のビックイベント。その言葉に興味を持ち、僕は詳しくそれを読んでみた。

 小一時間程で読み終わり、どうやらこのゲームには職業ジョブ制はなく、自分が好きな武器とスキルを手に冒険するという感じだった。そして最終目標は、最大レベルの100。

 当時僕は色々なMMORPGに触れていた。共通点は全て職業があり、その全てで魔法職を選んでいた。深い理由は特に無く、遠くから魔法をバンバン放つという行為はリアルでは決して味わえない、そんな感じだと僕は思う。

 それらでも僕はギルドには入らず、パーティーも組まず、ずっとソロプレイヤーだった。魔法職にとってソロというのは難しいものだろうけど、僕は持ち前の頭でそれをうまく対処していた。

 今度もそれで行けば大丈夫だろう。そんな軽い気持ちで僕は《ソーティカルト・マティカルト》を始めた。そして、僕は出会った。龍刃に、に。

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