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あいだけに  作者: huyukyu
134/180

鋭さ

「はーい! みんな、ちゅうーもーく!」


 予定したお昼のお店の前までやってくる。

 雰囲気や内容より値段で選んだということなので、少しばかり古い印象はあるものの、それでもお昼時ということもあって、三十台分くらいの駐車場にはほとんどいっぱいに車が駐車している。今日がわたしたちの高校の創立記念日であって、世間的には平日であることを考えると、それなりに賑わっている店だと言えた。

 

 それから、るりの友人であるところの珠洲(すず)さんと末長(すえなが)さんによって、てきぱきとお客さんの出入りの邪魔にならないよう駐車場の一角にクラスのみんなを誘導する。入り口の前に車椅子用のスロープがあって、その通り道を塞がないようスロープの手前に三列くらいになって並んだ。

 スロープに上がり、少し高い位置から声を張り上げるるり。


「これからこのお店でお昼にするわけなんだけど、一つ、提案があります!」


 なんだなんだ! と、列の一番後ろで、るりの友人であるところの珠洲紗友里さんが芝居がかった声を上げた。


「親睦を深めるっていう目的なわけなので、普段と同じ人とばっかりしゃべっててもつまんないでしょ? ということで、わたしの方でグループ分けをさせていただきました。四人掛けのテーブルらしいので、いつもとは違う四人で昼食を取ってもらいます!」


 面白そう! と、これまたるりの友人であるところの末長朱美さんがやけに感情のこもった声を漏らす。

 

「はい、サクラの二人ともありがとう」


 そうるりが言ったところで、どっとみんなに笑みが零れる。

 わたしもつい笑ってしまった。

 こういうところはさすがはるりだと思う。

 いつもクラスの中心にいるだけあって、扱い方を心得ているというか。


「……まあ、まじめな話、変な感じにならないよう、一応、わたしの方で気を遣ってグループ分けをしたので、気まずい雰囲気にはならないと思います。なので、普段話さない人ともがんばってコミュニケーション取ってみてください」


 それから、グループ分けを始めるるり。

 名前を呼ばれた人から順に前に出てもらって、グループを作ってもらう。

 呼ばれたわたしも、男子一人、女子一人と一緒に少しまとまって並ぶ。四人グループの残りのメンバーはるりだ。

 眼鏡をかけた大人しめな男子、日和夕(ひよりゆう)君と、茶色っぽいロブ(ロングボブ)の髪に切れ長な瞳をした女子、絹川悠里(きぬかわゆうり)さんはどこか所在なさげな様子だ。


 周りの様子を窺ってみると、他にも何人か居心地の悪そうな表情をしている人はいるものの、グループ分けそのものに不満を持っている人はいないようだった。

 誰と誰がかみ合わないかぐらい、大体もう把握しきっているからね、と、事前にるりは自慢げに言っていたけれど、それは概ね真実のようだった。


 二十四人分、計六グループできたところで、ぱんと彼女が手を叩く。


「準備おっけー、ということで、さあ、みんなで元を取りましょう」


 露骨な言い方に何人かがくすりと笑い、微笑んだるりが店内に入っていく。

 和やかな雰囲気になったクラスのみんなが、その後ろに続いた。




 各々のグループがそれぞれ四人席に着く。

 わたしたちのグループも同様に。わたしの隣にるり、その向かいに絹川さん、その隣に日和君という並びだ。

 腰を下ろしたところで、正面の日和君と目が合って、彼は照れくさそうに視線を逸らした。


「栗原せんせー! なんでそっちの席だけ女子三人固まってんのー? こっち男子四人でむさ苦しいんですけどー」


 遠目の席に座った男子からるりにふざけ半分に不平を述べるような声が投げかけられる。

 それに少しだけ笑い声を漏らした彼女が口に手を当てて言った。


「幹事権限でーす。異論は認めませーん!」

「横暴だー」

「それに、園田君も男だけの方がうれしいでしょ?」

「いや、俺そっちの趣味ねーから!」


 また少し、くすくすと笑みが零れた。

 正面の日和君はあはは、と控えめに相好を崩している。


「……じゃあ、みんな、あとはおのおの任せた!」


 手を広げたるりが言って、「雑だなおい!」とどこかから叫んだ声が聞こえてきて、またちょっと笑いが起きた。


「さて……」


 息をつくように腰を落ち着けたるりがぐるっと、わたしを含めた三人の顔を見渡して言う。


「とりあえず、何か取りに行こうか」

「……うん」


 わたしは小さく頷き、あとの二人は黙って腰を上げた。




 バイキング形式、別の言い方をすればビュッフェスタイルのお店なので、揚げ物やお寿司やパン類など、いろいろなコーナーがあるけれど、とりあえずは前菜、ということでサラダ類をチョイスする。

