第百六十一話
遅くなりまして申し訳ありません。
午後八時を過ぎてもまだ母さんは帰ってこない、仕方なしに俺と里奈と敦士の3人で先に夕食をする事にした、食卓に並ぶ里奈手作りのハンバーグはよい香りを漂わせ食欲をそそる
『 お兄ちゃん♪ 今日のハンバーグはソースに凝ったんだよ、お兄ちゃんに気に入ってもらえたらいいんだけどなあ・・・。』
『 ああ、いい匂いしてるし美味そうだよ、なあ敦士、こんな美味しいハンバーグなかなか食べられないぞ、ラッキーだなお前。』
相変わらずのシスコン兄ぶりを発揮する俺、しかし本当に里奈の料理の腕前は主婦の人に勝るとも劣らない、さすが小学生の頃から俺や亡き親父の食事を作ってきただけはある、そんな里奈の料理を自慢げに語る俺に敦士は冷めた口調で言う
『 ・・・別に食べられたら何でもいいよ、確かにコンビニとかの弁当よりはマシみたいだけどね。』
これまた相変わらず口の減らない坊主だ、母さんは敦士にどんな教育をしてるのやら、友達とかいるのか?
『 里奈だってお兄ちゃんや友さん、蒼太くん以外の男に料理を作るのは心外だけど君の分だけ作らないワケにはいかないでしょ、嫌なら無理に食べなくてもいいよ、お兄ちゃんに食べさせてあげるから。』
里奈は無表情で敦士に言う、せっかく作った料理をあんなに言われ怒ってもよさそうなのだが里奈は特に怒ってる様子もない、ただ無関心といっただけだ
『 と・・・とにかく食べようか! なあ、俺ぁ腹ペコでしょうがないんだよ、いただきまーす。』
凄く冷めた空気の流れる中、真っ先に俺が食事を始めると里奈も敦士も食べ始める、ハンバーグを一口食べた敦士は顔を綻ばせ
『 美味しい・・・。』
とただそれだけ言った、それからはバクバクと食べ続けご飯もおかわりした敦士は結局完食した、その様子を見てた里奈は
『 結局食べるんじゃない、別にいいけど・・・だけどあの人遅いね、どこで何してるんだろ? 』
少しだけ笑みを浮かべた表情を敦士に向ける、そして里奈にしては珍しく母さんがまだ帰ってこない事を気にしていた、もしかすると今ならと思った俺はある事の為に敦士を先に風呂に入らせ里奈とリビングに2人だけになると話を始めた
『 なあ里奈、お前、敦士の事どう思ってる? 夕奈ちゃんも言ってたけど見た目だけはお前にそっくりだろ、実は・・・。』
『 あの人の子供なんでしょ、そのくらい里奈だって分かってるよ、あんな小さな子が1人であの人に会いに来るなんて親子としか考えられないもん。』
知ってたのか!? まあそりゃそうだよな、普通それしか思わないだろ、なら話は早い、俺は話を続ける
『 その通りだ、そして敦士もお前や俺が父親の違う兄弟だってのも知ってる、里奈、敦士もあんな可愛げのない坊主だけど母親と離れて暮らしてて淋しかったんじゃないかな? 』
『 ・・・そんなの・・・里奈には関係ないもん。』
『 確かにそうだな、俺だって関係ないよ、でもだからといって敦士に冷たく当たるのは違うんじゃないか、お前が母さんを恨む気持ちは俺だって良く分かるけどそれと敦士はそれこそ関係ない話だろ。』
俺がしたかった事は里奈と敦士の関係の改善だった、里奈は自分を捨てた母さんだけでなくその息子の敦士も恨んでるふうだった、しかしそんな事情を知らない幼い敦士には何ら罪はない、せめてもう少し敦士への態度を柔らかくして欲しくて里奈に話をしてみたのだ
『 じゃあお兄ちゃんは・・・あの子の事、どう思ってるの? 』
『 俺か、そうだな・・・可哀相な奴・・・かな?』
『 可哀相って? 』
里奈が目を丸くして聞いてくる、俺は敦士に対して感じてた事を里奈に話した
『 だって父親のせいで借金取りから追われる生活を送ってたんだろ、あんな坊主が・・・その上母親とは離れ離れにされてさ、父親がまともな人だったら敦士もあんな性格じゃなかったんだろうな、多分、そう思うと可哀相でな。』
里奈は黙って俯いてる、里奈だって他人の痛みや辛さが分かる子だ、きっと淋しかったであろう敦士の気持ちも分かってくれるはず、そう思ってると玄関のドアが開く音がした、母さんがやっと帰ってきたのか
『 ごめんなさい、貴志、里奈、ちょっと友達と遊んでたらこんな時間になって・・・って、あれっ、風呂には誰が入ってるの? 』
リビングに入ってきた母さんが風呂場を見てそう言うと直後に敦士が風呂から上がってきた、ここに居るはずのない息子を見た母さんは一瞬目をこすり
『 えっ・・・敦士・・・どうしてここに? 』
あっけにとられ立ち尽くしていた、敦士もまた
『 お母さん・・・。』
あどけない子供らしい表情を見せる、やっと母子が再会できたのだ、敦士も嬉しいだろうな、しかしこれからどうしようかな・・・。
あと6、7話くらいで静香絡みの話は終わらせる予定です、次は蒼太の話にしようかと。