魔術師の王子
愛しいミラ。
どんなにこのときを待っていたか。
6年間だ。
東屋の宝石箱の中で6年間、時を止めて、俺が大人になるのを待っていてくれる眠り姫。
可愛くて、優しくて、ちょっと間抜けで、面白いミラ。
ミラが目覚めたら、プロポーズしよう。
もうすぐ、ミラが目覚める。
そ れ な の に。
スカイ王国第3王子レオンの苛立ちは頂点に達しようとしていた。
「あともう一週間待機だと? 10日で工事は終わるといっただろう、兄上は!」
王都から近い川沿いの街で既に三週間が経過していた。
大雨のせいで、川の堤防の一部が決壊しかかっており、緊急工事を行っている。
一時的に水をせき止めるため、レオンは駆り出されていた。
魔術が使える者は少ない。優秀な魔術師でもあるレオンは、得意の時間を支配する魔術を用い、水の動きを止めている。
工事にあわせ、順次水位を調節していた。
「頼む。あともう一週間だけ。その間になんとか緊急工事を終わらせるから」
国内の整備を任されているスカイ王国第2王子ベルはレオンの袖をつかんで離さない。
温厚で博識、ちょっとちゃっかりしているが、基本的にはよい男だ。
そんなベルを兄として、慕っている。慕っては、いる。
だが、それは時と場合による。
「もう待てない。ミラが目覚めるんだ。どうしても早く帰りたいんだよ。6年間待ったんだ」
ベルはこれ以上言い争えば、レオンが何もかも放り出して帰ってしまうのではないか、と危惧していた。
レオンは魔術師としては優秀だ。麗しい外見から、穏やかで優しげな人柄を想像させる。だが、実際はどうしようもない頑固者で、怒らせると誰よりも恐ろしい。
「わかった。4日間でいい。4日間術を継続してくれ。そうしたら、ミラと結婚できるよう、私からも国王陛下に頼んであげるから」
ベルの言葉にピクリとレオンは動いた。
「ミラと結婚」
「そうだ。ミラと結婚したいんだろう? 陛下はお前に山ほど見合い話を持ってきている。私はお前の味方に付く。約束するよ」
レオンは考え込んでいる。
あと、もうひと押し。
「ミラだって、民の安全を考えて行動する『大人になったお前』をみれば、惚れ直すと思うぞ」
ミラがレオンに惚れていたとは考え難いが。
「本当に、ミラとの結婚を応援してくれるんだな?」
レオンは疑い深そうにベルをみる。
「ああ」
「ミラに横恋慕とかしないな?」
ベルは苦笑する。
「しない。っていうか、美人妻もういるし」
「わかった。協力する。3日間だけ、術を持続する」
レオンはそういった。
その決断を後で後悔することになるとも知らず・・・。