第百六十八話
今話で静香のお話は終わりです。
俺と里奈は近所のラーメン屋でとんこつラーメンを食べていた、今頃家では母さんと直樹さんがどうするのか話してるのだろう
『 ねえお兄ちゃん、あの人達、ちゃんと帰ってくれるのかな? 』
『 どうだろうな・・・まあ安心しろ、いずれにしてもお前をあの家から出させる様な事は俺が絶対にさせない、絶対にな。』
いつもながらシスコン全開なセリフだ、店にあまり人がいないでよかった
『 うんっ! 信じてるからね、お兄ちゃん♪ 』
なんつー可愛らしい笑顔だ・・・こんな妹がそばにいて微笑んでくれたらシスコンにもなるだろ普通。
ラーメン屋からの帰り道、里奈との会話もはずむ
『 そんでね、夕奈ちゃんと列車の話してたら友さんが言ってきたんだよ。』
『 どーせまた何かワケのわからんエロい事言ったんだろ、どーしてあの男は年がら年中・・・。』
今日夕奈ちゃんと遊んでいた里奈は駅近くの商店街で友成といずみちゃんにバッタリ会ったとか、なんでもいずみちゃんの母、美鈴さんの誕生日プレゼントを買いに来たとの事、本当に夫婦そのものだなあの2人は
『 ううん、よく分かんないけど [ 列車はただ人を乗せて運ぶだけのものじゃない、列車が走る姿を見て勇気づけられる人や列車が人の生きがいになったりする事もあるんだ。]とか言ってたよ、友さんって列車好きなんだねー。』
・・・またさらい刑事ですか? 本当に友成は香取刑事を心の師にしてるな、それだけ好きって事なんだろうけど。
ウチに帰ってみると直樹さんが迎えてくれた、そして俺と里奈に頭を下げて
『 貴志くん、里奈さん、迷惑かけて申し訳ない、明日の朝一番の電車で帰ることにした、もちろん静香と敦士の3人でね。』
『 そうですか・・・。』
母さんを説得したんだろうな、そう決めてくれたならありがたい、今日だけなら泊めてあげてもいいだろう
『 それから僕は約3年ほど北海道に住み込みで働く事になったんだ、友人のツテでね、そうしながら借金を返していけばいつかは全部返済できるかもしれない、静香も働いて協力してくれるって言ってくれたよ、バカだな、最初からこうしてれば貴志くんや里奈さんに不快な思いをさせずに済んだのに・・・。』
確かにそうだがこれからやり直せばいい、直樹さんに父親としての自覚があるならきっとうまくいくだろう
『 もういいんですよ、これからは母さんや敦士の幸せの為に頑張って下さい、親父もそう願ってます。』
そして母さんも出てきた、心なしか顔つきが穏やかになった様に見える
『 おかえり、貴志、里奈、敦士を寝かしつけてたとこよ、あの子、明日は帰れるって喜んでたわ。』
そりゃ何より、地元に帰れば敦士も友達に会えるしな
『 私も向こうに帰ったら働いて直樹さんと借金を返していくわ、また3年は会えなくなるけど今度は携帯やネットがあるしね、敦士にも寂しい思いをさせるかもしれないけどあの子なら分かってくれるわ。』
『 そっか、頑張ってな母さん、応援してるよ。』
『 ありがと貴志、安心なさい、もう二度とあなた達の前には現れないわ、あなたがこんな私を今でも母さんって言ってくれるだけで私は満足よ、これからは敦士に恥ずかしくない母親になるよう頑張るわ。』
母さんは二度と俺達に会わないと言った、その方がいいかもしれないな、母さんがやり直すのにもう俺達は必要ないのだから。
翌日、土曜日だから学校は休み、俺と里奈は朝早くから帰る母さん達を見送る
『 母さん、直樹さん、敦士、お元気で。』
『 ありがと、貴志も里奈も元気でね。』
『 貴志くん、里奈さん、哲也にも約束するよ・・・必ず借金を返して今度こそ静香と敦士を幸せにするとね、世話になったよ。』
それぞれ会話を交わす、黙ってた里奈も敦士に
『 敦士くん、向こうに戻ったら友達いっぱい作りなよ、そしたら絶対楽しいから、あと・・・。』
『 あと・・・何? 』
たずねる敦士に里奈はイタズラっぽくウインクする
『 もう少し素直な男の子になろうねっ、あんまりツンツンしてると女の子に嫌われちゃうよ♪ 』
『 頑張る・・・。』
そんな里奈と敦士を母さんは微笑んでみてる、その視線に気づいた里奈はなんと
『 お母さんも・・・頑張ってね、敦士くんに寂しい思いさせたらダメだよ。』
母さんにエールを送る、母さんも涙ぐみながらも
『 里奈・・・あなたには辛い思いばかり・・・母親らしい事なんて何一つしなかった・・・こんな私を許してくれるの? 』
『 もう許すも許さないもないよ、幸せになってね、お母さん、里奈の事なら大丈夫だから安心して。』
里奈は手を母さんに差し出す、そして母さんと里奈は手を握りあった、やっと母娘として心を通わせたようだ、少し遅かったかもしれないけど最後に話ができただけでもよかった
『 さようなら、貴志、里奈、あなた達の事は絶対に忘れないからね。』
こうして母さん達は帰っていった、いろいろあったがこれでよかったんだ、きっと、どんなに離れてても母と子、その絆だけは決して消えるものじゃない、小さくなっていく母さん達3人を見ながら俺はそう思っていた・・・。
次話はまた友成絡みのバカ話になるかもです。