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やり手ばばあの思惑

「ミラ・ラクシス」を王族の名前で捜索している?

フンっとレイシア・ラクシスは鼻を鳴らした。


人、彼女を「やり手ばばあ」と呼ぶ。


レイシア・ラクシスは未亡人であり、ミラの伯母にあたる。

三人姉妹の真ん中として生まれた彼女は、姉と妹の物はアタシの物。アタシの物はアタシの物。といって生きてきた。そのせいか、真ん中であるにもかかわらず、彼女が家を継ぐことが決まった。


若くして入り婿であった夫を亡くした彼女は打ちひしがれ・・・ず、鼻息荒く、細々続けていた家業の貿易事業を次々と軌道に乗せ、荒稼ぎした。子沢山の姉の息子を一人養子に迎え、さてひと段落ついたか、という頃。妹と義弟―ミラの両親が事故で亡くなった。ミラはその時17歳。ちょうどお年頃。そうなれば、もうやることは決まっている。ミラを引き取り、王宮にあげて、玉の輿だ。十分に金を持っているくせに、その欲は留まるところを知らない。荒稼ぎした金をばらまき、多大なる発言権を得た彼女は、ミラを王宮の語学教師として推薦した。レイシアは商売を通して語学には精通しており、ミラも幼いころから教育されている。



だが、レイシアの思惑は大きく外れた。

ミラはそれなりに可愛らしいし、貴族であり、資金もある。

王宮の教師として上がれば、誰ぞの目に留まり・・・と考えていたが、ミラが任されたのは、12歳の超我儘王子だった。誰もが匙を投げたその教師の役をミラは見事に勤め上げた。だが、せっかくミラを慕った青年貴族達も我儘王子が全てやっつけていたのである。玉の輿計画は大いに狂った。玉の輿どころかいきおくれ。


あせったレイシアは遠方の金持ち貴族じじいに狙いを定め、ミラに家庭教師を止めさせ、嫁がせることに決めた。

そこで更にレイシアの思惑は狂うことになる。

ミラが行方不明になったのだ。

ミラが家庭教師を止めて、戻ってくるはずの日に忽然と姿を消してしまった。

どれほど手をつくして探しても、ミラは現われなかった。


どういうことだろうね?

レイシアは太い眉をピクリと動かせた。

何で、今更ミラを探すんだい? あたしが、あれだけあの時探しても何処にもいなかったのに。

匂うね。


「レイシア様! スカイ王国第三王子殿下が・・・!」

突然の殿下訪問に侍女が慌てふためいている。

フン。やっときたか。若造が。

使いか何かをよこすかと思ったら直接きなすったか。

レイシアは王子を迎えるために、悠然と立ち上がった。


「レイシア・ラクシス殿、突然の訪問、申し訳ない。」

話し始めるレオン王子を無礼にも遮ってレイシアはいう。

「ミラはこちらには帰ってきておりませんよ。殿下」


若造も随分と立派になったもんじゃないか。

レイシアは不躾にレオン王子を眺めた。

焦げ茶色の髪に整った目鼻立ち。均整のとれた体躯は王子に相応しい恰好ではあるが、どこかくたびれている。美麗で中性的な顔は、隈ができ、無精ひげが目立ち、やつれていた。

レオン王子は深いため息をついた。


何だろうね? この様子は。


「本当に、連絡も何もないのですか?」

「連絡も何も、6年前に突然姿を消したっきりじゃないか。何故、今更ミラを探すのか教えて頂きたいね」


レイシアが王子から聞かされた事実は、想像を絶するものだった。

ミラを隠し、ミラの時を魔術で6年間も止めていたこと。さらに、魔術が解けるときに、ミラが化け物の姿に変わってしまったかもしれないこと。

自分が画策したささやかな玉の輿計画が、こんな結果を引き起こすとは。


「申し訳ない」

土下座したまま頭をあげない王子を蹴り飛ばしてやろうか、と思いながらもレイシアは思いとどまった。

「本当にとんだことをしてくれたね」

「返す言葉もない」


「・・・で、ミラが化け物になったとして、だ。王子様はどうするつもりだい? 化け物を牢獄へつなぐつもりなのかい?」

レオンは顔を上げた。

「ミラを連れて田舎にひっこみ、そこで2人で暮らします」

「・・・」


我儘王子がミラにご執心なのは噂で知っていた。

だが、それは誰にでもある淡い恋心。

真剣に玉の輿を狙うレイシアにしてみれば、はっきりいってどうでもいい対象だった。

こんな濃い、くどい恋心を抱いていたとは・・・おそるべし。

だが、大切な姪っ子を勝手に閉じ込めて眠らせた挙句、化け物にしてしまったとあっては許すわけにはいかない。


このクソ王子、どうしてくれようか。

ギリギリと奥歯を噛みしめ、憤怒の形相で睨みつけるレイシア。

「許しはしないが、一つやってもらいたいことがある」

「できることなら」

王子が顔をあげた。

「あたしを、財務大臣に推薦しな。そろそろあのモウロクジジイ交代だろ」

レイシアは転んでもタダでは起きない女だった。


そこへレオンを追って、側近のラルフがやってきた。


「まだミラの手がかりはつかめないのか?」

顔色の悪いレオン王子を一瞥し、ため息をつくラルフ。

「王子のガセネタのせいで、捜査が難航していました」

「ガセネタ? 何のことだ?」

「まだ、わからないのですか! 絶世の美女とか、才女ってふれこみで捜査していたせいで、ミラの行方がつかめなかったんですよ。事実をきちんと発表したら、すぐにミラを保護した宮廷獣医師が名乗り出てくれました」


「ミラがみつかったのか! で、でも獣医師っていうのは、やはり、その、そういう姿になってしまっているのか? 獣耳とか」


ラルフは更にため息をついた。もう嫌。この王子。


「おやおや。王子の好みですか? いくら王子の魔術が強くても、獣耳は無理でしょう。大丈夫ですよ。もとのままの姿のようです。ただ、記憶障害を起こしていたので、魔術医師の所へ連れて行き、そこで入院している、ということでした」


「記憶障害か。確かにあれだけの時間魔術をかければ、一時的に記憶が混乱してもおかしくはない。ところで魔術医師の所にいるだと?」

レオンは非常に嫌な予感がした。

魔術師は非常に数が少ない。

医師ができるくらいの腕前といえば、自分の師匠か、あの男・・・。


「ええ。ご想像のとおりです。イオ・ミレニア魔術医師の所にミラ・ラクシス令嬢はいるそうです」  

最悪だ、とレオンは思った。

「あの、我儘で変態な男のところに・・・!」

レオンはつぶやいたが、ラルフは思った。

それは、王子も同じです。

同類なんですよ、あなたたちは!


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