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がんばるレオン

「この、俺の熱い気持ちがミラに全く伝わっていない。俺が6年間どれほどミラを待ち望んだかも。ミラを手に入れるためにどれほど魔術修行をしたかも。いつまでたっても『可愛い教え子』止まりだ。どうすればいい。いっそのこと、『可愛くない危険な元教え子』になった方がいいだろうか」


レオンは書類の整理をしていた忠実な側近、ラルフの肩をつかんで揺さぶった。


「あー、まあ、下手に熱い気持ちが伝わらない方がいいと思いますが。王子の熱い気持ちが全部伝わると、たぶん普通の人は『変態』と認識して、引くと思われます。半分か三分の一くらい伝われば、丁度いいかと。王子はもう十分危険思想の持ち主ですし、可愛くもありませんからねぇ・・・『可愛くない危険な元教え子』ですよ、十分に」


忠実な側近から得られた助言はそれだけだった。




ううむ、あまり参考にならん。レオンは唸った。ならば、良き伴侶を得てラブラブの兄上、ベルの助言を・・・。


「ミラの心を手に入れたい? うーん、ミラという女性は普通じゃないからなあ。何せ、お前の家庭教師を二年も勤め上げるという偉業を果たした女性だからな。ミラの理想の男性像も全く想像つかないしなあ・・・」

ベルは首をひねっている。

レオンはミラにすでに理想の男性についてたずねてあった・・・が・・・。

「理想の男性は、二度目のデートに来てくれる男性・・・と、いっていた」

そうなのだ。レオンは、一度でもミラに声をかけた男性、紹介された男性、噂がある男性はことごとく排除した。だから、ミラに二度目のデートはないのだ。

レオンがうつむいて、今までしでかしたことをボソボソ告白すると、ベルは大げさに手を額にやった。

「ミラ・・・。なんと、なんと不憫な。お前、そんなことまでしていたのか。ひどい。ひどすぎるぞ。お前のせいで、ミラは・・・。でも、ハードル低くてよかったじゃん。2回デートすれば、理想の男性、クリア!」

軽~くいってくれるベル。

「でも、一度めのデートにも応じてくれないんだ。子供の頃の約束なんか気にしなくていいとかいって」

レオンがそういうと、ベルはポンと手を打った。

「そうだよな! よく考えたら、お前が一方的にミラにのぼせていただけで、ミラはお前のこと、まったく何とも思っていなかったもんな! 一から頑張れば? まあ、俺たちのところみたいにお見合いでもお互い一目ぼれ、相思相愛になることもあるけどねぇ」

あ、兄上・・・。俺の味方だといっていたのに・・・。



もういい。ここは、今まで登場もしていなかったけれど、国王陛下(父上)の補助として活躍し、第一王子である兄上、質実剛健、生真面目なマリンに・・・・・・怒鳴られた。

「レオン! お前というやつは!! レイシア財務大臣の言ったことは本当なのか? レイシア財務大臣の姪を誑かした挙句、6年間も監禁したというのは!! おまけに見合いまで邪魔したのか? え、本当なのか、それは」

「う・・・はい? た、誑かしては・・・。」

「とんでもない奴だな! すぐに責任をとって結婚しなさい」

だから・・・結婚したいっていってるのに・・・。


なんだかどんどん立場が悪くなってくる。

こんなはずではなかったのに・・・。


レオンが凹んでいると、元凶かつ元気の元が現れた。

「どうしたの? レオン王子。なんだか元気ないわね」

ミラは6年前と変わらない顔で微笑む。


「今日はお別れの挨拶にきたのよ。レオン王子がとっておいてくれた6年前の荷物も片付いたし、私、そろそろレイシア伯母様のところに帰らないと」

ミラはレオンが強引に引き留めたこともあり、そのままになっていた6年前の自分の部屋の荷物を片付けたり、掃除をしたり、友人に会いに行ったりしてしばらく王宮に留まっていたのだ。

ミラが帰ってしまう。

ここまでやってきたことが水の泡だ。


「そうそう、聞いてよ。イオ先生にお会いしたの。転移魔術でわざわざ会いに来てくれたのよ。記憶障害がきちんと完治しているか心配だったし、君の顔を見たかったから、ですって。うふふ」

ミラが微笑んでいう言葉にレオンはキレかかった。

あのクソ魔術師イオめ!! 何が君の顔が見たいだ。クサイにも程がある。


「イオ先生が初めてだわ! 2回目に会いにきてくれたの。まぁ、診察だから関係ないといえば、ないけれど」

な、なんだ? その嬉しそうな顔は。2回目に会いに来ただけで理想の男認定なのか? 

