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あいだけに  作者: huyukyu
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僕が抱いたその感情

 昼、僕は藍を誘って、また食堂へと赴いた。

 もしかしたら今は断られたりするかもしれないと思ったが、そんなことはなく、藍は普通に頷いてくれた。


 昼食を注文する。

 僕は醤油ラーメン。藍はざるそば。

 中華と日本食。対照的と言えば、対照的か。


「……」

「……」


 人の多い昼時の食堂の中で、向かい合わせに腰を下ろして、無言で麺をすする。

 藍も茶色いつゆの滴るそばをちゅるちゅるとすすっていた。


「……その、涼は」

「ん?」


 そばから顔を上げて、しかし、僕からは少しだけ目線を逸らして、藍は言う。


「涼は……わたしのこと、好き?」

「ぶっ……」


 唐突に投げかけられた質問に危うく麺を吹きかけた。そう訊かれること自体はおかしなことじゃないが、こうしている今、藍にそんなことを訊かれるとは思わなかった。


「……突然、どうしたの?」

 僕が訊くと、藍は何かをごまかすように、箸をちょっと開いたり閉じたりし、

「その、ちょっと、気になって……というか」

 と言葉を濁す。

「まあ、好きだけど。大好きだけど」

「そ、そう……」


 正直な答えを返すと、それが意外だったかのように藍は目を少し見開いて、口元で小さく笑った。


「わたしも大好き」

「……う、うん」


 先に自分で答えておいてなんだが、彼女からの直球の好意にたじろぐ。

 あまり人の多い学校の食堂のような場所でするべき話ではない気もする。


「……じゃあ、もう一つ訊いていい?」


 僕の返答に気持ちを明るくしたのか、表情の和らいだ藍がこちらを窺うように見上げる。


「わたしのどんなところが好き?」

「ぶふっ……」


 また、麺を吹きかけた。


「……それも、ちょっと気になって、ということ?」

「うん」

 藍が何を考えているのかまたぞろわからなくなってくるわけだが、それでも訊かれたからには僕は答える。息が詰まった沈黙を続けているよりはずっとましだ。


「……一番好きなのは……、雰囲気、かな」

「雰囲気?」

「うん、そう。柔らかい雰囲気、というか、一緒にいて……、癒されることが多いような、そういう雰囲気」


 実際、その柔らかな雰囲気が好きだからこそ、息の詰まるような状況は回避したいとそう強く思う。


「そう……そうなんだ。うん、わかった」


 そう言って、顎に手を当てる藍。

 何がわかったか定かではないが、彼女がわかったと言ったからには本当に何かわかったのだろう。


「……最後にもう一つ」


 そして、ひどくまじめな表情をした藍が僕の目を見て、こう言った。


「わたしの、一番嫌いなところは……どういうところ?」


 ※


 ※


 ※


 逃げた。

 逃げてしまった。

 一心にこちらを見つめる藍の真剣な瞳にごまかそうという気すらおきず、その場にいたたまれなくなった僕は、ごめん、ちょっとトイレ、などと抜かした挙句、そのまま食器を片付けて食堂を出てしまった。

 藍の返事を聞くこともなく。彼女の質問に答えることもなく。

 人でごった返す食堂に彼女を一人にした。

 よりにもよってあんな質問をされた後に。


 人通りの多い廊下を通って、食堂から遠ざかる。振り返ることも気まずくて、足早に歩を進めた。

 手近にあったトイレに逃げ込む。

 少なくともこれで嘘はついていないことになった。

 トイレに行くと言ったからといって、用を足すとは限らないのだから。


 薄汚れた鏡の中に映る、冴えない自分の顔を見つめる。

 

