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*5*

 そんな兄、紘文がなぜここにいるのか。それはおそらく父に言われたからだろう。あれから数時間がたっている。もう、連絡はしてしまったかもしれない。そうなったら一生の終わりだ。せっかく最近はおとなしかったと思ったのに。


「兄さん、答えてよ。昼間僕が淳と一緒にいたの見たんでしょ?それ、父さんに伝えたの?」

「ほぉ、やっぱり昼間一緒にケーキ屋にいたのは青葉淳か」

「え……」

「こちらを向きはしなかったからな。同級生か誰かかと思ってたんだが……」

「なっ……。わかってたくせに!!わかってて、僕が呼びだしたのにも素直に来た癖に!!しらじらしいのもいい加減にしてよ!!もう……ほっといてよ。僕が誰と仲良くしようと関係ないじゃん」

「あぁ、確かにな。お前が誰と仲良くしようとそれはお前の勝手だと俺も思う。だが、相手があの青葉の家の奴じゃ、話は違ってくる」

「淳の家が、洋菓子の家で、うちの店と向かいにあるから?和菓子と洋菓子じゃ、ジャンルが違う!客層も、扱う商品も全然ちがうのに!!もう対立なんかやめてよ!!それに……それに僕らを巻き込むのも……いい加減にしてって何回も言ってるのに……」

「俺に言うな。親父に言え」


 またその言葉。自分だって、自由勝手にいろんなことして。たまに家の手伝いをすればうるさく言われないって。なのに、僕の事は俺は関係ないって感じに突き放す。確かにあんたに関係ないことかもしんないけどさ。僕にとっては淳はかけがえのない存在なのに。それを、家のつまらない対立で邪魔されるのは、嫌だ。


「とにかく、今日兄さんが見たことは絶対に父さんには言わないで」

「悪いが、それはできないな」

「っ……なんで……」

「家にとって、不利益になるような芽はすべて摘み取らないとならない。それが親父の考えだからな」

「淳が僕から、店の情報聞き出すとでもいうの?僕が自分の店を売るとでもいうの?」

「その可能性もあると親父は見ているだけだろう」

「そんな自分勝手な……もう……いい加減にして……僕から……もう……淳を取らないでよ……何もかも奪ってくのは……もうやめてよ……」

「だから……」

「俺に言うなっていうんでしょ!?あんたはいいよ!!父さんの犬になって、自由にしてられる。大体の事は大目に見てもらえてる!!一度だって、僕みたいに大事なもの奪われたこともない!!そんなあんたに……兄さんに……僕の何がわかるっていうの……っく……。あんな店……無くなればいいのに……!!?」


 ひりっとした痛みが、頬にあると気づくまで、数秒かかった。あっけにとられて、自分の頬に手を持っていく。そしてゆっくりと兄さんの方に視線を戻す。いつも余裕の笑みを浮かべているその男は、今は怒りをあらわにした表情をしていた。僕をはたいた手がそのままになっている。


「軽々しくそんな言葉を口にするんじゃない。悪いが、今日の事はすべて親父に話す。意義は引き受けない。以上」

「なっ……いい加減にっ!?」

「おひさしぶりです、紘文さん」


 怒りのあまり、兄さんの胸ぐらをつかもうとしていた僕の腕をつかんで引き止めた人物がそう言った。そしてその人は僕の傍らに立つ。


「淳……?」

「なぜ君がここにいるんだ?」

「一人で夜間行動した生徒を連れ戻しに来ただけですよ。生徒会書記の仕事として」

「なら、しっかり頼むよ」


 そういって、兄さんはその場から去ろうとする。引き留めようとする僕よりも先に、淳が口を開いた。


「紘文さん。俺らの事を報告しようと、俺は構いません。ただ、静香を泣かせることだけは、許さないですから。たとえそれが兄だろうと、父親だろうと……。覚悟しておくのは、あなた方の方だと、お伝えください」

「そうすることにするよ」


 兄さんの姿が見えなくなるまで、僕はそこから目を離さずにいた。ようやくその姿が消えた時、一気に全身の力が抜けるような気がした。涙すら瞳からあふれる。たまらず、淳の胸にすがりつく。淳の腕が背中に回り僕をしっかりと抱きしめるのがわかった。


「紘文さん、昼間いたんだ」

「気……付いてたの?」

「なんとなく。静香のああいう顔、前にも見たから」

「ごめん……また僕……のせい……」

「静香だけのせいじゃない。俺が何にも出来ないから……」

「どうしよう……せっかく……また、近くにいられるって……思ってたのに……」

「静香……」

「嫌だ……もう……離れたくない……淳……」

「静香……俺らはもう、あのときよりは成長した。だから、あの時はできなかったことも、今はできる。嫌なら抵抗すればいい。俺だって静香と一緒に居たい、それはわかるだろ?」

「う……ん……」

「いつまでも親のいいなりになるつもり、俺はない。家だって、継がない覚悟もあるし、静香といられないなら家を出てもいい。もう……離さない、何があっても」

「うん……」


 見上げるとそこに、ずっとそばに居たい人の顔があった。年下なのに、自分よりも大人びたその顔は、不安がないわけじゃなさそうだった。けど、それは僕も同じ。自然に降りてきた唇が重なる。このまま時が止まってしまえばいいと、何度思っただろう。合わさった唇が離れなければいいと、何度考えただろう。少しでも長く僕は、僕を愛してくれる人のそばに居たい。ただそれだけなんだよ。



静香と紘文は6歳差の24歳。

短いですが、修学旅行はこれで最後です。

次は……夏休みですね。

『夕日~』に沿ってなので。

ぼちぼち頑張ります。

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