リハビリ体操と記憶
「では、リハビリ体操を始めます。悠久の時の流れを『首』で表してください。題して、時の流れを身に刻み」
イオ先生はリハビリ体操をいっぱい教えてくださる。がんばらなくちゃ。
両手を胸の前で合わせ、首を前、後、前、後。
「次に、宇宙の脅威を体全体で表してください。題して、宇宙人の侵略音頭」
イオ先生の指導は厳しい。今度の体操は非常に難しい。
左右にカニ歩きしながら、両手を大の字に広げ、腕を90度に曲げ、上、下、上、下。
私のちっぽけな記憶のために、宇宙の脅威を体現しないといけないなんて。
「うーん、ちょっと体が硬いようですね。では、体をほぐし、柔らかくする体操を。全身の力を抜いて、お尻だけ動かして・・・。題して尻文字ダンス」
尻文字ダンス・・・。
あの、イオ先生、それって本当に必要なんですか??
脳が活性化するより、ちょっとおバカになっている気がするのは、気のせいでしょうか。
「イオ先生、まだ宇宙人の侵略音頭が上手くできません」
私がいうと、イオ先生はメガネを片手でおさえ、うむ、と頷いた。
「それでは、宇宙人の侵略音頭を繰り返し、練習しなさい。その手足の動きの連動が、記憶への刺激となるのです」
私が一生懸命練習していると、突然外が騒がしくなり、バンっと戸が開いて、男の人が入ってきた。
大変。
イオ先生に急患かしら?
邪魔しちゃ、いけないわよね?
教えてもらったばかりのリハビリを忘れないように、上、下、上、下、と体操しながら後ずさり、そのまま診察室を退出する。
入院のために与えられた半地下にある個室に戻り、リハビリ体操を復習する。
最近、どんどんリハビリ体操の動きが複雑になってくる。
でも、難しければ難しいほど、脳みそや体が活性化するような気がする。
脱ゾンビ!
おお。今も、何か、思い出してきた・・・・。
生意気で、我儘な男の子。
一生懸命教えてあげた。
・・・ええと、そう。語学を教えていた。
「ミラ!」
生意気そうな少年はふとした折に、大人びた表情をする。
少年と青年の間をウロウロして。
「先生をつけなさい。ミ ラ 先 生 」
そういうと、何故か得意げな顔をして。
「ミラはミラでいいんだよ。ミラ、歌を歌って」
威張っていうくせに、子供のようなおねだりをして。
「歌より、この前の作文できた?」
「歌を覚えた方が早いよ。歌で教えて。そうすれば覚えるから。ミラの歌、大好き。ミラも大好き」
えーと。ミラ。私の名前。ミラ・ラクシス。
王宮で、我儘王子様の家庭教師をしていた。
王子・・・レオン第三王子。
家庭教師をやめることになって・・・。
えーと、そう。
家庭教師をやめて、見合いしろって伯母様がいっていた。
ちょっと待って。
伯母様、心配してる。
お見合いすっぽかしているんじゃないの? 私。
まずい。まずいまずいまずいです。絶対伯母様怒っている。
伯母様のところに帰らないと!
私は廊下を駆けだした。