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第4話は、いきなり修学旅行です。
黎暁学園の修学旅行は、全学年が同じ場所に行く。今年はフランスに3泊4日だった。一日目は班で名所観光だ。で、今日はその二日目。今日は淳と一緒に過ごそうと前から決めていた。生徒会や風紀委員会は、個人行動が認められている。四日あるうちの二日間は集団行動が義務付けられてるが、それ以外の二日間は個人で行動しても良いのだ。特権というやつだろう。それで、生徒会は昨日集団で行動していたので今日は個人での行動が許されているのである。一般の生徒も生徒会や風紀の誰か一人でもともにいれば許される。代わりに今日風紀委員は集団行動をするのだ。
まぁ、風紀委員は関係ないけど。淳が生徒会役員で本当にこういうときばかりはよかったなって思う。淳にメールすると、近くのカフェにいるという返信。お店の名前も書いてあったので、僕もそこに向かう。朝食はさっきホテルで済ませてきた。
カフェの外にある席に見覚えのある姿。長い脚を組んで悠長にコーヒーだか何だかを飲んでるけど……かっこいいなぁ。道行くパリジェンヌが思わず見とれてるよ?
「淳、お待たせ」
「……静香さんなんか怒ってます?」
「ううん、別に?」
「笑顔が素敵ですね」
「ありがとう。でも、こんなところに朝から一人で何してたの?」
「いや、さっきまで会長たちと一緒にいたんだよ。朝ごはん食ってた」
「清桜たち?ってことはまさか!!」
「あ―……朝貴も一緒だな」
「ああああああぁ!!また逃しちゃった!!もう、淳も僕が来ること知ってたんだから、朝貴君引き止めておいてくれてもいいのに!!」
「無茶言うなよ。朝貴は会長が引っ張ってったんだし……」
「清桜―。もう、いない奴に文句言ってもしょうがない!それより今はケーキだ!お菓子だ!」
「そうだな。どこから行く?」
「一通り行きたいお店は全部。あとは今年までにできたお店をチェックする」
「了解。じゃ、行くか」
パリにある有名菓子店。それらを巡るのが僕らの目的。ガラスケースの中に並べられた、色とりどりのお菓子を、眺めてるだけでも楽しいし、それを実際に食べてみるのも楽しい。でもそれだけじゃなくて、淳と一緒だからだと思う。一人じゃこんなにも楽しめない。他の誰かでもきっとだめだと思う。淳だから。淳だけだと思うから、こんなにも楽しい。
とある店の店内にあるイートインスペース。そこに座ってた僕は、ふと窓の外に気を取られた。
「え……」
「静香?どうかしたか?」
「……ううん、これおいしいって思っただけ」
「そう……か。そうだな」
窓を背にして座ってる淳からは見えてはいなかったみたいだけど、僕はしっかりと見てしまった。あれは、間違いない。でも、なぜここにいる?しかも、淳と一緒にいるところを見られてしまった。どうしよう、またなのか。また、あの時みたいに……。いいや、その前に、何とかしないと。
その日の夕方。僕はこっそり一人でホテルを抜け出した。その前にある人物に電話をかけて呼び出す。指定はここから数分ほどの公園。指定時間よりやや早めにつくが、それなのにもかかわらずあの人はいた。ベンチに腰掛け、何かの書籍を読んでいるが、間違いない。
「なぜ、あなたがフランスに?」
「それは俺のセリフだろうに。そういえば、黎暁の修学旅行は今頃だったな。俺は家の仕事だよ」
家の仕事?なのにフランスに来る必要なんかあるの。一体どんな仕事なのか、聞いてみたいがそれよりも、今は知りたいことがある。
「昼間の……一緒にいた人の事、父さんに伝えたの……兄さん」
「さて、それをお前に伝える義務はない」
そう、昼間見たのは僕の実の兄、三王紘文だった。ややこげ茶っぽい髪の毛、知的そうな印象をさらに引き立たせる黒いフレームのメガネの下には、泣きボクロが一つ。いつも余裕綽綽の笑みを絶やさないこの兄の事が、僕は大っきらいだった。
幸せな修学旅行も、兄さん登場でぶち壊しです。
もうこの話関連はみんな家族の仲が悪い。
そんな話ですみません。
これからも多分こんな感じです。