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断罪?どうぞご自由に。――婚約破棄を完璧に受理して国庫を整理したら、国王陛下に泣きつかれて次期宰相に指名されました。  作者: 折若ちい
第4章 偽りの聖女と、鉄の断罪

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28話 廃嫡の皇太子、愛という名の断末魔

王都中央広場。かつては王国の象徴であった白亜の石畳は、ゼノスの放つ黄金の魔力と、カイルが纏う不浄な黒い霧が衝突し、激しい火花を散らしていた。

 

 カイル・ヴァン・ディードリッヒ。

 大陸最強の帝国の次期皇帝として、すべてをてのひらに収めてきた男。だが今、彼の耳元にある魔導通信機からは、本国の重臣たちによる「冷酷な宣告」がリピート再生されていた。


『……カイル皇太子。貴公の独断によるアステリア侵攻は、帝国の国益を著しく損なった。……ルキウス特使より提出された証拠に基づき、皇帝陛下は貴公の「廃嫡はいちゃく」を決定された。……直ちに武装を解除し、罪人として本国へ帰還せよ』


「……はは……。廃嫡、だと? 私を、この私を、一介の罪人として扱うというのか……!」


カイルの声は、怒りを超えて、乾いた笑いへと変わっていた。

 彼がアイリスを奪うために注ぎ込んだ莫大な軍費。それが、アイリスの放ったスパイ(ルキウス)の手によって「国家予算の私的流用」として裏付けられ、帝国内部の保守派に絶好の攻撃材料を与えてしまったのだ。


「……カイル殿下。……あなたの『負債』は、もはや帝国の威信ブランドでは補填できませんわ」


王宮のバルコニーから、アイリスの声が静かに降り注いだ。

 彼女は、カイルの脳内に植え付けられていた「精神の繋がり」を、今度は逆に利用して、彼の網膜に直接、帝国の株価と国債価格が「垂直落下」していくグラフを投影した。


「……御覧なさい。あなたがアステリアの土を踏んだ瞬間に、帝国の信用は地に落ちました。……投資家たちは、暴走する皇太子を恐れ、帝国から一斉に資金を引き揚げています。……あなたが今、その身に纏っている魔導鎧の維持費すら、すでに帝国の銀行は支払いを拒否しておりますわよ」


「アイリス……っ! 君は、私をここまで追い詰めて、何が楽しいんだ! 私は君を愛し、君を帝国の頂点に連れて行こうとしただけなのに!」


「……愛? 笑わせないでください。……あなたのそれは、ただの『独占欲』という名の不良債権ですわ。……相手の価値を認めず、ただ自分のコレクションに加えようとする……。そんな非効率な感情に、私は一銭の価値も感じません」


アイリスは、冷徹に最後の一撃を放つ。


「……カイル殿下。……あなたはもう、私にとって『交渉の余地がある敵』ですらありません。……ただの、処理待ちの『廃棄物』ですわ」


「……廃棄物……だと……!?」


カイルの理性が、音を立てて崩壊した。

 彼が最も誇りに思っていた「選ばれし者」としてのプライド。それを、アイリスは「無価値なゴミ」として切り捨てたのだ。


「……ああああああぁぁぁ!! ならば、壊してやる! 君も、この街も、私の手に入らないなら、すべて無に帰してやる!!」


カイルの影から、禍々しい黒い触手が無数に噴き出した。『堕天の核』が、主の絶望を喰らって暴走を始めたのだ。それはもはや魔法ではない。負の感情そのものが物理的な質量を持った、終末の怪物だった。