「……」


 逃げたのはなぜだろう。

 目を逸らしたのはなぜだろう。


 考えるまでもなく、その答えは明らかだった。


 思い当たる節があったから。

 彼女の質問に答えるべき答えがそこに存在していたから。


 だから、僕は逃げたのだ。


 嫌いだと明確に言えるわけではない。正確にそうだと確信しているわけじゃない。

 だけど、問われてすぐに思い浮かんだということは、僕自身、薄々心のどこかでそう感じていたということだ。


 ……それは昨日からなのか。

 昨日、藍に言われた『ありがとう』の言葉。そこから感じた奇妙な心象が、僕の心を動かしたのか。


 いいや、違う。

 そんなに日の浅い感情ではそれはない。


 一日のうちに生まれた感情に、僕の心がそこまで振り回されるとは思えない。


 なら、きっとそれはずっと感じていたこと。

 心の片隅で鳴りを潜め、ずっと見ないようにしてきたこと。

 それが表面化してきたと考えるべきだ。


 冷静さを失って藍を責めた昨日の自分。

 僕が感じたその想いは。

 僕の心に生じたその感情は。


 振り返り、思い返し、考え、言葉を探し、やがて、見つける。


 言葉の意味として知っていたその言葉。

 けれど、鈍い僕は今日までそれが自分の心の中に生まれていたことを気づかなかった。


「……劣等感」


 ぽつりとつぶやく。


 自分が誰かよりも劣っていると、そう感じるということ。

 劣って劣って、どうしようもなく劣って、自分自身がひどくくだらない馬鹿者に感じられること。


 無力感も、虚無感も、孤独感も知っていた。

 けれど、これまで人と深く関わることを知らなかった僕はそれを知らない。


 劣等感。


 割合、よく聞く言葉かもしれない。

 けれど、その心象は僕の耳には馴染み深くとも、僕の心には馴染み深くない。


 劣っていると感じるということはどういうことか。


 それは比較対象がいるということだ。

 誰かと比べる、ということだ。

 比較した上で、劣っていると感じるということだ。


「藍の方が優れているのなんて、そんなの百も承知だったはずなんだよなあ」


 ぼそりと言って項垂れる。

 顔を上げると、鏡の中の自分が情けない表情で苦笑を浮かべていた。


 地頭のよさでは比べるべくもない。

 性格のよさでも同じ。

 行動力……、微妙。

 勇気……、もはや比べるのもおこがましいね。


「あとは…………愛情」


 これはもはや語るに及ばず。

 一度、自分の心を疑った僕に藍の愛情に勝るものがあるのだろうか。


「ああ、でも、それは……」


 百日に励ましてもらったっけ。

 なろうとする気持ちの方が強い、だとかなんとか。


 ……ごめん、それでも、僕の心が藍より勝っているだなんて、到底思えない。


「はあ……」


 水道の蛇口をひねって、少し冷えた水で顔を洗う。

 濡れた顔に秋の空気は冷たく感じ、しかしそれでも、気持ちは晴れない。


 蛇口を閉めると、折悪く、ちょうどトイレに人が入って来た。

 つるむチャラい外見の男二人。


 やむなく澄ました顔で外に出る。


 そのまま教室に向かうべきか思案して、そして、無言で首を振る。


 絶対にそれはまずい。

 今戻ればたぶん、藍はいるだろう。

 顔を合わせることが気まずいとは思いはしないが、さりとて、劣等感を自覚した今の僕が藍にどう振る舞うのか、やや不確定な部分がある。

 ……昨日のように、またぞろきつい言葉を吐いてしまうかもしれない。

 それは嫌だ。

 これ以上、藍に劣る自分など見せつけられたくはない。


 だから、僕は考えて、そうして思い出した。




「やあ」


 一木先生は、以前会ったときと何ら一つも変化することなく、ちょっとどころも変わることなく、僕に向かって手を挙げた。

 白衣を着て、片手にコーヒーの入ったカップを持って、もう一方の手で僕に挨拶をした。

 変わることのないその姿に、安堵する。

 生徒相談室はいい。

 落ち着く。


「……こんにちは」

「こんにちは。相田君」


 室内を見渡したが、どうやら先客は一人もいないようだった。


「少し、居させてもらってもいいですか?」

「ええ、もちろん。好きなところに座ってください」


 一木先生は笑ってそう言った。

 僕はちょっと迷って、窓際にあるソファーに腰を下ろす。

 ここには何度かお世話になっている。

 藍と初めてまともに話したときと、藍の悲しそうな顔を目にしたとき。


 いずれも明確な何かをしてもらったわけではない。

 けれど、落ち着くだけの時間をくれた。


 それだけでありがたかった。


 相変わらず、座り心地のいいソファーに腰を下ろし、ぼーっと外を眺める。

 昼休みの喧騒はほとんど聞こえない。

 静かで、余分な揺らぎのない穏やかな空間だった。


「コーヒーをどうぞ」

「あ、どうもありがとうございます」

「いえいえ」


 目の前のテーブルにコーヒーカップとソーサーを置いて、一木先生は自分のデスクに戻っていく。

 僕はその背中に声をかけた。


「あの」

「はい?」


 振り返った先生が僕を見る。

 僕は続けた。


「ちょっと、相談に乗ってもらえないでしょうか?」

「相談ですか。ええ、構いませんよ。何せこの部屋は生徒相談室ですからね。生徒が相談するのに何の差し障りもありません」

 そう言って、先生は愉快そうに笑みを深めた。

 それから、壁際のコーヒーメーカーから自分の分のコーヒーを入れ直してきて、それをテーブルの上に置き、僕の体面に座った。


「今日はいい天気ですね」

「え、ああ、まあ、そうですね」


 言われて窓の外を見ると、十月の空は思いのほか明るく、太陽の光は燦燦とグラウンドに降り注いでいた。

