おしおき
「こ、これでいいの?」
「そうそう。そんな風にばんざいしてようか」
涼がわたしの両手首を押さえつけて、リボンできつく結ぶ。
両手をばんざいするように上げて、そのままの状態で手首を固定されたわたしはベッドの上で上手く身動きが取れなくなった。
パンダのパーカーは脱いで、今は薄いTシャツ一枚。
下はキュロットスカートのまま。
「じゃあ、まあ、始めようか」
「う、うん」
おしおき。
涼が寝ている間に、彼にいろいろとやりすぎてしまったわたしはひどく反省して、彼に謝罪した。
最初は呆れていた涼も、普通に許してくれたんだけど、なぜか話の流れでわたしが涼にそのおしおきをされる、みたいなことになってしまった。
どうしてこうなったのかぜんぜんわからないけど。わたしは別に涼におしおきしてほしいなんてこれっぽちも思っていなかったし、何なら仲直りのしるしに頭を撫でてくれるくらいがちょうどいいとさえ思っていたのだけれど、ほんとうに涼とわたしのどちらにも非がなく、話の流れでこうなってしまった。
そう。うん。そう。どちらにも非がなく! 話の流れで!
決して、わたしが自分から言い出したなんていうことはありません。
わずかな不安を込めて見上げるわたしに、ひどくまじめな顔をした涼が覆いかぶさるようにして体を近づけた。
涼の両手の平がわたしの脇腹の辺りに添えられる。
薄い生地を通して彼の体温を感じた。
……こうして、自分が身動きが取れないままに敏感なところを触られると、むずがゆくて、どきどきして、ぞくぞくしてしまう。
――繰り返して言うけれど、わたしが望んでこうなったわけではありません。
「……あっ」
「こちょこちょ」
脇腹に当てられた手を上にそっと優しく動かして、涼が脇をくすぐる。
その感覚がこそばゆくて、身をよじるように反応してしまう。
思わず、小さくない声が漏れ出た。
「――んっ。あ、ははははっ……、んふっ、ははははははっ」
くすぐられて、くすぐったくて、でも、自分で払いのけることもできなくて……。
「……あ、んぅ……あぅ……あ、ははは。……だめぇ……」
これ、ほんと、やばい……。
「気のせいか、悦んでない? 藍」
「……ぜ、ぜんぜん、そんなこと……、あ、あははっ……、な、ないよ! あははっ」
「……まあ、自分から言い出しておいて今更か……」
涼が何か言っているけれど、あんまり耳に入ってこない。
……ほんと、これ、くすぐったくて……、耐えられなくて、でも……、きもちいい……っ。
「もはやMっ気があるとかいうレベルの話じゃないけど……。藍がしてほしいなら、まあ、いいんだけど」
苦笑するように涼が言うけれど、わたしはそれどころじゃない。
身動きが取れないまま、いろいろなところをくすぐられて、どうにかなっちゃいそう。
「……涼、もっと、もっとして……」
「まったく、藍はわがままだなあ」
うん。そう。わたしはわがままだから……。
もうわがままでいいから、涼にいっぱい、いっぱいいろんなことしてほしい。
さっき耐え切れず鎖骨を舐めてしまったときから、自分の中で、どこか自制をかけていたところのタガが完全に外れてしまったみたいだった。
「……りょぉ、きす……」
「っ……、う、うん」
あたたかい唇同士が触れ合って、濡れて、とろけて、溶けちゃいそう。
……ああ、すきぃ……りょう、すきぃ……。
何度も何度も溶け合うみたいに、もつれ合うみたいに、絡み合うみたいに、キスをする。
吐息も荒くなって、鼓動が早くなって、意識が浮かんでいくみたい。
そのうち、どちらからともなく、唇を離すと、涼がびっくりした顔をしていた。
「……はぁ……はぁ……」
「あ、あい、ちょっと、落ち着こうか……」
「どうしてぇ?」
呂律が上手く回らなくて、見上げた涼の瞳に困惑が浮かんでいる。
「……いや、なんていうか、普段に比べて冷静さを欠いているというか、寝ぼけてるのかなんなのか、いろいろおかしくなってるみたいだから、一旦落ち着きをさ……」
「だめぇ、今がきもちいいの。今、いっぱいイチャイチャするの!」
「……いや、それはさ」
それ以上、涼に言わせないで、また、キスをする。
彼は目を見開いて、でも、拒まずに受け入れてくれる。
だから、涼が好き。
……ちょ、ちょっとやり過ぎてしまっているかもしれないけれど、で、でも、今日くらい、二人だけの今日くらい、別にいいよね?
「……りょうは平気なの?」
「な、なにが?」
わたしは涼にいたずらっぽく問いかける。
彼は明らかに動揺した声を出した。
「わたしは今、手縛られてて……、身動きが取れなくて……、で、ここにいるのは涼一人。誰も見ていないし、わたし以外の誰も、涼が何をしても咎めないんだよ? そして、わたしは涼のぜんぶ、受け入れてあげる。涼のしたいように、できるんだよ?」
「……っ!」
びくっと肩を跳ねさせた涼が単純で、かわいい。
当惑する瞳に、甘えた声を出す。
「……ねえ、涼の好きなようにして……」
「――っ」
震えた瞳に、少しだけ傾きかけた感情が覗く。
でも、それでも、涼はわたしを気遣う優しさを忘れないみたいで。
「……本気で嫌だったら、嫌って言ってね」
「うん……」
だから、そんな涼をわたしは受け入れる。
……いろいろ後で思い出して、恥ずかしくなりそう……。
わたしは自分で思ってるより、えっちな子みたい……。
暴走藍ちゃん三連弾