「……チッ。往生際が悪いぜ、銀髪野郎」


ゼノスが、黄金の翼を大きく羽ばたかせ、地面を蹴った。

 彼の背負う「聖騎士の加護」は、アイリスの構築した王都の魔導ネットワークと共鳴し、かつてない高出力へと到達していた。


「ゼノス! ……彼の『堕天の核』のコア、右胸の下、三センチの地点ですわ! ……そこに全エネルギーを集中させ、一気に『相殺』しなさい!」


「……了解だ、アイリス! 俺のボーナス、全額注ぎ込んでやるぜぇ!!」


ゼノスの大剣が、白銀の閃光を放った。

 黒い触手を次々と断ち切り、カイルの懐へと飛び込む。

 カイルは狂ったような笑みを浮かべ、黒い魔力の剣を振り下ろすが、ゼノスの「守護の盾」がそれを完全に弾き飛ばした。


「――『聖騎士の断罪・最終決算ファイナル・デリバティブ』!!」


ドォォォォォォォォォン!!


黄金の光が、王都の空を昼間のように照らし出した。

 カイルの纏っていた黒い霧は、ゼノスの一撃によって霧散し、彼の胸元に埋め込まれていた『堕天の核』が、パリンと小気味良い音を立てて砕け散った。


衝撃波が収まると、広場の中央には、ボロボロになった軍服で膝をつくカイルの姿があった。

 

 かつての帝国の至宝。

 今や、地位も、力も、そして愛を乞う資格すら失った、ただの男。


「……は、はは……。……負け、たのか。……数字に……、そして、あの野蛮な騎士に……」


カイルは、天を仰いだ。

 そこには、バルコニーから自分を見下ろすアイリスの姿があった。

 彼女は、勝利に浸る様子もなく、ただ淡々と手元の手帳に、この戦闘による「損害賠償額」を書き込んでいた。


「……カイル殿下。……あなたの身柄は、帝国政府へと売却・・・・いたします。……あなたの身代金として、帝国領内の北海炭鉱の採掘権を一〇〇年分、譲渡させる契約が先ほど成立しましたわ」


「……売却、か。最後まで、君らしいよ、アイリス……」


カイルは力なく笑い、そのまま意識を失った。

 

 帝国軍の残党は、総大将の敗北と本国からの廃嫡通知を受け、戦意を喪失して次々と投降。

 王都防衛戦は、アステリア王国の「完勝」で幕を閉じた。


夕暮れ時。

 王宮のバルコニーで、アイリスは夕日に赤く染まる王都を眺めていた。

 隣には、ボロボロになった鎧を脱ぎ捨て、包帯だらけの姿で寄りかかるゼノスがいた。


「……終わったな、アイリス。……さすがに今回は、俺も死ぬかと思ったぜ」


「……非効率な働きぶりでしたわね。……おかげで、王都の修繕費が予算の二〇パーセントを超えてしまいましたわ。……あなたの給与、向こう三〇年は無しですわよ」


「なっ……! 命がけで守ったのにそりゃねぇだろ! 鬼か貴様は!」


アイリスは、ふっと小さく笑った。

 それは、眼鏡の奥に隠された、彼女の本当の感情。


「……冗談ですわ。……ゼノス。……あなたがいてくれたから、私の計算は『真実』になりました。……感謝、していますわ」


不意に差し出されたアイリスの手に、ゼノスは目を見開き、やがて優しくその手を包み込んだ。


「……おう。……これからも、貴様の計算が狂わねぇように、俺がずっと横にいてやるよ。……それが、俺の『生涯契約』だ」


二人の影が、長く伸びる夕日の中で重なる。

 

 だが、アイリスは知っていた。

 カイル皇太子の排除は、あくまで「大陸統一」という壮大なプロジェクトの序章に過ぎないことを。

 

 帝国の混乱。

 それを好機と見た近隣諸国の野心。

 そして、暗躍する「真の黒幕」。

 

 アイリス・フォン・ベルシュタインの「全三〇〇話」に及ぶ伝説は、ここから「大陸全土を一つの経済圏に統合する」という、人類史上初の試みへと突き進んでいく。


「……さあ、ゼノス。……休み時間は終わりですわ。……明日の朝九時には、帝国の『合併吸収(M&A)』に関する第一回閣僚会議を始めますわよ」


「……勘弁してくれよ、アイリス……!」

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