第百四十五話
真司の回想の後半です。
会社を経営してる父親と心優しい母親、健気に俺を慕う幼馴染みのいずみ達に囲まれ幸せな日々を送っていた・・・が、その日々は突然終わりを告げた、ある日学校から帰ってくると部屋で母さんが倒れていたのだ
『 かっ、母さんっ!!! 』
急いで救急車を呼び親父に電話をして病院に向かう、慌てて駆けつけた親父が医者から聞いた母さんの病名は急性白血病だった
『 かなり進行してました・・・貧血や発熱などの症状があったと思われますが・・・。』
というのは医者の話だ、そういや母さん、熱を出す事が多かった様な気がする・・・当然母さんは入院する事になり親父は会社と病院の往復であまり家に帰らなくなった、俺は矢島家に世話になる事が多くなりよく美鈴さんやいずみから励ましてもらった
『 真司くん、春江さんは大丈夫だから! 真司くんがいい子にしてたらきっと良くなるからね。』
『 真司兄ちゃん・・・おばさんは病気になんて負けないよ! 私もおばさんの病気が早く治るようにお願いするからね。』
そんな矢島母娘の優しさに応える為、そして母さんが良くなる事を願い俺は出来る事を必死に頑張った、できる限り母さんの見舞いにも行ったし矢島家で世話になってる時も家事等の手伝いを率先して行った
『 真司くん、そんな風呂場の掃除とかしなくてもいいのよ、私がするからゆっくりなさい。』
『 世話になってるんですからこのくらいやって当たり前です、何もしなかったら母さんが元気になった時に怒られますから。』
風呂場や部屋の掃除、食器洗い、ゴミだし等、小学四年生の坊主が出来うる事は一通りやった、そうする事で母さんが良くなると信じていたのだ、しかしそんな俺の思いとは裏腹に母さんが倒れてから三ヶ月後、病院から母さんの容態が悪化したとの連絡が入った
『 母さん・・・。』
駆けこんだ病室には母さんと俺だけだった、親父はまだ連絡がつかないらしい
『 真司・・・ごめんね・・・。』
病室に来た俺の顔を見るなり母さんは謝る、どうして謝るのだろうか・・・
『 母さん! 何謝るんだよっ!? 良くなってまた俺に唐揚げ食べさせてくれるんでしょっ!! 』
『 ごめんね・・・私・・・もう真司に・・・唐揚げ・・・食べさせてあげられない・・・。』
母さんの声は辛そうだった、喋るのもやっとなのか・・・それでも俺の目を見据えて話し続ける
『 真司・・・私・・・少し早いけど・・・お空の上にいくね・・・。』
『 何言ってんだよっ!! そんなの嫌だよっ!! 母さんがいなくなるなんて・・・俺・・・どうしたらいいんだよ・・・。』
言いながら涙が出てきた、こんな現実を受け入れたくなかった
『 なんで母さんが死ぬんだよ・・・うぐっ・・・こんなのないよお・・・。』
『 真司・・・人はね・・・生まれたら・・・いつか必ず死ぬのよ・・・。』
『 なんで人って必ず死ぬんだよお・・・うっく・・・嫌だあ! 俺は死にたくないよお・・・母さんも死んじゃ嫌だよ・・・。』
自分が情けなかった、母さんがこんななのに俺は自分が死にたくないと駄々をこねてるとか・・・
『 泣かないで真司・・・生まれた命にはね・・・必ず限られた寿命があるの・・・でも・・・だから・・・だからみんな・・・頑張って一生懸命生きてるのよ・・・。』
母さんのシンプルな言葉は俺の胸に響いた、一生懸命生きてる・・・限りある命だから・・・みんな頑張って生きてる・・・
『 私は・・・頑張って生きたわ・・・だから真司・・・あなたも・・・頑張って生きて・・・約束だよ・・・母さんとの・・・約束だからね・・・。』
母さんが俺に手を差し出してくる、俺はその手を握りしめて宣言した
『 母さん・・・俺・・・頑張って生きるから・・・母さんみたいに・・・約束するから・・・。』
そう言うと母さんはニッコリと微笑んだ、そしてその数分後、母さんは息を引き取った・・・。
