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*20*


 

 学園に帰ってきたのは、門限間際という時間だった。危うく罰則になっちゃうところだ。危ない危ない。龍弥−−風紀委員長−−のありがたーい罰則は避けたいわけだよ。夕貴君が可哀相だしね。

 寮に向かう道中でどこからか帰ってきたのは清桜と会って、そこで夕貴君とはお別れした。ま、後はお二人でどーぞ。邪魔しないので、ごゆっくり。さて、僕はどうしようかね。何の約束もしてないけど、淳の所にでも行ってみますかね。たしか今日は部活の練習試合があるらしかったんだよね。もう帰って来てるだろう。


「あ……」


 なんて思ってたら当の本人がいた。寮の3台あるうちのエレベーターの1台の前にいる。隣には部活の誰かもいる。あの後ろ姿からして、2年の市川君だな。淳と同じクラスだったはず。足長いな、5cmよこせ。なんか話してるみたいだけど……今更なんか話し掛けづらくなったな。なんで僕、咄嗟にそばにあった壁の陰に隠れちゃったんだろ。


「あー、俺らも来年受験か」

「市川はどうすんだかもう決めたのか?」

「俺?大学行く気ねーからなぁ。とりあえず就職?」

「おまえんとこって、後継がなくていいわけ?」

「俺次男だし。兄貴がとっくに継ぐってさ。淳は?」

「俺?んー大学かな……」

「お、まじ?」


 お、まじ?って僕も思った。大学ってつまり僕とは違う進路にするってことでしょ?やっぱりちゃんと考えてたんじゃん。ちょっと安心かな。あとちょっと残念。……残念?なんで?


「あれ、そういえばこの前どっかの大学から推薦来たって言ってなかったか?」

「覚えてなくて良いことばっか、お前覚えてるよな。ちょっと呟いただけなのに」


 推薦?なにそれ。僕初耳なんだけど。あと何でこんなに胸がざわつくんだろう。淳が僕にそんなこと言わなかったから?


「あ、その話さ。まだあんまり人にいったりしないでほしいんだけど」

「なんで?」

「まだ不確定だし。それでダメんなったってなんかやじゃね?」

「あーそれなんかわかる。わかった、確定したらお祝いでもすっか!」

「とかいいつつ、騒ぎたいだけだろ。つか、お前は就職活動だろ?」

「やなことおもいださせんなよなー」


 そんなこと気にしないくせに。ダメだったとしても、すぐに切り替えて次へと進んでいく。それが淳。本当は、僕に知られないようにするためでしょ。市川君が誰かに話すとする。それが部活中に知れ渡る。それはどんどん広まって――――まぁ、淳は生徒会だし?顔悪くないし?そんなやつの噂なんかあっという間だってのはわかってるからね――――じき僕の耳に入る。それを淳は避けたいんだろう。何故って?

 エレベーターが来たのか、すでに二人の姿はなくなっていた。

 一気に全身の力が抜けて、僕はその場にしゃがみこんだ。プラプラとガトー・ショコラが入った箱を微妙に揺らす。そして思いっきりため息をついた。次に出てきたのは、乾いた自嘲的な笑いだった。


「淳を縛ってんだな僕は……。自分の思った通りに……。淳は追いかけてたんじゃない……追いかけさせられてたんだ。自分の本当の思い全部閉じ込めて……僕が進んだ道を……。それを当然だと思ってたなんて……馬鹿じゃん、僕。最低……」


 でも、何でこんなに苦しいんだろう。いや、なんでじゃないか。僕は淳に追いかけてきてほしかったんだ、結局は。一緒の専門学校、同じ進路……同じ時を共有していけるって、どこかで決定づけていた。それが当たり前だって思って、ずっと自分に思い込ませて。自分の願望すべてを、淳にも強制させちゃってたんだ。


「けじめつけなきゃな……。マジカッコ悪い」


 立ち上がり、僕はエレベーターに乗って淳の部屋に向かった。


遅くなってしまいましたね。

静香がどうも性格がつかめません。



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