第二話
第二話です。
父親の暴力は俺や里奈の何気ない行動に難癖をつけては殴ったりする単純なものだがしたたかな父親は表向きは妻に裏切られた悲劇の夫を巧妙に演じてたので俺達への虐待が表沙汰になる事はなかった。
俺に出来る事はといえば里奈を守る事だった、何かと里奈を庇う俺に父親は
『 どけ貴志!! 代わりにお前が殴られたいか!? 』
声を荒げて俺に迫る、結局俺は殴られるのだがそんな俺は逆に里奈に庇われる始末だ、兄として恥ずかしい
『 パパー! もうやめてっ!! これ以上お兄ちゃんを殴らないでーーっ!! 』
泣き叫ぶ里奈を見たらさすがに父親も暴力行為を止める、騒ぎが大きくなってもし近所の誰かに嗅ぎつけられたら自身の行為が明るみに出るからだろう。
こんなろくでもない父親だったが俺が高校に入学して間もなく交通事故であっけなく死んだ。
その後、俺と里奈は父方の祖父母に引き取られる事になりその祖父母が住む地に引っ越したのだが祖父母は自分達の息子 ( つまり俺達の父親 ) が孫の俺達を虐待して詫びようがない、生活費の心配はいらないからこれからはこの家で兄妹2人で仲良く暮らしなさいと言い残し何処かに去ってしまった。
そんな訳で里奈と2人で暮らす事になったのだがその事が決まると里奈は
『 これからはお兄ちゃんと2人でいられるんだねっ! 里奈、お兄ちゃんの為に美味しいご飯いっぱい作るから、ずっとずーーっと作っちゃうからね♪ 』
とまあこんな事を眩しい笑顔で言ってくれるのだからどうにも恥ずかしい、そしてこの言葉の通りに里奈は毎日の食事だけではなく過剰なまでに俺の世話をしてくれた、当時中学2年生の里奈は遊びたい盛りだろうに学校が終われば真っ先にウチに帰り食事や風呂の用意をしてくれる、一度里奈にウチの事ばかりでなく自分の好きな事もしたらどうだと言った事があるが
『 ありがとお兄ちゃん、でも里奈が今一番したい事はこれなの、お兄ちゃんの役に立てれるのが里奈の一番の幸せなんだから、だからお兄ちゃんは何も心配しなくていいんだよ。』
と一蹴されてしまった、まあ里奈もその内彼氏なり作って自分だけの時間というのを作るだろう、俺はそう自分で納得してそれ以上何も言わなかった。
そして少々思う所があって髪を金色に染めた時も里奈は驚きこそしたがすぐに
『 わあ〜、何か見違えたよー、でもお兄ちゃんに変わりはないもんね。』
いつも通りの接し方になった、そうして約2年間、大きなトラブルもなく俺も理子という彼女が出来て楽しい日々を送ってたのだが・・・。
――――
風呂から上がり水炊きのあるテーブルに座る、食欲を駆り立てる香りも今の俺には何も感じない、あまりにも惨い理子の仕打ち、工藤も腹立たしいがそれより理子の俺に対して悪いとも思ってない態度にはらわたが煮えくりかえる、そんな不機嫌そうな俺を見て里奈は
『 どうしたのお兄ちゃん? 何か嫌な事があったの? よかったら話してほしいな・・・。』
と恐る恐る聞いてくる、里奈にいらぬ心配をかけさせたくない、俺はなるべく普通に里奈に話す
『 そうか? 別に何にもないぞ、それより早いトコ食べようぜ、ホント今日みたいな寒い日には暖かい鍋物がピッタリだな。』
そして箸を持ち鍋から具を取ろうとする、その時に俺の携帯にメールが届いた、理子の携帯からだった、今更何かと思い受信メールを開くとそこには
『 何だこれは・・・。』
写真も添えられておりその写真には理子と工藤がベッドの上で裸で抱き合っていた、メール本文も 《 青ちゃん、私も今、恭介と楽しんでます 明日学校で詳しく話してあげるね♪ 》 俺の神経を逆なでして面白がってるとしか思えないような内容だった、もはや理子とは一生口も聞くまいと心に決めこのまま携帯を閉じようとしたらいつの間にか俺の後ろにいた里奈が俺の携帯を取り上げた
『 何すんだよ里奈、俺の携帯に何する気だ!? 』
俺の問いには応えず里奈は黙って女子中学生らしい手付きでメールを作成してる、程なく里奈は携帯を俺に返しそのまま俺の手をギュッと握ってきた、そして
『 お兄ちゃん・・・こんな奴の事なんかもう忘れちゃいなよ・・・お兄ちゃんならきっと他にいい人が見つかるよ、もし見つからなくても里奈はこんな奴や里奈達を捨てたあの女と違って絶対にお兄ちゃんから離れない、絶対にこの手を離さないよ、だから・・・元気だして・・・お願い。』
そう言った里奈は涙を流してた、そんな里奈を見た俺は何とも救われた気分になった、そうだ、俺にはこんなにも想ってくれる妹がいる、こんな女にフラれたからってそれがどうしたというのか、こんな事で前に進めないなんて俺らしくない、俺も里奈を抱きしめ
『 ありがとな里奈、俺は大丈夫だから、だから里奈ももう泣くなよ、可愛い顔が台無しだぞ。』
『 お兄ちゃん・・・うんっ! それじゃ早く食べよ食べよ、せっかくのお鍋が冷めちゃうよ。』
それからは里奈と学校とか友達とかの話をして兄妹水入らず、楽しい夕食の時間を過ごせた、そしてそんな里奈のお陰で鬱な気分もほとんど無くなってた、ちなみに寝る前に里奈が理子に送ったメールを見てみたら 《 うるさいゴミクズ、二度と俺にその汚い顔を見せるな、言っとくけどお前みたいなカスにもう何の感情もないから、そんじゃサヨナラ、永遠に。》 とまあ凄い文章だ・・・里奈は嫌いな人間には容赦ないからな、だけど本当に理子などもうどうでもいい、明日からの新しい学校生活を以前よりも楽しいものにしようと思いつつ俺は波乱の1日を終えたのだ・・・。
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