 入れられたコーヒーに手をつけ、一口飲む。

 鼻に少し酸味のある香りが広がって、口中に温かい液体が流れ込む。


 とても苦く感じた。


「ああ、すいません。砂糖やミルクを入れた方がよかったですね」


 僕の表情から味の感想を読み取ったのだろう。

 先生が少し申し訳なさそうに言って、砂糖とミルクの入った容器を棚から取ってくる。

 差し出されたそれを礼を言って受け取る。


 コーヒーに入れてかき混ぜ、もう一度飲む。


 今度は少しまろやかな味がした。


「それで、その、相談というのはですね」

「はい」

「……先生は誰かより自分が劣っていると感じたことはありますか?」


 僕のその質問は話す順序を少しばかり弁えていないものだったのかもしれないが、それでも、先生は嫌な顔一つすることなく、淡々と答えた。


「それは、あります。普通に生きていてそういうものを感じずに生きる、というのはなかなかに難しいものなんじゃないでしょうか」

「そう、ですよね。なら、訊きたいんですけど、そういう、劣等感、を覚えたとき、先生はどうされましたか?」

「どうしたか、というと、それをどういう風に乗り切ったのか、ということですか?それとも、感じた相手にどうしたのか、ということですか?」

「えっと、両方ですかね。その……特にそれを身近な誰かに感じたときなんかには、どういう風にされたのかなって」

「ふむ」


 先生は顎に手を当て、少し考えるような仕草をした。

 それから、顔を上げ、にこやかに笑う。


「そういうときの対応ってほんとに人それぞれ、という気がしますけれど、私自身の意見でいいのなら」

「あ、はい。むしろそれが聞きたいです」

「ありがとうござます。そう言っていただけると嬉しいですね」


 カップを持ち上げ、先生は一口ぐびりとコーヒーを飲む。

 それから言った。


「世の中いろんな人がいますからね。明らかに自分よりも頭がいいと思う人もいれば、人格的に優れていると感じる人もいる。そういう中で、自分自身を向上させていこうという気概を持って生きている人ならば、絶対にそれは感じるものだと思うんですよね。だから、前提として、劣等感を覚えるというのは今まさに成長している中にある人だ、ということを知っていてほしいと思います」

「……成長の中に」

「はい。向上心がなければ、劣等感は生まれません。自分を向上させようという気概のない者が自分よりも優れている者を見たところで、ああ、すごいな、って思うだけか、最悪、つばを吐きかけるだけです。劣等感なんて覚えません。少なくとも、私はそう思います」

 

 成長しているから、向上しようとしているから、劣っていることがより如実に感じられてしまう、ということか。

 だとすれば、僕は今、成長しようとしているのだろうか。

 一体、何を、だろう。何に関して、僕は成長しようとしているというのか。


「だから、もっともわかりやすいその感情の解決策は成長し続けることです。成長し、成長し続ければ、いつか自分が劣等感を覚えた相手を追い越すときが来るかもしれない。そのとき、劣っているという感情は消え失せる」

 言って、一木先生は僕を見る。

 僕はその言葉に少しの納得と、同時に疑問を覚える。


「相手を追い越した、ということはどうやって判定するんですか?」


 追い越したかどうかが明確にわかるような分野のことならばいいが、そうでなければ、例えば性格がいい悪いとかいう問題については、追い越したかどうかなんて明確にわかるようなものじゃない。

 そういう場合、何を以って追い越したと定義するのか。


「判定なんてしなくてもいいと思いますよ。劣っていると感じたのが自分の心ならば、追い越したと感じるまで自分を向上させればいい、単純なことです」

 当たり前のことを言うように先生が言う。

 僕はそれにさらに問いを重ねた。


「でも、それってつまり、追い越したのがわからなかったら、ずっと頑張りつづけなければいけないということですよね?」

「まあ、そう言えないこともないですね」

 先生は頷く。

 言葉にすれば簡単だが、それってものすごくつらいことのような気がする。


「とはいえ、一度感じたその感情が永遠に続くとも限らないわけでしょう? 何かのきっかけでそう感じたことがなんでもないことのように感じられるかもしれない。あるいは、劣等感を覚えた相手が実はそれほどすごくないと思うようになるかもしれない。必ずしもずっと頑張りつづけなければいけない、ということはないと思います」

 先生は言って、もう一口コーヒーに口をつける。


 僕はその理屈に一定の合理性があると認識し、けれど、まだ疑問は浮かんでくる。


「努力して追い越そうとする、それだけが劣等感を克服する方法なんですかね」


 正直、それならば、今の僕自身の感情の解決策にはならない気がする。

 藍よりも劣っていると感じたのは確かだが、それでも劣っていると感じたのは勉強とか、運動とか、そんなわかりやすいものじゃないのだ。

 人としての器、というか、度量、というか、そういうものな気がする。

 そういう明確に数字で表せるわけではない曖昧なものが劣っていると、僕は感じたのだ。


 だから、追い越したことが明らかにわかることではないし、第一、どうやって追い越せばいいのかもわからない。


 僕のその疑問に、先生は良い質問ですね、と小さく頷いた。

「人にはいろいろなことに対する適性、というものはあると思います。だから、頑張りつづけたところで本当にその相手に追いつけるかどうかはわからない。というか、追いつけないと感じる人の方が多いと思います。けれど、そんなことは当たり前のことだとは思いませんか? スポーツの世界でも、トップにいる人たちはほんの一握りです。言い方は悪いですが、その下にいるような人たちがずっとそんな劣等感に苛まれていると思いますか?」