ちょっと待ってくれ、ミラ。6年間毎日ミラを拝んでいた俺の立場はいったい・・・。


「実はね。今日、イオ先生が王宮からお家まで送ってくれることになっているの。転移魔術でひとっとびなんですって。便利ね~。初めてだわ。3回目に会いに来てくれる男性」

ちょっとまて。まてまてまて。なんだと? 

レオンの顔から血の気が失せた。


「おまたせ、ミラ」


空間に軽やかに魔法陣が浮かび、イオが現れる。

イオの得意な転移魔術。空間魔術の一種だ。

こいつ!! レオンはイオを睨みつけた。


「お前、勝手に王宮に侵入して。不審者として牢に入れるぞ」

レオンの言葉にもイオは全く動じない。

「まあまあ、すぐ出ていきますよ。ミラを連れて」

イオは白衣を着て、メガネをかけて、ニヤニヤ笑っている。


「さ、ミラ、行こうか」


イオがミラを連れて再び魔法陣に入ろうとしたときだった。

不意にあわただしい兵士達の足音が響いた。


「レオン王子!! どうかお力をお貸しください。また、例の川の堤防が壊れかけていて。今しばらく、水を堰き止めてください。どうか、急いで」

大雨で決壊しかかっていた堤防か。そういえば、工事の途中で放置してきたんだった。

しかし、ここでイオとミラを置いて行ったら、イオは・・・ミラを・・・。

レオンは考えた。

堤防の決壊を止める。

イオも止める。


「イオ、手伝ってくれ。緊急事態だ。セーム川の堤防が決壊しかかっている。時間が無い。俺を転移魔術で、川まで連れていってほしい。そして、工事を手伝ってくれ」

レオンはイオの肩を掴んだ。

イオは思いっきりムッとした顔をした。

「何で私が手伝わなければならないんです? あんたの仕事でしょ」

「堤防が決壊すれば、町の人達も危険にさらされる。頼む」

お前とミラが一緒だと、ミラが危険だ。

「まぁ、大変だわ」

ミラがすごぉ~く心配そうな顔で、レオンとイオを交互にみた。

この効果はてきめんだった。

イオは渋々頷く。


「手伝ってやる。今日だけだぞ。レオン、私に捕まれ。場所はどこだ?」

知らせに来た兵士達はホッと息をついた。

時間魔術が得意なレオンに空間魔術が得意のイオがいれば鬼に金棒。


「仕方ない、行こう」


レオンとイオは王宮から一瞬にして姿を消した。



・・・・・・・・・・・・・・


「堤防、無事だといいけど。工事、上手くいくといいけど」

ミラは2人が消えた魔法陣の傍で独り言をいっていたが、はた、と気が付いた。


初めての3度目って喜んでいたけど、結果的にまたすっぽかされたような?


仕方ないけれど。

でも。

なんだか、レオン王子、大人になっちゃったな。

みんなにも頼りにされているみたいだし。

ちょっとカッコよくなっちゃって。

昔はいつもいつも私に纏わりついていたのに。

なんだか、ちょっと寂しいなあ・・・。




・・・・・・・・・・・・



レオンは水の動きを止める。

「イオ、そこの土嚢をあっちに動かしてくれ。それから杭をそこに」

レオンは次々と指示を出していく。

イオも流石に壊れかけた堤防を目の前にしては、手伝わざるを得ない。

ベルが細かい指示をレオンに伝えていく。


レオンとイオは共同作業で黙々と工事を手伝う。

「ホイ!」

水を移動。

「サ!」

水の時間を止めて固定。

「ホイ!」

土を移動。

「サ!」

土を固定。

「ホイ!」

石を移動。

「サ!」

石を固定。

ホイサ!

ホイサ!

ホイサッサ!

瞬く間に堤防が強化されていく。

ちなみに掛け声は2人の魔術師匠が決めたものだ。


最初からイオに頼んでいたら、こんなに短時間で済んでいたのか。

レオンはため息をついた。

今回だけはイオに感謝しなければならない。


ベル第2王子は目を丸くして工事がどんどん進んでいくのをみていたが、狂喜乱舞した。

「あーよかった。また3週間缶詰かと思ったよ。これで愛する妻のもとに帰れるなあ。2人とも、仲悪いって聞いていたけど、息ぴったりじゃない。これからも頼むよ!」

ベルはニッコリ笑って2人に声をかけたが、無視された。



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