王子の遅刻
「も、申し訳ございません!」
警備隊長のもたらした知らせに第3王子レオンは激怒した。早馬に乗って駆けてきたため、警備隊長は疲労困憊している。
「申し訳ないですむか。東屋の戸が開いていて、中がもぬけの空だと? 警備は厳重にしろ、とあれほどいっておいただろう。」
怒鳴りつけたものの、それはレオンの八つ当たりだった。
警備兵達は東屋の中に何があるか知らない。
東屋の中にはレオンの大切な眠り姫、ミラが隠してあった。大切な眠り姫は時間魔術が解けて目覚め、勝手に東屋から出て行ったのだ。いくら警備兵達が見回りをしても、見張るべき者の存在を知らなければどうしようもない。
ミラが予定よりも早く目覚めてしまったということか。
ミラの目覚めに間に合わなかった。遅刻した。
レオンは頭をかきむしった。
ミラの目覚めにギリギリ間に合う予定だったのに。
ミラの横について、目覚めるのを待っているつもりだったのに。
俺の大切な眠り姫が東屋を出て行方不明とは・・・。
よく考えれば、6年間もの長期の時間魔術だ。1、2週間の誤差は当たり前だった。
ミラがちょっと慌てん坊なのを忘れていた。
不覚。全くの不覚!
レオンは低く唸った。
「探す。絶対に探し出す。そう遠くにはいってないはずだ。聞き込みをしろ。黒髪、紫の瞳の絶世の美女だ。この世の女神だ。ミラ・ラクシス。昔、俺の家庭教師をしていた女性だ。今すぐいけ!!いって探し出せ!!」
「はっ!!」
警備隊長は震えながら下がった。美女と東屋の関係がよくわからないが、聞けなかった。
これほど恐ろしい形相のレオン王子はみたことがない。
「ラルフ、頼みがある」
レオンは絶対の信頼をよせ、幼馴染でもある側近を呼んだ。
「ミラが予定よりも早く目覚めてしまって、行方不明になってしまった。急いで城に戻ってミラを探し出し、保護してくれ。それからお前、ミラに手ぇ出すなよ。」
今すぐにでも帰りたい。どうしても帰りたい。
が、山から浸み出した水は増加し続けている。決壊しかかっている堤防を放置していくのは危険すぎた。
「あああ、早くミラに会いたい。転移魔術が使えればなあ」
幼い頃、一緒に魔術修行した男を思い出すが、首を横に振る。ヤツが俺に協力するはずが無い。邪魔をすることはあっても。