*22*
土産のガトー・ショコラを右手で持ったまま、口をポカンと開けて固まってしまった淳。ちょっとその顔面白いんだけど、今の状況で笑うなんて空気読めない行動はしないけど。
「……何で進路限定なんだ?」
「……盗み聞きしたから」
「はぁ!?……ちょ、まさか……下の……」
「さっき、エレベーター前で話してたの聞こえた……」
「……マジかよ……うわ、一番秘密にしてたかった相手に聞かれてたとか……。マジ……」
大きくため息をついた後、ガシガシと髪の毛をかき回した淳。でもそのあと、何かを決めたかのように、残りのガトー・ショコラを一気に食べてしまった。
「夏、全国大会あったろ?」
「うん」
「あんとき、準優勝だったけどその試合をある大学の教授とかが見に来てたらしいんだ。それで、俺に目をつけたみたいでさ……先月くらいかな。その大学に来てくれないかって推薦来た」
しばらくの間。僕は何か話そうとか言う気はなくて、淳の言葉をただ待ってた。
「こんなこと言ったら……静香を悲しませるんじゃ……と思ったら言えなかったけど。俺、大学行きたいって思ってた。もうその大学も決めてて……でも、あんなに楽しそうに自分の進路言ってる静香見たら……言い出せなかった。俺まで静香を悲しませてどうすんだって……。その推薦来た大学がさ、俺が目指したいって思ってた大学で、俺としてはこんなうまい話ないってくらいな話で。だから、もう少し考えて、それから静香に話そうって思ってたんだけどな……」
やっぱり。そんなことだと思った。こっちを見ないまま話す淳を見てると、すごく苦しくなる。やっぱり、僕が淳を縛ってた。
「ごめん、僕が悪いんだね」
「ちがっ、俺が勝手に……!!」
ヤダな、最近。涙腺緩みっ放しなのかな。涙を流しながら、僕は淳の言葉に首を横に振った。
「淳のこと、何も考えてなかった。いつのまにか、甘え過ぎてた。過信してたのかも……淳は僕とおんなじ進路進んで行くんだって。馬鹿だよね。兄さんに……言われて……はじめて気づくなんてさ。最初は、兄さんがなに言ってんだかわかんなくて……でも考えたら……その通りだって……。だから、今日淳の話聞いちゃった時は……やっぱりって思ったんだ」
「静香……?」
「淳には、淳の進路があるんだし。僕がそれを決めていいわけないんだもの。僕そこまで恐妻じゃないよ?ま、妻じゃないけど。淳、大学行きたいんだって知って……すっきりしたんだ。ちょっとさびしいけど、ね」
笑えないけど、精一杯僕は淳に向かってほほ笑んでみた。そのせいで大きなしずくが瞳からあふれて頬を伝った。それを見た淳が、驚いた顔して優しくそれを指で拭って、僕を引き寄せた。しっかりと淳の腕に包みこまれたら、僕の涙腺は崩壊しちゃった。
「ごめん、俺。静香の後追いかけられるの此処までだな……」
「っく、我慢もうしないでいいよ。僕さんざん今までわがまましてきたんだもん。だからっ、淳はもう自分のこと一番に考えていいんだからね?中学の進路決定と高校の進路決定じゃ、大きく違うんだからっ。大学……行ってよ。僕は、大丈夫……」
「静香の大丈夫、当てになんねーよ……。何か……俺もすっきりしたな……」
「互いの事思いやり過ぎるのもだめなんだね……」
「そこは、ほどほどにってとこなんじゃね?」
「それもそっかも。あーあ、僕も大学行きたいな―」
「全然勉強してないんじゃ無理だな」
「生意気言うのはこの口かなぁ―?」
「いてててっ、冗談だってばっ……!?」
そんなこと言う口は、ふさいじゃうぞ。
「ふっん……はっ……っふ……んはぁ」
「ッはぁ……はぁッ……静香……いきなりはちょっと……」
「なんで?」
「酸欠だろ!!」
「いいじゃん、したくなったの」
「……さっきの、我慢しないでってそういう意味も含めてたんじゃないですよね?」
「どーでしょうね。今夜は寝かせないぞっ!」
「明日学校……あと俺さっきまで部活でヘトヘト……」
仕方がないな、今日は僕がご奉仕してあげる。覚悟しておきなよ、淳。
静香は襲い受けです。たぶん……
やるとこはカットさせていただきます。
キスだけで無理です。
イメージとしてはあと数話だと思います。
卒業までとその後……を2話ほど
あくまで予定なので増減する可能性ありです。