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*26*


遅くなりました。




 卒業式が終わったその日の夜。

 僕は兄名義で借りた、この春から一人暮らしをするマンションの寝室に帰ってきた。本当に、兄はこれからのことを応援してくれるようで、親すら説き伏せてしまった。兄に勝る味方はない。まぁ、淳は別だけどね。


「静香ー、できたぞー?」

「うん、今行く」


 卒業式の片づけを終えた淳と、一緒に帰ってきていた。呼ぶ声に応じて、ダイニングキッチンの方へ行く。そこにあるテーブルの上には湯気を上げたチャーハン。


「チャーハン?」

「あの、俺一応へとへとなんですけどね?」

「なーんて、わかってるよ。作らせてるの僕だし」


 チャーハン好きだからいいけど。卵とわかめのスープをよそい終わった淳とともに、夕食にする。


 スプーンでチャーハンをくらっている淳をしばし眺めていたら、その視線を感じたのか淳がこっちを見てきた。


「幸せなんだなってさ……」

「え?」

「こうして、好きな人と一緒にご飯食べたり、顔を見れたり。傍にいる、会いたいときに会えるって。……今日の夕貴君見てたらそう思った」

「卒業証書、渡せたのか?」

「まぁね。……あれ、絶対無理して笑ってたよ」

「俺も、静香が海外行ったらああなるな……」

「ほんとに?」


 全然想像できない。その逆ならあり得るって誰もが言うだろうけど、淳がなるのは思いつかない。


「何度も言ってるだろ?俺は静香がいないとだめなんだよ。……いつも最終学年になるとそう思う。静香に会えない学校に通う毎日。バスケでもやってなきゃ気がまぎれねーんだ」

「そんな理由でバスケやってたわけ?」

「すっげー理由だろ?エースになるような必死さ、伝わったか?」

「ッ……。馬鹿」


 聞いて損した。ていうか、知らなきゃよかったかもしれない。まじめにバスケやってないわけじゃないから何とも言いようがないけど。それで全国まで行くんだからすごいよ。そこまで惚れさせた僕もすごいのかな。



***   ***   ***


 夕飯を食べ終わった僕らは、ゆったりとソファーでくつろぎながらバラエティー番組を並んで見ている。すると、ふと気付いた淳が聞いてきた。


「にしてもさ、一人暮らしで3LDKって、広くね?」

「それは僕もそう思ったんだけどさ。兄さんが勝手に買ったから……。でも、今はこれくらいの広さでよかったって思ってるけどね」

「なんで?」

「淳が卒業したら、此処に一緒に住めたらちょうどいいかなって……。僕と淳の寝室とあとひと部屋は仕事部屋とかでもいいし……」


 ダメかな―なんて、思いながらふと横にいる淳の顔を見る。口元に指を当てて、何かを考えてるその横顔が、妙に真剣で。そんなに考え込むほどのことだったんだろうか。僕としたら、一緒に住むって言うのは一つの憧れみたいなものだったんだけど。


「あー……それは無理だな」

「え……」


 無理って……一緒に住むの嫌だってこと。どうして……。


「ぷっ、なんだよそんな顔して。一緒に住むのが無理じゃねーから。まずその泣きそうな顔やめろって。な?」

「じゃ、何が無理?家賃とか心配いらないから。僕が払うし……だから、お願いだから……」

「家賃も心配してねーし。つか、一緒にすむならおれも払うよ。半分こな。そうじゃなくて、寝室は同じにしてくんなきゃヤダ」

「はぁ?」

「何で付き合ってんのに同じ寝室で寝ないんだよ。おかしいだろ?」

「いや、でも今うちにあるのシングルだし……」

「買いかえればいいじゃん。どうせ2部屋余るんだから、一部屋ものおきなり、客間にでもすれば?」

「……もう、紛らわしい言い方しないでっていつも言ってるのに」

「静香が関わると俺余裕無くなんの。あー、マジで寮出て此処から通いてーな」


 そう言った淳は、いきなり僕をソファーの上に押し倒す。油断してたな。でも、押し倒されて覆いかぶさられるのは嫌いじゃない。覆いかぶさってる淳は、いつもよりカッコよさが倍増してる。逆光だからかもしれないけど、ね。


「ちょっとさぁ、いってることとやってることが結び付かないんだけど」

「いや、俺も一応男なんで」

「一応とかつけんな。一度も女と間違えられたことないくせに。このまま膝でけり上げるぞ」

「ちょ……それ俺死ぬから。……まぁ、嫌なら止めるけど……」

「全く……知ってるくせに……」


 覆いかぶさっている淳の首に、自分から腕をからませる。最近はあまり使ってない目立たないけどそれなりにある腹筋を使って顔を接近させる。数センチ先に、好きな人の顔がある。


「週一で泊りに来ない?」

「それは思いつかなかったな。ナイスアイディア」

「あ……やっぱ週二で。土日泊り来てよ」

「そのうち放課後毎日来なきゃなんなくなりそうだな」

「それいいかも」

「おいおい……」

「うっそだよ。来れる時で……いい」


 離れることも時には必要だけど。こうして間近にいられるのは、ほんの限られた時間だけ。

 だったら、その時は心から……大事にしたい。

 

 和菓子よりも、洋菓子よりも甘いひと時を貴方とともに――――

何か最終話な感じが……


はい、本編最終話です!!←

すみません。間があいて、その上久々に上げたのが本編最後って……なんだそれ。


次回から、社会人になった二人のその後な話を更新します。

プチゲストも登場します。

お楽しみに。

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