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ラルフの憂鬱

「何ですか、これは?」

第三王子レオンの側近、ラルフが城に戻ると、現場は相当混乱し、情報は錯そうしていた。


『 捜 索 対 策 本 部 』

へたくそな字で書かれた看板が警備兵の詰所に設置されている。


ラルフは幼馴染のレオン王子に頼まれ、レオンの想い人ミラを探しに来た。

何も知らないまま、レオンの魔術で6年間、時を止められているミラ。

当時は自分も子供だった。レオンのミラに対する執着には呆れたが、魔術師と変態は紙一重だっていうし、まあ仕方ないかと思い、レオンの計画に手をかした。だが、ミラにしてみればたまったものではない。何も知らされず、勝手に6年間眠らされていたのだ。起き上がったミラは何が何だかわからないだろう。何を思い、どこに消えたのか?

更に新たに不吉な知らせがもたらされた。

ゾンビの目撃情報。

嫌な予感がする。

レオンと一緒にミラと2年間すごした。

・・・ろくな事は起こらなかった。



『 捕獲目標 』


(1)黒髪紫目の絶世の美女。王宮の家庭教師も務めていたことがある才女。ミラ・ラクシス令嬢。見つけたら、絶対保護すること。

(2)東屋から逃げ出したゾンビ系の化け物。がんばって捕獲すること。ただし、殺しちゃダメ。

(3)化け物を目撃した娘。早急に探し出し、化け物の情報を聞き出すこと。


何ですか。

このダメダメな捜査は。


「ちょっとまってください。(1)の絶世の美女とか、才女っていうのはなんです?」


ラルフは眉間に皺をよせる。


「ラルフ様。王子殿下が突然、探せと言い出したそうで。そんな家庭教師はみたことないって、城の侍女達もいうし、頭がおかしく・・・失礼しました、何故突然、そんなご命令を下されたのか訳がわかりません。今回のゾンビ騒動と何か関係が?」


警備兵の一人が首をかしげながらラルフに問う。


「書き直しなさい。それはガセネタです。黒髪紫目のちょっと可愛いな、程度の女。年は20歳。中肉中背。才女とは言い難い。確かに家庭教師はしていたが、どちらかといえば子守です。我儘王子の。名前はそのままでいい」

「・・・インパクトに欠けますね」


くっしゅん、と娘はクシャミをした。

なんだろう。風邪ひいたのかな?


「それから、ゾンビ系化け物とは何です? この世にゾンビなど、いるわけないでしょう」

「でも、でたらしいんですよ。あの強固な結界を破って、棺桶から這い出してきた化け物」


ラルフは天井を仰ぐ。


棺桶。

せっかく王子が頑丈で美しい宝石箱、といって作らせたそれが、棺桶とは。

確かに出来上がったそれは棺桶以外の何物でもなかったが。


だが、結界を破って棺桶から這い出して外に出てきたのはミラだろう。あの結界はミラを守るためにあるのだから、ミラ自身には作用しない。

しかし、何故、ゾンビ系化け物なのか。


「その化け物を誰か目撃したのですか? 東屋から誰か出るところを。」

「若い娘が、化け物に追いかけられたそうです。庭師のハルクが一度は保護しましたが、その後の行方はわかりません。その化け物に食べられてしまったのかも」


どうも怪しい。

王子と一緒にミラを2年間みてきた。たとえ、ミラが化け物になったとしても、警備兵の捜査網をかいくぐって逃げるなんて器用な芸当が出来るとは思えない。逆に、化け物の姿になった方が人目にはつきやすいだろう。パニックになって、わたわたとして、転んで警備兵に捕まるのが関の山だろう。若い娘を追いかけるというのも妙だ。


「若い娘というのは?」

「庭師のハルクの所へ逃げてきたようでして。怯えきった様子だったとハルクはいっていました」

「・・・ハルクを呼びなさい」


呼ばれてきたハルクという庭師は誠実そうな男だった。


「庭師のハルクですね。その、化け物に追いかけられた娘の話をききたい」


ラルフがいうと、ハルクは頷いて話し出した。


仕事がひと段落したんで、小屋に帰るつもりだったんです。目の前を小さな御嬢さんが懸命に駆けているわけでして。靴も脱げ、息も絶え絶えに何かから逃げている様子でした。声をかけると、ゾンビ、とか、恐ろしい、とかぶつぶついってました。恐怖で錯乱しているような感じでした。

ええ、そりゃあ可愛らしい御嬢さんでしたよ。こう、目が澄んだ紫色で、華奢な手足は小鹿みてえで。足から血が出ていたので、小屋に連れ帰り、手当しました。警備兵に話をしているうちに小屋から消えていました。


ラルフは額に手をやった。

それだ。

その娘がミラに間違いない。


絶世の美女も、棺桶から這い出したのも、化け物を目撃した娘も全部ミラだ。

何故、何がそうさせたのか知らないが、ミラはそういう娘だ。どこか抜けていて、周りはふりまわされる。2年間の間に、嫌というほどそれを味わった。

はーっ。ラルフはため息をついた。

もういっそのこと、ずっと寝ていてほしかった。





イオはくっしゅん、と小さなくしゃみをしている娘をみた。

居間のソファで小さく丸まり、ぼんやりと暖炉の火を見ている。


「イオ先生、記憶はどれくらいでもどるのですか?」


娘が顔をあげてきく。


「一週間もあれば、普通はもどりますよ。ただ、あなたにかけられた魔術は質が悪くてね。相当未熟で馬鹿で阿呆で間抜けなやつが魔術をかけたんでしょう。もしかしたら、一生戻らないかもしれません」


そういうと、娘の瞳が悲しそうに陰った。


「あなたの脳みそは今、ゾンビ化しています」


ぞくぞくする。たーのし♪


レオンの魔術の痕跡をたどると、面白いことがわかった。

幾重にもかけられた防御の魔術。余程この娘が大切とみえ、とんでもない莫大な魔術で娘を守っていたようだ。外から決して触れられないように。そして、時間の操作。娘の時間を止めたか、遅くした形跡がある。何にせよ、この娘にご執心なのは明らかだ。

イオは娘の頬を撫でた。


「大丈夫ですよ。もし記憶が戻らないなら、一生ここにいればいい」


娘がビクリ、と体を震わせるのがわかった。


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