1/62
-0-
からん、からん、と鐘の音が鳴る。
丘の上の風車小屋。そこにひとりの魔女がすんでいる。
その魔女はひとを喰うとも、ひとを助けるともされていた。
しかし――今現在、この現代日本で、魔女など信じるものがいるのかどうか。
中世ヨーロッパならばいざしらず、この日本の、しかも20××年に魔女がいるとおもいますかと街中アンケートをしても、「ノー」が圧倒的にしめるだろう。
そんな現代日本に、彼女はいた。
丘の上の、風車小屋。
まるでそこだけが絵本の世界のようにきりとられて存在していた。
彼女の名はヘカテー。あるいは宵闇の魔女、あるいは佐柳下弦。
どれもが彼女の名であり、どれもが彼女の名とはちがう。
どこからやってきたのかも、どこでうまれたのかもわからない。
いつのまにか風車小屋にいて、いつのまにかこの町のうわさになっていたのだ。
――風車小屋の魔女は、ひとを喰うか助けるか――。
子どもたちはたまに風車小屋へ行く。
その親たちはやめなさいと怒る。
だが、子どもたちはすくないこづかいを握りしめて、魔女の小屋へと赴く。
そして、今日もすこしおおきい子どもたちがやってくる――。