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*23*


 うれしいはずのことなのに、それがまた一層現実味を帯び僕は寂しさを一人かみしめる。職員室の一角で、僕は担任から渡された一枚の書類を何度も何度も読み返していた。


「よかったな、おめでとう」

「ありがとうございます」

「新しい生活になるまで、しっかり学生生活楽しんだ方がいぞ」

「そうですね」

「これが一応、必要な書類だ。提出期限に遅れないようにな」

「はい、失礼します」


 書類の入った封筒を手に、僕は職員室から出た。残りの学生生活、それももう残りわずかだけど担任の言うとおり、楽しまないと損だというのはわかる。職員室から出て、一人で廊下を歩いてた時だった。深刻そうな顔した清桜が、校長室から出てきた。校長室?何かあったんだろうか。生徒会長でも、そんなところに呼ばれるなんてめったなことがない限りないんじゃ。


「清桜?」

「っ!……なんだ、静香か……。それ、専門学校から?」


 驚いた顔をした清桜だったけど、相手が僕だとわかっていつもと同じ顔に戻る。でも、どこか雰囲気がいつもと違う。何かあったのは間違いなさそう……。


「なんかあった?」

「別に?静香はこれからお昼でしょ?待たせちゃ悪いんじゃないの?」

「今聞いてるの僕なんだけど?」


 幸い、この近辺は生徒は用事がない限り来ない。今も僕と清桜以外はいない。聞かれちゃまずそうな話だったとしても、ここならそんな心配は無用だろう。


「……静香、俺……アメリカ行く」

「は?」

「悪いけど、誰にも言わないで。言うべき人には、俺から言うから……。ほら、聞かなきゃよかっただろ?」

「アメリカって……本気?」

「うん、もう手続きは済ませたし……。合格おめでとう、じゃ」


 そういって、その場を立ち去ってく清桜。なんか……仕方ないって思ってた感じの顔してたけど。ていうか、夕貴君どうなるの?誰にも言わないでか……。まぁ、清桜なら大丈夫だよね。

 購買によって、適当に食べたいパンを買って屋上に向かう。実は昼休みだったりする。あと何度、屋上で一緒に昼ご飯を食べれるのかな。


「淳、お待たせ」

「……だーから、言ったろ?静香なら大丈夫だってな」


 ベンチに座ってた淳が、僕の姿を見るなりすぐにそう言った。全く、何を根拠にしてるんだか。----ううん、根拠なんか多分ない。そんなのなくても、淳にならわかるんだろう。


「無事、専門学校合格したよ」

「おめでと」

「うん……」


 にっこり笑って、お祝いしてくれる。その顔がすごくまぶしくて。うれしいのにきゅっと心を締め付けてくる。


「んだよ、うれしくなさそうじゃんか」

「だって……」

「あと少しで卒業か―って?」

「うん……わかってたことなのにさ。この合格通知来たらなんか……あぁ、もう次に進まないとって。やっぱ寂しいよ」


 もうすぐやってくる別れの時。それを意識してなのか、些細な場所でいろいろなことを思い出す。この3年間の事を、思い出すたびに卒業への思いは複雑になっていく。


「今年がなんだかんだで一番濃かったな。いい意味でね」

「朝貴と夕貴か?」

「んー、それもあるけどね。今までで一番の年だった。あーあ、まだ高校生でいたいな」

「静香……」


 焼きそばパン食べながら、何か言いたそうな顔するのはやめてほしいけどね。担任の言うとおり、今はこの時を精一杯楽しむことにしよう。

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