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昔のお話

「ケッ、何で俺様が大陸語なんか勉強しなければならない? 俺と話をしたいやつが、スカイ語を習得すればいい!」

勉強嫌いのレオンは難癖をつけ、やってくる教師を次々に辞めさせていた。


「まあまあレオン。今回は趣向を変えて若い女性の先生にしてみたのよ。可愛らしい御嬢さんよ。ミラ先生っていうの。案外気に入るかもしれないわ」

母親である女王がレオンを諌める。

気に入ってなるものか。

今度はどんな手を使って辞めさせてやろうか。


「ラルフ! 下見にいくぞ」

レオンはラルフを引き連れると、城の一角に向かった。

今度来る女性教師は城に住み込むことになっている。


「あれか・・・? お? ・・・結構可愛いな。ラルフ、みてみろよ。今度のターゲットだ。」

レオンが聞き出した部屋をこっそりのぞき見ると、一人の娘が荷ほどきをしていた。

「先生を気に入ったなら、今度こそちゃんと勉強してくださいよ。来てくれる先生を次々と辞めさせちゃって、まだABCもわからないじゃないですか。いいたかないけど、ベル王子様は一年で大陸語で寝言をいうまでになったんですよ!」

ラルフの小言も素通りだ。

可愛いなあ・・・。

いや、まて。

気に入ってなるものか。絶対に辞めさせてやる。

とりあえず女だし、基本的な嫌がらせ攻撃でいくか。


小さなアマガエルを捕まえてくると、箱に入れ、リボンを結んだ。

この嫌がらせ、基本でしょう。

最初の講義の日にさっそく嫌がらせのプレゼントだ。

王子からのプレゼント、受け取らないわけにはいかない。

「ミラ先生にプレゼント。開けてみて」

ミラ先生は、はたして、予想通り驚いてくれるのか。

箱から飛び出した小さなアマガエルはピョコン、とミラの手のひらに乗った。

アマガエルの時間よ、止まれ。

レオンはカエルに魔術をかける。

アマガエルは手のひらの上で動かない。

レオンは悲鳴を期待した。カエルを放り出すのを期待した。

だが、ミラは固まったまま、動かなかった。

しまった、両生類や爬虫類は平気な類の女か?

たまに女性でも両生類大好き女がいる。


だが、ミラは好きではなかったらしい。

大嫌い、なのだろう。

カエルの乗った手を震わせ、大きな目にいっぱい涙をため、なにか呟いている。

「この子はいい子、かわいい子、素敵なカエルさん、かわいいカエルさん・・・」

自分に言い聞かせるように、必死に呪文のように唱え、こらえている。


不覚にもレオンはその間抜けなミラの姿にときめいてしまった。

い、いかん。


「あの、この子何食べるんですか? どういう入れ物にいれておけばいいんでしょう?」


ミラはプレゼントされたカエルを飼う気でいるらしい。

好意でプレゼントされたと思い込んでいるのだろう。

嫌がらせって気づけよ! プレゼントし甲斐のないやつ。


「ハエだよ。生きたやつね」

ニヤリ、と笑ってレオンはいった。

今度こそ、ミラの大きな目から涙があふれた。


レオンは非常に満足だった。満足したので、カエルにかけた魔術を解く。

カエルはアッという間にぴょんぴょんはねて何処かへ消えてしまった。


「いっちゃった・・・」


ミラはカエルの消えた方をみている。


「いいよ、別に。また何匹でもいっぱいプレゼントするから」




次はどんな手で、困らせてやるか。ワクワクした。


「レオン王子、講義を始めますよ? あれ? レオン王子何処にいるんですか?」


レオンはソファにだらしなく寝転がって寝たふりを決め込んだ。

一時間、ミラは講義しなければならない。


「あれ? レオン王子眠っちゃったんですか? どうしましょう。 起きてくださいな」


ゆさゆさと肩を揺すられる。

もちろん、寝たふり続行だ。

誰が講義なんて受けるものか。


「はあ。レオン王子は余程、お疲れなのですね。でも困りましたねえ」


途方にくれているミラが手に取るようにわかる。

ニヤリ。


「仕方ありませんねぇ。睡眠学習にしましょうか」


睡眠学習?

何だそれは。


ミラはそっとレオンの頭を持ち上げると、自分の膝の上に乗せ、膝枕した。

「大陸の言葉で歌を歌ってあげます。眠っていても案外聞こえているものなんですよ」


そういうと、レオンを膝枕したまま、綺麗な声でもの悲しい旋律の歌を歌い始めた。


柔らかなもも、微かな甘い香り、綺麗な歌声。

レオンの心臓は早鐘のようにうっていた。

・・・くっ、不覚。これでは、敵の思うツボだ・・・。


レオンの髪をやさしく撫でる手。

も、ダメ。



会えば会うほど、ミラに惹かれていく。

嫌がらせすればするほど、ミラというドツボにはまってゆく。

ミラを辞めさせようという気はとっくに失せて、替わりに別の気持ちが湧き上がる。


「おい、ラルフ。最近ミラに言い寄った男はどいつだ?」

目を光らせていうレオン。

「・・・真面目に講義に取り組むようになったかと思えば・・・どうしてそうなるんです?」

ラルフは心底迷惑そうな顔をした。


「いや、ミラが俺と結婚する前に手をだされても困るからな。ホラ、俺はまだしばらく結婚できないし」

レオンがそういうと、ラルフは心底あきれた顔をした。


「辞めさせると息巻いていたくせに、いきなり今度は結婚ですか? 王子はまだ12歳でしょうが。結婚は18歳から。成人として、本人の意志で結婚する場合は20歳。そもそもミラ先生はあなたが結婚する年頃には既にお嫁にいっているだろうし、あきらめたらどうですか」

この言葉がレオンに火をつけた。

猛然と魔術修行に精を出すようになった。

絶対に何とかしてやる。

この年の差を埋めてやる。


「王子。レオン王子。ちゃんと、人の話聞いてる? この言葉の意味は?」

ウットリとミラの横顔を見つめていた。

「はぁ~。王子ってばちっとも上達しないのね。私の教え方が悪いのかしら。王子、頭はいいはずなんだけど。あんまりやる気がないみたいね」

少し怒った顔も可愛い。

「貿易会社を経営している伯母様は大陸語はロマンだ、っていってたけど」

「ロマン?」

「ええ。大陸語を話せることによって、世界の富がアタシのものになるのってロマンよねぇ、っていってたわ」

それってロマンなのか?

レオンは首をかしげる。

「私もロマンだと思うわ。ちょっと前に、大陸から大使様がいらっしゃって、通訳を頼まれたのよ。とても遠くの違う文化を持った国の、素敵な大使様とお話・・・レオン王子? どうかしたの?」

国を超えてミラに手をだそうという輩がいるのか??

許さない。

絶対に邪魔してやる。

そのために大陸語が必要だというなら。

「突然やる気がでた。大陸語を取得する。100%話せるようになってそのむかつく大使を・・・」

「あらあら。急にやる気が出たの? ロマンがわかったのかしら? もしかしたら外国のお姫様がお嫁さんにくるかもしれないものね。ウフフ」

それは、絶対にないけどな!!

俄然、やる気になったレオンだった・・・。



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