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あいだけに  作者: huyukyu
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変で不変な普遍的変化

 人は変われるだろうか。


 現在ただ今、この地球上に何十億何千万人の人がいて、一体全体何通りの考え方と感じ方をして、一体全体何通りの人生と何通りの挫折と苦悩と絶望に塗れているのか知らないけれど。


 数十年という短き人生を通して、自分を変え続けた、向上し続けたと断言できる人間がいたとして、その人は本当に自分を変えているのだろうか。

 そもそも変わったとは何だろう。

 変わるとはなんだろう。

 

 自分が自分でなくなるということか。

 それとも、自分が自分であったまま、欠点を克服するということだろうか。


 どれだけ努力して、どれだけがんばって、どれだけ血反吐を吐いて、理想を追い求めたところで、一人間には限界がある。

 変わりたいと思っても、変われない限界はきっとある。

 自分が誰かになれるはずはないし、誰かが自分に成り代わることもできない。


 相田涼は九々葉藍にはなれないし、九々葉藍は相田涼にはなれない。

 どれだけ知ろうが、どれだけ好きになろうが、どれだけ愛そうが、大好きな誰かに成り代わることはできないし、そうしたいと思う人間もそういないだろう。

 好きとはそもそもそういうことではないだろう。

 違うから、好きなのであって、同じだから、好きなのであって。


 自分であるということが、違うということでもあり、自分であるということが、同じであるということであっても、僕の見つめる誰かというのは、僕ではないし、それ以外の誰かでもないし、その人は僕と違っていて、同じでもある。


 何が言いたいかと言えば、相田涼がどれだけ努力したところで、届かない領域というのはたしかにあるということだ。

 僕はひどく変な人間で、藍のことが好きで、栗原のことを優しいと思っていて、百日のことを面白いと感じていたりしても、ひどく変な僕も、藍を好きな僕も、栗原を優しいと思う僕も、百日を面白いと感じる僕も、みなすべて等しくありながら異なり、それらは類似するようでいて、まったく矛盾する性質を内包している。

 けれど、僕が好きな藍は僕の中にないし、優しいと思う栗原は僕の中にいないし、面白いと感じる百日は僕の中に影も形も存在しない。

 好きという、単純で、シンプルで、簡単で、感嘆で、感に堪え、わかりやすく、感情に直結するモチベーションが存在したとしても、好きな相手に自分を近づけることなどできやしない。

 自分の中に自分の求める好きな誰かの好きなところが生じた瞬間、それは僕の僕なりの解釈として、まったく別の異なる何かに変質する。


 だから、僕は藍になれないし、栗原にはなれないし、百日にはなれない。


 なりたいと思ったことなどないけれど、そんな風に生きたいと思ったこともないけれど、さりとて、そんな風になれたら、彼女たちは喜んでくれたのかなあ、と何とはなしに思うことはある。


 でも、僕は誰かにはなれないから、そんな自分を受け入れることしか道がない。

 認めたくない自分をこそ、認めることでしか、きっと僕を好きな誰かを喜ばせることはできない。


 望まれない形に落ち着くとしても、それでも、君のやった行いはたしかに僕の幸せに享受したよ。


 そうあるがままに、生き姿で示すことが、僕にできる最大限の恩返しだろう。


 変われない僕はただ、変わらないままに変わって、変わらない代わりに、変われない代わりに、それを示すしかない。


「……藍はずっとずっと変わり続けていると、僕はそう思っていたのに?」


 ……そう。


「僕を好きだと言ってくれた栗原は、いじめられるばかりに不器用だった彼女から、優しい彼女のまま、誰かのために動ける彼女のまま、それでも、みんなの中心にいられるようになったのに?」


 ……そうだよ。


「自分かわいさに藍も僕も栗原も斎藤も振り回し、挙句の果てに自分勝手にクラスを騒がして、自分で結論を出した百日が今や、本当の意味で藍のことを想い、彼女のために僕らを戒め、怒るまでになったというのに?」


 ……まったくもってその通り。


「なるほど。僕って言う人間はそうまでして頑なに自分を守り続ける自己中な人間なわけだ」


 誰に求められたわけでもないのにね。


「自分だけのわがままなはずなのにね」


 頑なに。


「わがままに」


 自分勝手に。


「他人事みたいに」


 誰かのためなんかでは絶対なく。


「ただそう。僕自身一人だけのために」


 意味もなく。


「理由もなく」


 意志もなく。


「意思もなく」


 変わり続ける彼女たちを差し置いて。


「僕だけは変わらない」


 ため息が出るね。


「ほんと」


 でもさ。


「でもね」


 そのままでいいなんて思ったこと、僕は一度もないんだよ。


「そのままでいいなんて思ったこと、僕は一度もないんだよ」


 だからさ。


「だからね」


 そろそろ踏み出してもいいんじゃないかな。


「そろそろ前を向いてもいいんじゃないかな」


 変わりつづけないことにも疲れたよ。


「そんなことにはとっくに飽きたよ」


 停滞するなら、一人でいい。


「手痛い敗北を喫するのなら、一人でいい」


 けれどね。僕はもう一人じゃないわけで。


「一人でいることには嫌気が差しているわけで」


 だから、変わろうじゃないか。


「だから、変えようじゃないか」


 変わらない僕を、変え続ける。


「変えられない自分を、変えてみせる」


 結局、それも自分のためなんだけれどね。


「畢竟、それも誰のためでもないんだけれどさ」


 それでも。


「それでも」


 僕はそれでも、変わっていく。


「相田涼はそれでも、前を向く」


 さあさあさあ。プロローグを紡ぐのはもういいじゃないか。


「さあさあさあ。プレリュードを響かせるのはもういいじゃないか」


 世界(じぶん)のすべてを変えに行こう。


自分(せかい)のすべてを変えに往こう」


 僕はそう決意した。


「相田涼はそう決意する」


 他でもない――


「――自分自身のために」


 なーんて、ぜんぶ、ひとりごとだけどね。




小説というよりほとんど詩ですね。最近個人的に詩ばっか書いてたのでこうなりました。これだけでは味気ないので、次話は日曜23時にも。

実のところ、一番何考えているのかわからないのが相田君。

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