*19*
恐ろしいほど間が空きました。
長いですが、ほとんど静香と夕貴だけです。
淳の出番はまた今度ということで……
さて、夕貴君を誘った土曜日に何があるかというと、それはこの券にある。これはその名を、ホテルのケーキバイキング割引券という。そのまんま、説明不要の代物だよね。説明するとしたら、これは清桜からもらったもので、何かあまりものだけどよかったらって言われたんだよね。なら夕貴君と行けばって言ったんだけど、「え、いや……それはちょっとね」って顔曇らせていうんだよ。なんだよなんだよ。好きなんだろ、夕貴君がさ。誘えばいいじゃん、俺とケーキ食べにいかない?とかさ。清桜はああいうところがダメなんだよ。もっとこう積極的に、ばしばしいかないとさ。で、僕のもとにやってきたこの割引券。最初は淳と行こうかなって思ってたんだけど、お互いの予定が合わなくて、今までズルズルと来ちゃったんだよね。で、このまえ思いだして見たら……期日が今度の土曜日まで。こりゃやばいとね。せっかく割り引かれるのに、使わないなんてもったいないじゃん。少しでも安く、甘くておいしいもの食べたいじゃん!家金持ちだろって?親の金なんかいらないんだよ!!利用できるならとことん利用してやるけどね!!ははははは!!
「ごめんね、待たせちゃった」
「いえ、べつに僕が早かっただけですから」
「んふふ、なんか恋人みたい。いまのやりとり」
「え!?」
「なんてね、ほんとは言ってみたかっただけ。淳と待ち合わせると、いつも僕のほうが早いからさ」
「なんとなくわかります」
「でしょ?じゃ、行こうか」
たしか、清桜の家がやってるホテルだよね。前一回行ったことあるんだよね、新作スイーツあるって聞いたからだったっけかな。あれはおいしかった。
道すがら、夕貴君に今回のことを説明。
「ケーキバイキング……ですか?」
「そう。知り合いからね割引券貰って。本当は淳と来ようかなって思ってたんだけど、今日部活あるっていうし……。これ、今日までだからもったいないじゃんね」
「それで僕を?」
「夕貴君、ケーキ好きでしょ?」
「はい」
「それに見かけによらず、いっぱい食べるから」
「見かけによらずってなんですか?」
「なんでもないよ。さ、行こう」
店内は休日ということもあって、結構な賑わいがあった。おかげで席に座れるまで少し待つことになり、ようやく席に座れたのは20分くらい経っていた。
カラフルなケーキが何十種類も置かれている。ケーキ屋さんのガラスケースに入ってるそれの何倍もの種類。あはは、夕貴君眼がきらきらしてる。青いきれいな目がさらにきれいになってる。
テーブルいっぱいに並べられたケーキは、二人で食べるような量を超えていた。僕らの席の横を通っていく人達が、思わず二度見して行くほどだ。僕もすごい方だけど、やっぱ夕貴君よく食べるなぁ。どこに入ってくんだろう。なんか、おいしそうに笑顔で食べてるの見てるだけで、癒されるなぁ。
「ここのケーキ美味しいでしょ」
「はい!誘ってくださってありがとうございます!でも……なんか僕何もしてないですね。力になりたいとか言ってたのに……」
「そんなことないよ。一緒に来てくれただけで僕は嬉しいから。……ねぇ、夕貴君はお菓子好き?」
「大好きです」
「和菓子と洋菓子、どっちが好き?」
「え……。うーん……和菓子もお団子とかドラ焼きとか最中とか美味しいですし。洋菓子もケーキとかクッキーとかチョコとか……どっちも好きです!」
その言葉に、嘘偽りないことはすぐにわかるほど、夕貴君の視線はまっすぐだ。
「だよ……ね。うん、だから僕、夕貴君好きだよ」
「へ?」
「友達とかそういう意味でだよ。どっちにも、それぞれの良いところがあるんだし。どっちも好きでいいじゃんね」
「?」
「ごめんね、わけわかんないこと言って。気にしないで」
「はい。……あの、静香先輩……」
「ん?」
「あの……いえ、やっぱりいいです」
「何々?気になっちゃうなぁ。聞きたいことあったら聞いてよ。夕貴君には答えちゃうよ」
「えと……静香先輩って、進路とか……」
「僕は専門学校かな。料理関係のね」
「料理ですか」
「そう。まだ、ね……淳にしか言ってないんだけど、僕さカフェ開きたいんだ」
「カフェ?」
「うん、自分の店を開いて、そこで料理と和菓子、洋菓子だしたいなって」
「静香先輩のお菓子美味しいですもんね」
「そう?あ、これ内緒ね?清桜には言ってもいいけど。親にばれたら邪魔されそうだし」
「そうなんですか……。絶対、カフェ開店してくださいね」
「うん、そしたら夕貴君来てくれる?」
「毎日通います!!」
「いいね、それ。ついでに接客頼んじゃおっかなぁ……メイド服で」
「えぇ!?」
絶対に似合うと思う。特別待遇で、雇っちゃうよ。なーんてね。
「清ちゃんって、進路どうなんだろ……」
「え、夕貴君一番それ気にならなかったの!?」
「最近、本当に会えてないんです。だから聞く機会もなくて……。電話とかでもいいかもしれませんけど……」
「邪魔しちゃ悪いなって?夕貴君、気を使いすぎだよ?ここに受験生で勉強してない奴もいるんだからさ」
「いや、それは……その」
「まぁ、ちょこっとなら息抜きも必要だし、電話してあげてもいいんじゃない?清桜なら夕貴君には怒らないだろうしね」
「そうですね」
あぁ、じれったい。ま、そこは人それぞれだから仕方がないけどね。あ、淳にお土産買っていかなきゃ。ガトー・ショコラでいいかな。