 日和君はなぜだかいきなりケーキ類の方に行って、るりは揚げ物の方に行った。

 ……二人とも、マイペースだなあ、と思いながら、サラダのコーナーに一緒についてきた絹川さんを見やる。

 これでもかというくらい、シーザーサラダを山盛りにしていた……。

 ……訂正、三人とも、マイペースだった。

 まあ、別に何から食べようとか、好き好きだとは思うけど。


「好きなの? シーザーサラダ」

「……別に。嫌いじゃないけど、好きでもない、かな……」


 せっかくなので絹川さんに話しかけてみる。るりと一緒にいるときなど、たまに話したことはあるけれど、基本的にはあまり一緒にいることはないタイプの人だ。

 人と話すときは話すときで一緒にいるし、話さないときはとことん一人でいる人。

 良くも悪くも自分のペースを維持している、という印象がある。

 ……まあ、わたしの周りは比較的、そんな人ばっかりなんだけど……。……わたしも含めて。


「好きでもないのに、そんなにいっぱい取るんだ?」

「……まあ、その、気分的に……」

「ふぅん」

「……」


 あまり歯切れのいい答えが返ってこなかったので、そんなに話したい気分でもないのかな、と会話を切り上げ、わたしはわたしでポテトサラダを盛り付ける。

 それから、お寿司のコーナーのところで玉子を一つ取って、ライ麦パンを一つ取って、席に戻ることにした。


「九々葉さん」

「……わっ、びっくりした」

「あ、ごめん」


 振り返ると、絹川さんが立っていて、ちょっと驚いた。


「……なに? どうかした?」

 絹川さんはかなちゃんほどでもないけれど、鋭い切れ長の瞳をわたしに向けて、ぽつりとつぶやいた。


「もしかして、今回のクラス会の主催者って、九々葉さんなの?」

「……えっと……」


 予想もしていなかった言葉を投げかけられて返答に窮する。

 その様子を見て、彼女は一人で納得して頷いた。


「やっぱりそうなんだ……」

「……まあ、そうなんだけど、どうしてわかったの?」

「なんか、さっきからよくるりと目と目で通じ合ってるから、なんとなく……」

「それはすごいね……、よく見てる」

「大したことじゃないけど……」


 ぼそりとつぶやく彼女だったが、そんなことはないと思う。

 アイコンタクトを取っていたということに気付くのもすごいし、それでわたしが主催者だっていう推測に至るのもすごいと思う。

 洞察力がしっかりしているし、頭も働く人みたいだ。


「なんで、そんなことを? 何か理由でもあるの?」

「……う~ん」

 不思議そうに彼女が問う。

 たしかにそれは気になるだろう。

 クラスでそう目立つ立場でもないわたしが急にクラス会なんて企画すれば。

 正直に言ってしまってもよかったけれど、後ろめたいことではないにしろ、涼にも秘密にしているのに、あまり他人に言いふらしたいことではなかったので、別の言葉を口にすることにした。


「なんていうか、その……、わたしって入学したてのころとかつんつんしてて……みんなにもいろいろ迷惑かけちゃったから……。少しでもクラスの雰囲気がよくなるよう努力したい、って感じなのかな……」

「……ふぅん」


 だから、代わりの理屈を口にする。

 本当の本当ではないけれど、嘘ではない。少なくとも、クラスの雰囲気がよくなればいいと思っているのは本当だ。……主に、クラスそのものためというよりかは涼のために、なんだけど。


「嘘つき」

「……え?」


 唐突に発せられた言葉に困惑する。

 はっとして絹川さんを見ると、彼女は考え込むように顎に手を当てていた。視線は虚空を見据えるように固定されている。

 ……わたしに言ったわけではない、のだろうか。


「えっと……」

「……」

「あの……」

「……え、あ、なに?」

「嘘つきってなんなのかなって……」

「……え、うそ。口に出してた?」

「うん……」

「ご、ごめんね! く、九々葉さんに言ったわけじゃなくて、その、自分自身に……」

「自分自身?」

「え、あ、えっと……、とにかく違うから!」

「……あ」


 焦ったように首を振った彼女が足早に自分の席に戻っていく。


「……何か、悩んだりしてるのかなあ?」


 首を傾げるしかなかったけれど、何はともあれ……。


「戻りにくい……」


 逃げるように立ち去られた以上、席に戻って即座に彼女と顔を合わせるのはなんだか少しあれだ。

 同じテーブルに座っている以上、すぐに戻ってしまうのは少しどころではなく、気まずい。


「もう少し、取ってから行こうかな」


 改めて、所狭しと並べられた食べ物の方に顔を向ける。

 たこ焼き。お好み焼き。フライドポテト。天ぷら。等々。

 たくさんある粉物や揚げ物、その内のいくらかをお皿に盛り付ける。


 それから数分ぐらい時間を潰して、取り皿は彩り豊かになったけれど、あまり大食ではないわたしにとっては多すぎる量になってしまった。


「……日和君とか食べてくれないかな?」


 唯一、同じテーブルの男子に救いを求めるが、彼はわたしほどではないにしろ、男子にしては比較的小柄な方だったので、大分、希望は薄そうな気がした。

 大体、初めにケーキを取りに行った時点で、あまりたくさん食べる方ではないのだろうし。


「……がんばって自分で食べようか……」


 そっとお腹の辺りに手をやった。

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