21
夕焼け色の空の下、僕は美空の隣で川の流れを眺めていた。
昼間の蒸し暑さが嘘のように、吹いてくる風はどことなく涼しげだ。
学校での最後のミーティングの後、僕たちはいつものように一緒に学校を出た。そしてどちらともなく自転車を止め、柔らかな草の上に並んで座った。
三年前と同じ場所。あの頃の僕と今の僕。なにかが変わっているだろうか。
「ねぇ、コタ?」
しばらく黙り込んでいた美空が、思い出したように微笑んで、僕に向かって言う。
「あたしたちが初めてキャッチボールした日、覚えてる?」
「……うん」
覚えてる。僕は人差し指を真っすぐ伸ばし、河川敷のグラウンドを指さした。
「あそこのグラウンドの片隅で、美空に無理やりやらされた」
あははっと美空がおかしそうに笑う。
「無理やりなんか、してないよ」
「してたよ。おれの手を、こんなふうにぐいぐいひっぱってさ」
どさくさにまぎれて美空の手をつかんで、そっと引っ張ってみる。
細くて柔らかくて頼りない、女の子の手。守ってあげたいなんて気持ちが、ふと、僕の心をよぎる。
美空はこの小さな手で、ボールを握って、ピアノを弾いて、料理をして、お守りまで作ってくれた。
「だけど……ミクに誘ってもらって、良かったと思う。おれ、ミクと野球ができて楽しかったから」
温かなぬくもりを感じ取ってから、僕は静かにその手を離す。美空は僕に笑いかけて、ちょっと照れくさそうに言う。
「あたしも……コタと野球できて楽しかったよ? 本当にありがとう」
美空の横顔に夕陽が当たる。短い髪がキラキラと光って、それがすごく綺麗で、また涙が出そうになった。
「ミク! キャッチボールでもやるか?」
美空から顔をそむけるように立ち上がって、僕は言う。
「うん! やろう!」
僕の大好きな美空の声。その声をこれからも聞きたいから、もう少し頑張ってみようと思うのは、未練がましいだろうか。
「おれ、また誘いに行くから。受験勉強中でも、学校卒業しても、無理やりでも、ミクのこと誘いに行くから」
グラブを構えた美空が、きょとんとした顔をしている。
「だからこれが……最後なんかじゃないんだ、よっ!」
大きく右手を振って、美空に向かってボールを投げる。
今はまだ、頼りない僕かもしれないけど……でもいつか絶対、美空が好きになるような男になってやる。
ゆるく弧を描いたボールが、すとんと美空のグラブに落ちた。
「しょうがないなぁ。これからも、つきあってやるか」
笑い声と一緒に、美空の澄んだ声が流れてくる。
美空の右手がしなやかに上がった。
「いくよー! コター!」
高く高く飛んでゆく、白いボール。
僕と美空の上には、今日も美しい空が広がっていた。




