目覚めれば棺桶
大好きなミラ
待っていて。急いで大人になるから。
この、美しい東屋で。
今日はミラが大好きな花をもってきたよ。
この花を君に。
ミラ、君の歌声が聞きたい。
もうおこしてしまおうか。
でも、まだダメだ。
大切な俺の眠り姫。
ミラ、すまない。
俺は出かけなければならない。
もう少しだけ、待っていてくれ。
愛しい眠り姫。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
スカイ王国。
その王宮の広大な庭園は今日も美しく管理されている。
庭園の片隅にある小さな東屋で・・・。
・・・ここは何処?
頭がひどくボンヤリする。
丸い小さなドーム状の天井。
ステンドグラスから漏れる光。
娘は上半身をおこして、あたりを見わたした。
・・・え?
起き上がればそこは豪華なベッドの上・・・じゃない。
何これ?・・・もしかして、まさかの棺桶・・・ですか?
大理石でできたそれは、ベッドではなく蓋のない大きめの棺桶のようにみえる。
質のいいクッション、枕などもつめこまれている。
娘の胸元に置かれていたであろう花が、起き上がった拍子に床に散らばった。
美しい小さな円形の建物は、棺桶が中央にある以上、どうみても霊廟にみえる。棺桶以外何も置かれていないのだ。
・・・と、いうことは、棺桶の中にいる私は、安置された死体なわけで・・・?
娘は固まる。
死体・・・って、まさか、私、死んじゃったの? どうして・・・。
頭が混乱する。
全く何も思い出せない。
床に散らばる花も、死体に手向けられたお花、と思えば不気味でしかない。
と、いうことは、棺桶から起き上がる私は当然、ゾンビなわけで・・・???
ゾンビ?・・・・・・まさかね。
体に異常は・・・・・・ないみたいだし。
腐敗臭も・・・しないような気がするけど。
普通に生きてるよね?
しかし、霊廟に棺桶、そして花。全てが自分の死を物語っているような気がしてならない。
まさか、私、本当に死んだの?
そして、よみがえっちゃったゾンビなの?
・・・ゾンビ怖い。
昔、流行った小説に出てきた。
墓場から這い出したゾンビは生きた人を求め、喰らいつく。
ひぃぃ。怖い。
眼をつぶり、耳を塞ぐ。
で、でも、もし自分がゾンビだった場合、どう怖がればいいの?
私、人とか、襲っちゃうんでしょうか?
とにかく、棺桶から出よう・・・・・・。
風呂のようにでっかい棺桶から抜け出そうとしたときだった。
パンッと乾いた音がした。
驚いて辺りを見渡して、棺桶の周りに描かれている魔法陣に気が付く。
これは・・・結界の魔法陣・・・?
よく見れば、その魔法陣は、幾重にも厳重に棺桶を取り囲み、建物の外にまで広がっている。
どう考えても棺桶の中のモノを外に出さないための『封印』だ。
化け物封印のための結界・・・・・・?
そんなに恐ろしい化け物なの?
自分が??
わからない。どんなに考えても、何も思い出せない。
やっぱり、私はよみがえっちゃった恐ろしいゾンビなの?
娘はゾっとして自分の腕を抱いた。