いじめる
膝枕というのはどうしてこんなにも心地がいいのだろう。
柔らかさと弾力を持った藍の太ももに頭を埋めると、とても幸せな気分が心に満ちる。
後頭部から首にかけて、触れている彼女の肌の感触が心地いい。
太ももの上に仰向けに寝転がる僕を、藍が慈しむような目で見つめている。
見下ろす藍と、体を横たえながら見上げる僕。
短いスカートから伸びる白い肌がちょっと冷たくて、熱を持って触れ合っていた先ほどの時間から反転して気持ちがいい。
そっと指先で押してみると、すべすべとした感触に弾力が返ってきて、もっと長く触っていたいと思ってしまう。
両太ももの隙間に指を滑り込ませると、ぴくっと藍が体を反応させて身をよじった。
「りょう、くすぐったいよ……」
言いつつも、彼女は僕の行動を咎めない。
僕がしていることを全部、受け入れてくれていて、頬を染めながら、どこか嬉しそうに口元に笑みを刻んでいる。
元々藍は寛容な子だ。
僕に悪意がなかったら、大抵の場合はなんでも許してくれる。
風呂場で体を触ったときも、欲望に任せて押し倒してしまったときも、結局、彼女は許してくれたわけだし。
だから、僕はそんな風に彼女の寛容さに甘えてしまう。
指を挟み込む太ももの感触を感じながら、付け根に向かって内ももをなぞっていくと、微笑みをたたえていた藍もさすがにちょっと不満そうな声を漏らした。
「ん……。涼、さっきはあんな風にわたしの行動を咎めたのに、自分はそういうことするんだ?」
「そういうことって?」
「……だからっ、その……、わたしを……え、えっちな気分にさせるようなこと……っ」
「今、藍はえっちな気分になってるんだ?」
「っ……。だって、涼がそんなとこ……ゃんっ――!」
答えを皆まで聞く前に彼女の内ももをさらに付け根側に向けて撫で上げた。
「この辺、人に触られるとけっこうくるよね? 藍もそう?」
「だって、そこ、もうほとんど……、あ」
「っと」
ちょっとやりすぎかけたので、手を引っ込める。
藍の言うように、自分で言ったこととやっていることが離れているのはよくないからね。
決して、彼女を焦らすようなことがしたいと思っているわけじゃあない。
「りょうのいじわる」
藍が頬を膨らませてそう言った。
子どもっぽい表情がとてもかわいい。
「藍がとてもいじめがいがある性格をしているのも一因だと思うけどね」
「どんな性格なの、それ」
「んー。なんていうか、ちょっとしたことでも恥ずかしがったり、過敏に反応してくれたりっていうか。無口キャラっぽいのに、全然そんなことないところとかね」
「……よくわからないよ」
彼女が首を傾げるのも無理ないか。僕の主観によるところの話だし。
「じゃあ、あんまりいじめすぎるのもよくないということで、藍が何か僕にしてほしいことがあれば、応えたいと思うんだけどどうだろう? こうして僕が膝枕してもらっているみたいに」
「……んー」
藍が顎に手を当てて、考えるような仕草をした。
そして、数瞬の後、また顔を赤くして、どこか困ったような表情で僕を見た。
「キス」
「え?」
「キス、してほしい」
言って、ぷいっと藍が顔を逸らした。
僕は体を起こす。
「それはプラトニックな方? それとも、えっちな方?」
「そ、そんな確認取らなくていいから!」
「ふむ……」
焦ったように否定するところを見ても、どっちを藍が求めているのかは明白だろうか。
そっと頬に手を添えると、藍が目を見開いて、それからすぐにゆっくりと閉じた。
一瞬前には拗ねるような態度だったのに、今はもう嬉しそうに頬をほころばせていて、ころころと変わる彼女の表情をとても魅力的だと思う。
「あ……」
してほしいと自分で言っておいて、実際にされると、不意を突かれたような声を上げる。
真面目なようでいて、えっちなことにも興味がある。
いじめるのが好きで、なおかつ、いじめられるのはもっと好きらしい藍。
相反するような二つの性質を内に秘めている彼女をとても愛らしいと思う。藍らしいと思う。
すぐに唇を離すと、藍が窺うような上目遣いで僕を見た。
「えっちな方はしないんだ……」
「してほしかった?」
「ううん。涼はきっと、わたしの心をかき乱すみたいに激しくすると思ってたから、意外」
「見損なってもらっちゃ困るよ。藍がどっちを求めているかなんて、顔を見れば明白だ」
そしてきっと、えっちな気分なときであっても、してほしいのは淡く溶けるようなキスなのだ。
わかりやすくわかりにくい彼女の性質を見通せたことが、心の底から嬉しい。
そんな僕を見つめる藍が、その小さな唇を開いた。
「涼……」
「ん?」
「好き」
短く言って、今度は彼女が唇を寄せる。
触れるだけの優しいキスがどうしようもなく心を満たした。
「好き」
顔を離して目が合うと、藍はもう一度そう言って、そっと唇に手をやる。
「もっとしたい?」
訊くと、藍は嬉しそうに小首を傾げた。
「涼は?」
「僕ももっとしたい」
「じゃあ、しよ」
今しばらく、僕らは幾度となく、淡いキスを繰り返した。
「……はぁ……、はぁっ……ん……」
「……はぁっ」
思うがままに、求め合って、触れ合って、それでも交わすのは唇のみ。
おでことおでこを突き合わせて、至近で目を合わせる彼女も僕も、そんな切ないまでのもどかしさに酔っているようだった。
じれったく、もどかしく、閾値を超えず、ただただお互いを優しく解きほぐすだけのやり取りを楽しんでいた。
けれども、それにも限界はある。
高め合うだけの密な接触がいつまでもつづくわけはなく。
「……さっき、あんなことを言った手前で、ものすごく格好が悪いんだけどさ」
「……なに?」
「今、どうしようもなくしたい」
「……っ……。……わたしも……」
僕が素直な本音を漏らすと、切なげな吐息を漏らしながら藍も頷いた。
間近で覗き込む彼女の大きな瞳はわずかに潤み、彼女の心の抑えがたい熱情を伝えてきている。
そっと、藍の胸元に手をやると、どくどくと激しく心臓が脈打っているのがわかった。
「……りょうぅ」
その小さな接触がきっかけとなったのか、藍がそっと僕の手を掴んで横にずらす。
彼女の柔らかな膨らみの感覚を手の平で感じる。
「あっ……」
力を入れて揉むと、藍が思わず出てしまったというように小さな声を漏らした。
意図していなかったらしいその声が恥ずかしかったのか、頬を染めて顔を逸らす。
「……気持ちいい?」
「ぅ……、訊かないで、そんなこと……」
ゆっくりともう一度力を入れると、慌てて藍は口元を抑えた。
声が出そうなのを我慢しているらしい。
「声、出ちゃいそう?」
「……ち、ちがっ……ゃんっ……あ、だめ」
訊くと律儀に答えようとする藍の性格を逆手に取って、口を開いた瞬間に優しく揉みしだくと、不意を突かれた藍はたまらず、かわいい喘ぎ声を漏らした。
耐え切れなくなった僕は、両の手で彼女の胸を揉む。
むにゅむにゅと。
優しく、時に力強く。
「あ……、ああ……だめぇ……」
気持ちよさそうに身を震わせながら、藍はだらしなく唇を緩めた。