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あいだけに  作者: huyukyu
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いじめられる

 食事もその後片付けも終え、相変わらずぬいぐるみだらけの彼女の部屋に移る。

 部屋に入るとすぐさまベッドに座ってと言われ、その通りに腰を下ろすと、膝の上に藍が乗ってきた。

 そのまま、しなだれかかるようにして僕の胸に抱きつく。


「……あのー、藍?」

「二人っきりだから、いいよね? こうやって甘えても誰にも咎められたりしないし」

「ま、まあ、そうなんだけど」

 

 確かに二人っきりで彼女の家にいる以上、その理屈は正しいわけだが。

 しかし、それでもあからさまにべたべたとし過ぎではないだろうか。

 本当に今更な話だが。


「それとも、涼は嫌? わたしにこうやってくっつかれるの」

「そ、そんなことはないよ」

「ほんと? じゃあ、いっぱいくっついてもいい?」

「う、うん。いいよ」

「えへへぇ」

 嬉しそうに言った藍がぎゅっと僕の背を抱きしめる。

「涼の匂いがする」

「これだけ密着していればそれはそうだろうね」

 まさしくゼロ距離でくっついていれば、お互いの匂いどころか、吐息、鼓動さえもつぶさに感じ取れるのは当然であって、藍が僕の匂いを感じるのならば、僕も藍の匂いを感じるのは必然である。

「どうしてこう、女の子はいい匂いがするんだろうね」

「それはきっと女の子だからだよ」

「答えになってないような……」

「でも、男の子から女の子みたいないい匂いがしたら嫌でしょう?」

「……それはたしかに」

「だからさ、きっとそんな風に作られているんだよ。女の子は」


 藍が言って、僕はそれに頷くでもなく、眼前にある彼女の頭を撫でた。

「ん……」

 藍が気持ちよさそうに吐息を漏らす。


 それから、彼女はペタペタと胸に触ったり、頬にキスをしたり、とにかくたくさん触れ合いを求めてきて、その度に僕は心臓をバクバクと跳ねさせていた。


 間近でくっつく藍の体の感触はやわらかい。

 優しく頬を撫でる手の平は少しぷにっとしていて、握るととてもあたたかく、手の平どころか心までつながっているような不思議な気持ちにさせられる。

 彼女が僕に抱きつく度にぎゅっと押し付けられる胸の感触は、小さいが弾力があってやわらかく、今すぐにでも手の平の中に収めたいと思ってしまう。触れればきっとあたたかく、そしてやわらかいだろう。

 揺れる黒髪が首元を撫ぜるほどに、心を甘く溶かす蜜のような香りがして、自然と彼女の髪に手を伸ばした。滑らかな髪を梳くと、くすぐったがるように彼女は首を震えさせ、でも、どこかうっとりとした表情をして。その安心しきった表情に心根をくすぐられる。

 彼女が僕に触れ、僕が彼女に触れる度、揺れ動く白い太ももは、小柄な藍の体にあってなおもっとも肉感的な部分だ。そのきれいな白い生足に優しく焦らすように触れたいと思う衝動をどうにか堪えた。


 そして、いつの間にやら、僕はベッドの上に仰向けに倒されている。

 その上に藍が馬乗りになっていた。

 お腹の上に跨るようにしている藍の感触が生暖かくて生々しい。スカートの裾がめくれ上がって、純白レースの下着が垣間見えた。


「……藍、その……」

「いーけないんだー。涼」

 僕を見下ろすようにした彼女が、常にない口調でそう言い、口元で小悪魔のような笑みを浮かべる。


「まだお昼なのに、こんなに大きくしちゃって」


 藍が上体を逸らし、右手をそっと後ろに伸ばす。

 思わず、びくっと身体を反応させてしまった。

 そんな僕に彼女が笑みを深める。

 そして、ぱっと唇を僕の耳元に寄せると、吐息交じりの声でささやいた。


「でも、だめだよ。夜まで我慢、だからね?」


 藍の瞳にはどこか陶酔するような色が浮かんでいる。表情も嗜虐的なもので、僕を手の平の上で転がさせているという状況に酔っているようだ。


「お・あ・ず・け」

「……っ」


 やばい。

 藍にそんな言動をされると、普段とのギャップでおかしな気分になってくる。


「あれー? 涼、また大きくしてるー。いじめられて、悦んじゃってるんだー?」

「い、いや、そういうわけじゃ……」

「へ・ん・た・い」

「っ……!」

「あ、またー? 涼ってやっぱりいじめられるの好きなんだー。へえ?」


 だ、だめだこれ。無限ループに陥りかねない。

 さすがにこれ以上は無理だ。


 一旦、状況から脱しようと上体を起こすが、すぐに藍に両肩を掴まれて再度押し倒されてしまう。

 にっこりと笑った顔の藍がそこにいた。


「だめぇー。逃げるのはだめー。涼はこのままー、何もできないまま―、わたしにいじめられつづけるんだよー」


 僕が逃げ出すのを妨げるように、彼女に頭を抱え込まれ、胸に押し付けられる。

 藍の小さな両の膨らみを顔の前面で感じられてしまった。

 

「むぐぅ……」

「あ……、吐息、が……」

 