 先生は手の平を僕の方に向けるようにして、疑問を投げかける。

 その質問に僕はほとんど考えることもなく、首を振った。

 彼は続ける。


「ある程度、自分を諦める、というのも一つの方法だと思います。諦める、という言葉が気に食わなければ、他人と比較するのをやめる、と言ってもいい。自分は自分だ、と。誰かよりも、という視点ではなく、自分が目指すべき地点を目指す、という考え方をする。これによってある程度劣等感は克服できるのではないかと思います」


 そして、もう一つ、と一木先生は人差し指を立てた。


「自分を知ること」


 ――その言葉に、なぜか僕は心臓がどくんと跳ねる気持ちがした。


「劣っている相手よりも優れている自分を見つけること。何かあるはずです。あなたの良いところが。ないことはないでしょう。あなたはとても優れた人間です。誰にだってそれがある。あなたにだってあるはずです。だから、見つけましょう。彼女よりもあなたが優れているところを。そうすることによって、あなたはもう一度、きちんと彼女と向き合うことができるはずです」


 先生は真剣な目をしている。僕と目と目を合わせ、それから、口元で微笑む。


 一瞬にして喉がカラカラになったように感じて、僕は目の前のコーヒーを飲んだ。

 元々は苦いはずだと感じたその液体は砂糖とミルク、それから自身の喉の渇きという要素を組み合わせることで、とてもおいしく感じられた。


「……よく、わかりましたね。僕が藍とのことを考えているって……」


 今の先生の言葉は明らかに僕の現状に寄り添った言い方をしていた。それに感づいていなければ、そんな言葉が出てくるわけがない。


「こう言っては何ですが……」

 どこか気まずそうに先生は口を開いて、それから言った。

「相田君が劣等感を覚えるような相手は九々葉君ぐらいしか考えられなかったもので」


 それを聞いて、ひどく納得した気持ちになる。

 確かに、それはそうだ。


「……まあ、そうですよね」


 一木先生からもそういう風に見られている自分をちょっと情けなく思ったけれど、まあ、事実なのだから、仕方がない。


「それで、私の意見は少しはお役に立ったでしょうか?」


 先生が言って、僕はそれに頷きを返す。


「はい。ありがとうございました。自分なりに考えてみます」


 ちょうどそんなところで昼休み終了五分前を告げる予鈴が鳴り、僕は生徒相談室を後にした。


「今度は九々葉君と二人でコーヒーを飲みに来てください」


「はい!また」


 そう言う一木先生に頭を下げ、僕は教室に戻った。




 教室に戻ると、前の座席の百日と何か話をしていた藍が、僕の方を向いた。

 目が合い、僕はちょっと気まずい面持ちになったが、何とか目を逸らすことだけは踏みとどまる。


 その代わりと言ってはなんだが、藍の方が僕から顔を背け、百日の方に目を戻した。


 僕はその態度に、さっき逃げ出したことに対する責任を感じたが、ここでまた逃げ出すわけにもいかない。

 そのまま席に着く。


 藍はちらと横目で僕を見やり、百日との話を切り上げて、机の中から次の時間の授業の教科書とノートを取り出した。


 そんな彼女の姿に、なんとなく僕が話しかけるのを拒んでいるような空気を感じたものの、僕は構わず口を開く。


「その、さっきはごめん」

「……」


 手元に目をやっていた藍が一瞬固まって、ゆっくりとこちらを向く。


「う、ううん。大丈夫。変な質問しちゃったわたしも悪かったから」


 彼女の面に浮かんでいる表情は言葉としては微笑みに近いものだ。けれど、どうしてか僕はその笑顔に対して、痛ましいという感想しか出てこなかった。

 それっきり藍は目をまた机の上に戻し、僕の方を見ようとはしない。


 僕もこれ以上何を言ったらいいのかがわからなくなってしまい、それ以上言葉を継げなかった。


 そんな僕らの様子を、前の席の百日は僕と藍に交互に目線をやるようにして見つめていて、はあ、と小さくため息をついた。


「……ボクに何かできることはあるのかしらん」


 ぽつりとつぶやいた彼女の声が聞こえて、多少おどけた風な言い方ではあるものの、百日にさえそんな心配をかけていることがたまらなく申し訳なかった。

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