親父は母さんの死に憔悴しきったが俺は母さんと約束した、頑張って生きると、いつまでも泣いていては母さんが安心して眠れない、俺は悲しみをグッとこらえ俺や親父を心配してくれてる矢島母娘にも努めて普通に振る舞った。
それから約二年、親父と2人で生きてきたが親父は自分トコの会社の受付嬢と再婚する事になった
『 真司です、これからよろしくお願いします、義母さん。』
ウチに来た新しい義母さんに挨拶する、小学六年生の一人息子を持つオッサンの嫁になってくれるのだ、俺はこの人に素直に感謝した、義母さんもよろしくねと優しく挨拶を返してくれたので仲良くやれると思ってた、だが1ヶ月もたつと義母さんの態度が変わった
『 真司ー、私今日友達と遊びに行って帰らないからー、ご飯は適当に作りなさいよねー。』
『 ちょっと真司! そんなトコにいちゃ邪魔なのよ、用がないならどっか行ってよー、全く・・・。』
『 別にアンタがどうなろうと全く興味ないけど私に迷惑かけるような事だけはしないでよ、アンタは高校を卒業したらとっととこの家から出て行ってくれたらいいんだから。』
こんな事を言われては怒りを通り越して笑えてくる、この継母は親父の資産目当てで結婚したのだ、親父もうすうす気付いてたらしい、じゃあなんで離婚しないのかは継母が離婚を頑なに拒否するとか、そんなに資産が欲しいのか・・・まあ継母に言われなくても俺は高校を卒業したら家を出るつもりだったから関係ない、ホスト遊びでも何でも好きにやってくれ、俺は一生懸命頑張って生きるんだ、母さんと約束したんだからな・・・
――――
『 おーい、トモー、どしたよ、もしもーし。』
青山の呼ぶ声が聞こえる、奈津美さんや彩花も俺を見つめていた
『 あっ・・・いや・・・ちょっとな・・・。』
言葉を濁すと奈津美さんが心配そうな声をかけてきた
『 何か悩み事でもあるのですか? 何かあるなら遠慮なさらず仰って下さい、真司くんは私達の大切な友達なのですから。』
『 そうだよっ、そんな真司、私はあんまり見たくないな、1人で悩むよりみんなで悩もうよ。』
奈津美さんだけでなく彩花も嬉しい事を言ってくれる、そんじゃ俺らしくいくか
『 悩みとかじゃないよ、彩花の今日の下着は何色かな〜って考えてたんだ。』
てっきり殴られるかと思ったが彩花の反応は予想外だった、彩花は微笑み
『 黒よ、それがどうかしたの♪ ふふふっ。』
『 ングっ!!! 』
青山がむせた、下着が黒だからって・・・これだから童貞って奴は・・・
『 ありゃりゃ、大丈夫貴志? そうだっ! よかったら見せたげよっか、貴志だったらいつでも見せたげるよっ♪ 』
『 彩花っ!! そこは是非とも俺に見せてくれ!! 』
俺が必死に懇願すると彩花はふうっとため息をつき
『 真司にはいずみがいるでしょう、見たいならいずみに頼みなよ。』
ムチャ言うな、いずみにそんな事頼んだらオーロラエクキューションで凍え死んでしまう、そんな中、奈津美さんは困惑した顔で彩花をたしなめる
『 もうっ、彩花さんったら・・・はしたないですわ! 食事中にそんな事・・・ふしだらです!! 』
『 そっ・・・そうだぞ彩花、女の子がそんな・・・下着の色とか・・・あんまり言うなよ・・・。』
青山に至っては目が泳いでる、なに考えてるのか簡単に分かるな
『 アオ、正直になれよ・・・彩花の黒下着が見たいんだろ、大丈夫、里奈ちゃんや夕奈ちゃんにはしっかり報告しとくからな。』
『 なっ! おい待てトモ!! 里奈達は関係ないだろうが、それに俺はそんなの別に・・・。』
『 何がそんなのかな〜、貴志が見たいって言うだけですぐに見れるのに、明日は何色がいい? 』
『 彩花さん!! それ以上の誘惑は私が許しませんわ! 私だって黒下着くらい・・・。』
こんな青山達を見て思った、学校に来れば愉快な仲間達がいる、いずみや里奈ちゃん、蒼太達だっている、俺は1人じゃないんだ、母さん・・・俺、頑張って生きてるから、そしていつかそっちに行ったら、笑顔で迎えてほしいな・・・。