*17*
また、間を開けてしまいました。
なかなか思うような展開に行かないものです。
朝から五月蝿い。自分で設定したのに、それすら嫌になる。もう変えないと。結構気に入ってたんだけどな。あの着メロ。
電話が5分に一回のペースで掛かって来る。メールなんか1分間隔でだ。うんざりするのなんか通り過ぎた。いっそ真っ二つに折ってしまおうか。でも、この前やっと手に入れた朝貴君のアドレスが……。
嫌がらせの犯人は兄だ。たぶん、僕の進路の情報を知ったんだろう。目敏いというか、あの人に隠し事なんかできるんだろうか……。無理かも。
携帯の電源は切れない。そんなことして学園に直接掛けて来られるのも困る。そしたら本当に出なきゃ行けなくなる。わかってもらえるわけないし、反対されるに決まってる。
でも、いい加減我慢の限界を超える。
*** *** ***
鳴りつづける携帯を手に、僕は学園の屋上にきた。こんな時間じゃここには誰もいないからだ。それでも誰が来るかわからないから、茂みに囲まれたところに座る。震えている指で通話ボタンを押した。
「しつこい男は嫌われるって知らないわけ?」
『開口一番がそれか?最初の電話に出れば良かったのさ。……お前、専門学校行くのか?』
「やっぱり、その話か。行くよ。反対されたって行くから。邪魔しないで」
『それはお前の意志か?』
「は?」
『それはお前の夢だからこそ行くのか?』
「なに……言ってんの?僕の夢だからに決まってるじゃん。なのに……」
『お前の夢とやらはわかった。だが、それは本当にやりたいことか?』
「そうだよ。僕は自分が作ったものを誰かに食べてほしい。みんなにおいしいもの食べてほしい。確かにうちの和菓子も好きだよ?でも、淳の家の洋菓子も好き。一つのことに真剣に取り組むのも大事だと思う。けど、どっちにも良さがあるじゃん?話がしにはない良さを洋菓子は持ってるし、その逆もそうだし。だから僕は和も洋も関係ない。ただ好きなものを貫いて、楽しんでほしいだけ。……いがみ合ってたって、それで商品がさらに良くなるわけじゃないよ……」
『いい加減にしたらどうだ?いつまでもそんな子供じみた夢を持つのは。素直に家を継いだ方がお前のためにもなるだろう?』
「……継がない。絶対に継がない」
『いつまでも駄々をこねるな』
「駄々じゃない!!僕もうそんな子供じゃない!自分の進路くらい自分で決める!だけどその進路先に家は含まれないから!!絶縁されたって良い!捨てられようが僕は勝手に生きてく!!」
『お前はそれでよくて。青葉淳を巻き込むのか?』
「っ!?」
何でいきなり淳がそこで出てくるのさ。
『お前の進路はともかく。それに青葉淳を巻き込むんだな?』
「巻き込むって……」
『そうだろう?いくら長い付き合いで、これからも付き合っていくとしても、これから――――高校卒業してからの進路までお前に縛らせるのか?表面上はいいと言っていても、彼は彼の抱く夢をあきらめるってことなんだぞ?俺のしていることと変わらないじゃないか」
「そ……んなことない……」
『俺はだめで自分はいいか?とんだ自己中だな』
「うっさい!!なんなの……っ……そこまでして……。そこまでしてっ、僕に継がせたい!?っく……いい加減にしてよ!!これ以上……これ以上僕に構わないでよッ!!……ぐすっ……うっ……」
わかってた。どこかで、そんなことも考えてた。だって、いくら恋人でも、同じ仕事をするなんて少ないだろうし。なりたい職業とか、そんなのどちらか片方の言い分ばかりかなえるのもダメだって。わかってる。わかってるから言わないでよ。
『将来の夢をかなえたいがために、他人の夢を叶わぬものにする。お前にその覚悟があるならすきにするがいいさ』
そう言い放つ兄を無視し、僕は電話を切った。通話時間を知らせる画面の携帯を、鮮やかな芝の上に落とす。その液晶の上にぽたりぽたりと涙が落ちる。止まらなかった。さんざんこらえてきたはず。淳の前以外じゃ、絶対に泣かないって決めてたのに。今だけは彼の前で泣けない。泣いたら理由を尋ねられる。でもその理由は淳に関すること。もし言ったら、淳は多分僕と同じ進路だとか言うにきまってる。奥底に、自分の本当の夢を押し籠めたまま。そんなの嫌だ。
芝を踏みしめる足音。涙をこぼしながら僕は顔をあげた。いるなんて想像もつかない姿を見て、一瞬誰だかわからなかった。まだ慣れてないんだな。ごめんね、ぱっと見でも名前出てこないほど気が動転してるんだと思う。君の本当の名前知ったのおとといだったもの。でも、なんだろう。今来てくれて本当にうれしいかも。
泣いてる僕を見て、驚き顔の夕貴君がいた。
えっと、今回出てきた夕貴君ですが、夕日本編では書かれてますが、こちらでは詳しいことは省かせていただきました。
話の都合上でです。
今までこちらに出てた朝貴=夕貴です。
それとは別に朝貴もいます。今までわけあって入院してました。これからは夕貴と一緒に学園に通います。
ややこしい設定ですみません。