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そんな馬鹿な

早馬でもたらされた次の知らせは、レオン王子を奈落の底へ突き落した。

世にも恐ろしいゾンビの姿をしたものが、東屋あずまやから逃げ出したらしい、というのだ。

そんな、馬鹿な。

愛しいミラを守るため、あの東屋の外にも中にも幾重にも結界を張り、外からの侵入は絶対にできないようにしてある。ただ、ミラが中から外に出たいと思った場合、結界は機能しない。だとすれば、東屋から逃げ出した「ゾンビの姿をしたもの」は、ミラだということになってしまう。

考えたくはないが、魔術が失敗・・・したのか。

レオンの背を冷たい汗が伝う。


レオンがミラと出会ったのは、12歳のときだった。

語学の家庭教師として、18歳のミラは現れた。

ちょっと間抜けで、優しくて、可愛くて、面白いミラにすぐに夢中になった。

将来は、絶対お嫁さんになってもらおう、と思っていた。


年頃のミラが自分と結婚するよりも早く、誰かに盗られるかもしれない、6歳の年の差が結婚に支障になるかもしれない、と心配になった。ミラに近づく男はあの手この手で片っ端からやっつけて、ミラに近づかせないようにした。

何とかミラと結婚しようと考え、ミラの時間を止めることを思いついた。ミラの時間を6年間止めて、自分が追いつけばいい。魔術士としては最高の力を持つレオンは魔術修行に励みつつ、様々な実験をした。

小鳥の動きを止めてみたり、バラの花を咲かせたまま、1か月間時間を止めてみたり、実験を繰りかえし、絶対に大丈夫だという確信を持つようになった。


ミラの家庭教師の契約期間もそろそろ終わる頃、

ミラに内緒で魔術をかけて、ミラの時間を止めた。ミラは20歳、レオンが14歳のときだった。庭園の片隅にある美しい東屋に頑丈な大理石の箱を極秘に運ばせ、そこにミラを入れた。幾重にも結界を張り、誰も入れないようにした。このことを知っているのは、レオンと、兄王子であるベルと幼馴染で側近でもあるラルフだけだ。


あれから、6年間。

よく時間を止めたミラに会いに行った。

あと、5年、あと、4年、とカウントダウンしながら。

この前会いにいったミラは、昔と変わらない瑞々しい肌を持ち、眠っているかのような自然な微笑みを浮かべていたのに。キスした唇も、何もかわったところはなかった。

ようやくミラと同じ20歳となり、成人としても認められ、ミラが起きるのを待つばかりとなった。


それなのに。


一度だけ、魔術の実験の失敗をしたことがある。


ヒヨコをもらってきて時間を止めた。他のヒヨコ達がそろそろ3倍の大きさになろうというときも、魔術をかけたヒヨコは小さなままだった。魔術を解いたときに、ヒヨコでいるはずだったそれは、突然断末魔の声を上げ、ミイラのように干からびてしまったのだ。


あの恐ろしい光景が頭をよぎる。

そんなはずはない。

魔術は完璧だったはずだ。


魔術が解けたときにミラの身に何か起こったのか?


とにかく、ゾンビでも目撃者でも何でもいい、探せ、絶対に傷つけるな、と命じたままレオンは立ち上がることができなかった。


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