帰還
ゴトゴトとゆれる馬車の中で。
はああ。
ゾンビじゃなくて、良かった。
生きているって素晴らしい。
ミラは深呼吸した。
レオン王子は可愛げの無い大人になっちゃったけれど。
でも、ミラと結婚します、だって。
ミラがデートをすっぽかされて落ち込んでいると、何故かかならずレオン王子が現れて、ミラを慰めてくれた。大丈夫だよ、ミラ。僕のお嫁さんになればいいよ、と。
あの約束をちゃんと守ろうとしてくれている。
「子供のとき」の約束なんか一生懸命守らなくてもいいのに。
「もうすぐ城に着く。城に着いたら、母上と父上に婚約を知らせにいこう!」
ミラの手をギュッと握っていうレオンの眼差しは真剣だ。
「レオン王子、私がデートをすっぽかされたりした時に、いつも慰めてくれましたよね? 僕のお嫁さんになればいいって。そんな子供のときの約束、守らなくてもいいですよ。本気にしていませんし!」
ミラがニッコリ笑って言うと、レオンはしばらく絶句した。
「そ、そんな約束って・・・。俺は・・・」
いいかけるレオンにミラは頷く。
「私を魔術修行の練習用実験台にしたあげく、6年間もすっかり忘れていたことを気にしているんでしょ? そのせいでお見合いし損ねたこととか。気にしなくてもいいですよ。許してあげます。レオン王子が真剣に魔術修行をしていたのは知っているし、レオン王子は可愛い教え子だもの!」
無事に目覚めたわけだし、伯母様にも会えたし、体はゾンビじゃないし。
ミラはもともと忘れっぽいので根に持つタイプではない。
「教え子・・・」
複雑な表情でつぶやくレオンにミラはもう一度、頷く。
「そうよ。レオン王子はいくつになっても、可愛い教え子です! さて。そろそろ手を離してくださいな。お城の人に見つかったら、誤解されちゃいますよ。王子様なんかに手をにぎられていたら、私もお嫁にいけなくなっちゃうし」
ミラはじっとりと汗ばんだレオンの手をどけると、ハンカチで自分の手をふきふきしてニッコリ笑った。