廃人始動
第2王子ベルは焦っていた。
頼りにしていたレオンが廃人同然になってしまったのだ。椅子に座ったまま一言も口をきかず、一睡もせず、食事もしない。かろうじて魔術は継続され、決壊しかかっている堤防は無事だが、いつどうなるか分かったものではない。徹夜で作業にあたらせているが、万が一作業中に魔術が途切れれば大変なことになる。
「レオン、落ち着け。ここで私達に何ができる? 今はラルフに任せてミラの捜索を続けるしかないだろう? 今は、ちゃんと食事をとって、魔術に集中してくれ」
レオンは虚ろな目でベルをみた。
「頼む、レオン」
レオンは何も答えなかった。
明け方、レオンはフラリと立ち上がると外へ出た。
応急工事は八割方済んだ。水はなんとかせき止められている。
「もう化け物でも何でもいい。ミラを探す。ミラに会いに行く」
レオンは馬に乗って出て行ってしまった。
ミラ。
本当は最後まで迷った。
勝手にミラの時間を止めてしまっていいのかと。
でも、家庭教師最後の日、ミラの時間を止めた。
ミラから愛の言葉をもらったのだ。
今日でお別れね。
国王陛下や王妃様、マリン王子様や、ベル王子様のいうことをちゃんときくのよ。大丈夫、あなたにはラルフだっているわ。
私?
お見合いすることになっているの。伯母様の命令よ。
本当は行きたくない。あんまり自信ないの。
今までも色々な方を紹介されたり、舞踏会に誘っていただいたりしたけれど、
一度会った方は、何故か二度と会ってくださらないの。
私って、そんなにヘンかしら?
伯母様は、私の事、慌てん坊のおまぬけさんで、お人よしのどんくさい娘っていうのよ。
あーあ。明日がこなければいいのに。
なあに?
もちろん大好きよ。私の王子様。
レオン王子だけは、毎日会ってくれるし。
大好きといわれ、天にも昇る気持ちだった。
キスをねだると、ミラはクスクス笑った。
だめよ。キスは未来の旦那様にとってあるの。
もし、旦那様がみつかれば、だけどね。
それをきいて、強引にキスした。
これで、未来の旦那様は自分に決定だ、とおもった。
ミラはびっくりした顔をしたけれど、
また、ちょっと笑って抱きしめてくれた。
たった2年しかたっていないのに、ずい分、大きくなったのね。
ああ。大きくなったさ。
それなのに。
こんなことになってしまうなんて。
何処にいる?
本当に化け物の姿に・・・なってしまったのだろうか?
会いたい。ミラに会いたい。