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断罪?どうぞご自由に。――婚約破棄を完璧に受理して国庫を整理したら、国王陛下に泣きつかれて次期宰相に指名されました。  作者: 折若ちい
第1章 断罪の幕開けと、完璧なる逆転

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4話 陛下の裁きと、王子の失墜

静寂が支配する会場。引きずられていくエリオットの叫び声が遠ざかると、残されたのは困惑と、そしてアイリスへの畏怖だけだった。


「……アイリス嬢。いや、アイリス・フォン・ベルシュタイン公爵令嬢」


国王がゆっくりと歩み寄り、アイリスの前で足を止める。その目は、廃嫡した息子への怒りではなく、目の前の少女への深い感心に満ちていた。


「この度は、我が息子の愚行により多大なる迷惑をかけた。公爵家への謝罪、そして君への慰謝料については、追って正式に沙汰を下そう。……婚約破棄、確かに受理した」


「恐悦至極に存じます、陛下。……これでようやく、私の肩の荷が下りましたわ」


アイリスは、もたれかかっていた重荷を投げ出したかのような、晴れやかな笑みを浮かべた。その表情は、先ほどまでの「悲劇のヒロイン」とも「冷徹な告発者」とも違う、一人の自由な少女のものだった。


だが、国王の隣に立つ宰相――この国のまつりごとを三十年支えてきた老練な政治家、ウェリントン公爵が口を開いた。


「アイリス嬢。……君が提出した、王子の横領の裏付け資料。あれを精査したが、驚嘆に値する。王家の隠し口座の動きまで完璧に把握し、法的に言い逃れできない形に整えてある。……失礼だが、これほどの資料を、一人で作成したのかね?」


「ええ。殿下のお側で公務の補佐・・をさせていただいておりましたから。不自然な金の動きを辿れば、おのずと答えは出てまいりますわ」


アイリスが淡々と答えると、宰相は喉を鳴らした。


「『補佐』どころではない。君が裏で調整していたおかげで、北部の不作に伴う暴動が未然に防がれ、隣国との通商条約も維持されていた。……エリオット殿下が去った今、その業務を代行できる者は、我が宰相府にも数えるほどしかおらん」


周囲の貴族たちがざわめき出す。アイリスが「王子の婚約者」として、ただ微笑んでいただけではなかったことが、国の最高官僚の口から証明されたのだ。


「アイリス。君はこれからどうするつもりだ? 自由の身になり、どこか静かな領地で隠居でもするつもりか?」


父であるベルシュタイン公爵が問いかける。アイリスは少し考え、悪戯いたずらっぽく微笑んだ。


「そうですね。しばらくは、溜まっていた読書でもして、ゆっくりと――」


「――待たれよ!」


国王が、アイリスの言葉を遮った。その力強い声に、会場が再び緊張に包まれる。


「アイリス。君ほどの才媛を野に放つなど、国家の損失だ。……いや、ハッキリ言おう。君を失えば、この国の行政は数日で麻痺する。エリオットという重り(・・)が無くなった今、君のその翼を、国の未来のために振るってはくれないか」


「陛下……? それは、どういう……」


「明日から、宰相府へ来なさい。君を『次期宰相候補』として正式に招聘する。役職は宰相補佐官。女だからと侮る者がいれば、私が直々に黙らせよう。どうだ?」


会場にいた全ての者が、己の耳を疑った。

 この国始まって以来の、女性による政権中枢への参画。しかも、ただの事務官ではなく「次期宰相候補」という異例の抜擢だ。


アイリスは目を丸くした。……だが、その胸の奥で、かつてない高鳴りを感じていた。

 王子の顔色を伺い、影で支えるだけの退屈な日々。そんなものよりも、自分の手でこの歪んだ国を正していくことの方が、どれほど面白いだろうか。


「……陛下。私、性格が宜しくありませんわよ? 効率の悪い男は容赦なく切り捨てますし、予算案一つ通すのにも蛇のようにしつこく交渉いたしますけれど」


「はっはっは! それこそ私が求めている人材だ!」


国王の豪快な笑い声が、パーティー会場の天井に響く。

 アイリスは深く、優雅に頭を下げた。


「承知いたしました。……謹んで、お受けいたしますわ」


こうして、一人の令嬢の「断罪劇」は、国家の歴史を変える「政変」へと姿を変えた。

 会場の喧騒から少し離れた場所で、その一部始終を見ていた隣国の皇太子カイルは、持っていたグラスを指先で回しながら呟いた。


「……面白い。断罪を『面接』に変えてしまうとはな。アイリス・フォン・ベルシュタイン。……君を私の国へ引き抜くには、相応の準備が必要なようだ」


彼の瞳に宿る、征服欲と親愛が混ざり合った熱い光に、アイリスはまだ気づいていない。


断罪された令嬢の物語は、ここで終わる。

 そして、王国を掌握する「氷の女宰相」の伝説が、今ここから始まるのだ。

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