 けっこう強く押しつけられているので、息をするのもままならず、彼女の体の匂いを間近で感じると共に、僕の吐息も藍の体に吹き付けることになってしまう。

 すると、先ほどまでの強気な態度はどこへやら、今度は藍の方がびくっと体を反応させた。


「や、息、が……っ」


 どこに息を吹きかけてしまったのかは皆目見当もつかないが、藍が当惑するような声を出す。

 僕はそっと彼女の腰のあたりに手を置いた。


「りょ、涼っ……、そ、そんなところに息……は、……ひゃん――っ!」


 さっきまでペタペタとお互いを触り合っていたせいか、藍も多少外的な刺激に敏感になってしまっているようで、声色が嬌声に近かった。


 結果、頭の拘束が弱まる。

 この機を逃す手はないと、彼女の腰を掴んで抱え上げると、僕に覆い被さるようにしていた藍をそっと隣に横たえた。

 どうにか馬乗りの状況から抜け出すことはできたな。


「……ん……はぁ……っ」


 体を小刻みに震わせて、甘い吐息を漏らす藍が、何かを求めるように上目遣いでこちらを見上げてきている。

 が、僕はあえてわからないふりをした。


 さきほどの仕返しとばかりに、指先だけをそっと彼女の内ももに添え、ゆっくりと付け根に沿って撫で上げた。


「っ――あ、……、んんっ……!」


 もどかしそうに太ももをすり合わせるような動きをした藍が声を上げる。

 少しだけ肩を跳ねさせて、すぐに全身の力を抜いた。


「……藍、だめだよ」


 いろいろな意味を込めて、僕がそう言うと、彼女は潤んだ瞳をして小さく頷いた。




 数分後。

 ちょっと気分を落ち着けて。

 台所を借りて、紅茶を入れてきた僕は藍の部屋に戻った。

 彼女は顔を真っ赤にしてテーブルの前に座っており、申し訳なさそうに肩を縮めている。


 なんていうか、いろいろ間違いを犯してしまった感のある態度だが、別に何もしていないのはたしかだ。

 ちょっとスキンシップが行き過ぎてしまっただけで、また、藍の心の針が変な方向に触れすぎてしまっただけで、恋人同士の関係として、何か間違いがあったわけではないだろう。

 それ以上のことはもうすでにしてしまっているわけだし。


 差し出された紅茶を大人しく一口飲んだ藍は、顔を上げて僕を見た。

 捨てられた子犬のような顔をしている。


「……そんな顔しなくても、別に嫌いになったりしないって」

「……ほんと?」

「ああ、嘘じゃない。藍にしては少し意外だったけど、別にいいんじゃないか、ああいうの。雰囲気に流されて、ああして嗜虐的なことをしてみたくなるのも普通だろう」

「……じゃあ、またしてもいい?」

「……平然とそう問い直すのはどうなんだ、と思わないでもないけど、別にいいよ。まあ、今回みたいに昼間っからっていうのはご勘弁願いたいけど」

「ごめんなさい」


 小さく謝って、藍はまた一口紅茶を飲んだ。

 僕も手元の紅茶を飲む。


「お茶菓子か何かってあったりする?」

「あ、うん。あるよ。持ってくるね」


 立ち上がった藍が率先してお菓子を取りに向かった。

 紅茶を入れてきたのとで完全に二度手間ではあるが、あの場はあれが最善だろう。

 僕もちょっと自分を落ち着けたかったし。

 ああしてイチャイチャするのは悪いことではないとは思うが、昼間から早々やりすぎるのもだめだろう。

 やはり節度は大事だ。


 戻って来た藍は手元にエクレアの乗ったお盆を持っていた。


「それも藍が作ったの?」

「ううん。これは普通に買って来たものだよ。お菓子屋さんで」

 僕の前に一つエクレアの乗った皿を置き、自分の前にも藍が置いて、もう一度腰を下ろす。


「にしても……」

「言わないで」

「え?」

「涼が何を言おうとしてるのか、わかってるから。だから、言わないで」

「……言うか言わないかはひとまず置いておくとして、ちなみに藍は何だと思ったわけ?」

「……わ、わたしのさっきの様子でしょ?」

 微妙に目線を逸らして頬を染めて、藍が言う。


「いや、お菓子を藍が手作りしないのは珍しいね、って言おうとしたんだけど」

「……っ」

「そんなに藍がさっきの話を蒸し返したいっていうのなら、仕方ないなー」

「や、やめて! お願いだから、何でもするから、それだけはやめて!」

「藍って、叩けばどんどんいろんな性癖が出てきそうだよね」

「……そ、そんなことないもん!」

「例えば……露出癖とか?」

「……」

 言うと、藍は露骨に顔を逸らした。


「あれ? もしかして図星だったり?」

「ち、違うの! あれはその、ストレスが溜まっていただけで、わたしに変な趣味があるわけじゃないの!」

「あ、やっぱりすでに何かやっちゃってるんだね」

「……っ」

 しまった、という顔をしても、もう遅い。


「ちなみに、事の詳細は?」

「い、言いません!」

「まあまあ。藍が恥ずかしがるのが好きな変態だっていう部分も含めて、僕は好きだから、言うのが恥ずかしくても別に言っちゃってもいいんだよ」

「そんな事実はないから!」


 顔を真っ赤にして否定されると、ますますからかい甲斐のあるってものだ。


 その後、藍から部屋の中で下着を脱ぎかけた話を聞いた。

 それにちょっとだけドキドキしてしまった、という話も。


 百日に比べればずいぶんかわいいものだと思ったが、からかうとその度に顔を赤くして反応する藍がかわいかったので言わずに置いた。




年が明けて最初に投稿するお話がこれである。

今年もよろしくお願いいたします。

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