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断罪?どうぞご自由に。――婚約破棄を完璧に受理して国庫を整理したら、国王陛下に泣きつかれて次期宰相に指名されました。  作者: 折若ちい
第4章 偽りの聖女と、鉄の断罪

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27話 王都防衛戦、氷の罠と黄金の一閃

アステリア王国の王都。かつて平和な鐘の音が響いていた街並みは今、地平線を埋め尽くすディードリッヒ帝国の魔導騎士団によって、物理的な「圧殺」の危機に瀕していた。

 

 カイル皇太子が直接率いる第一陣。それは、通信を絶ち、アイリスの精神ハッキングを物理的に遮断した「沈黙の軍勢」だった。彼らは一切の魔導通信を使わず、ただカイルの放つ「絶対的なカリスマ」という名の指揮の下、一つの巨大な刃となって王都の正門へと肉薄していた。


「……計算通り、原始的な『突撃』を選びましたわね。カイル殿下」


王宮のバルコニー。アイリスは、風に翻る藍色のドレスを抑え、眼下に広がる敵軍を見下ろした。

 彼女の脳内には、今もカイルの「残滓」が、脈打つ毒のように居座っている。だが、アイリスはその痛みを冷徹に「クロック周波数の向上」へと転嫁していた。カイルの執着心が強まれば強まるほど、彼女は彼の次の動きを、自分自身の反射神経のように察知できる。


「ゼノス。……王都の『基盤インフラ』、全開放の準備はよろしくて?」


アイリスの背後で、大剣を抜き放ったゼノスが、黄金の魔力を陽炎かげろうのように立ち昇らせていた。


「ああ、いつでもいけるぜ。……だがアイリス、本当にいいのか? この街の『石畳』一枚一枚にまで、貴様の魔力を流し込むなんて。……そんなことすりゃ、貴様の身体がもたねぇぞ」


「……非効率な心配ですわ。……王都の整備予算を、私がどれだけ無駄なく執行してきたと思っているのですか? ……この街は、ただの居住空間ではありません。……私が一から設計し直した、巨大な『防衛演算回路マザーボード』なのですから」


アイリスが指先で空中に円を描いた。

 その瞬間、王都の地下に張り巡らされた新設の排水溝、ガス管、そして魔導光ファイバーが一斉に共振を始めた。


「――起動ブート。……王都防衛プロトコル:『総資産凍結アセット・フリーズ』!!」


王都の正門を突破しようとしていた帝国の重装魔導騎士団。

 その最前列が石畳の一段を踏み抜いた瞬間――異変が起きた。


逃げ遅れた民衆は一人もいない。アイリスが事前に「効率的な避難訓練」を徹底していたからだ。空っぽになった街路。そこへ足を踏み入れた帝国兵たちは、自分たちの足元の石畳が、まるで「磁石」のように自分たちの魔力を吸い取り始めたことに気づく。


「な……っ!? 身体が動かん! 馬(魔導バイク)の出力がゼロになっただと!?」


アイリスが王都の地下に埋め込んだのは、最新の「魔力吸収触媒」。

 帝国兵が歩けば歩くほど、彼らの魔力は奪われ、逆に街を覆う「物理障壁」へと変換されていく。


「……私の街で暴れるには、相応の『入場料』を払っていただきますわ。……蓄積された魔力を、一気に放出しなさい、ゼノス!」


「……待ってましたぁ!!」


ゼノスがバルコニーから、彗星のような速度で戦場の真っただ中へと飛び降りた。

 

 黄金の光。

 覚醒したゼノスの放つ一閃は、アイリスのシステムによって「増幅」され、もはや一振りの剣の域を超えていた。


「――『聖騎士の断罪・一〇〇%還元マックス・ペイバック』!!」


ドォォォォォォォォン!!


一撃で、帝国の魔導騎士団、第一大隊が文字通り「蒸発」した。

 それは武力というより、アイリスが計算し尽くした「エネルギーの再分配」の結果だった。


爆炎と砂塵の中。

 その中心に、傷一つ負わずに立つ一人の男がいた。

 白銀の軍服を靡かせ、手にした指揮剣を優雅に鞘に収めるカイル皇太子である。


「……素晴らしい。素晴らしいよ、アイリス! 君は街そのものを一つの武器に変えたのか! 経済学を軍事教本に書き換える君のその才能……やはり、私の隣に置く以外に選択肢はない!」


カイルは、眼前に立つゼノスを一瞥した。


「……番犬。……君のその黄金の光、少しばかり鬱陶しいな。……アイリスの頭脳を汚すノイズ(暴力)は、私が直々に排除してあげよう」


カイルが手をかざすと、彼の影からドロドロとした黒い魔力が溢れ出した。

 それは『堕天の核』の真の姿。人の理性を喰らい、欲望を純粋な破壊力へと変換する「悪魔の魔力」だ。


「……貴様、さっきからグダグダと。……アイリスを『物』みたいに言うんじゃねぇよ」


ゼノスの声は、かつてないほどに低く、静かだった。

 彼の周囲の黄金の光が、その怒りに呼応して、白銀に近い輝きへと純化していく。


「あいつが何桁の数字を数えてようが、あいつがどれだけ冷徹なツラしてようが。……俺にとっては、ただ一人の、守るべき不器用な女なんだよ。……貴様みたいな、所有欲の塊に触らせるわけねぇだろ!」


ゼノスとカイル。

 守護者と征服者。

 二つの圧倒的な個が、王都の中央広場で激突した。


バルコニーでその光景を見守るアイリス。

 彼女の視界には、二人の激突による膨大なエネルギーの数値が流れていた。

 だが、その数値の中に、彼女は一つの「エラー」を発見する。


「……カイル殿下。……あなたの『堕天の核』。……それは、自国の国民の『生命力』を担保にした、非人道的な債務・・・・・の上に成り立っていますわね?」


アイリスは、通信機を介さず、脳内に響くカイルの残滓に向かって直接語りかけた。


「……あなたが私を『愛』で侵食したように。……私も、あなたの内部にある『経済構造』を、すでに掌握ハックしております。……今、帝国の本国では、あなたの独断専行に怒った元老院が、あなたの『廃嫡はいちゃく』の手続きを開始しましたわ。……ルキウス様が、向こうでいい仕事をしてくださっていますの」


カイルの動きが、一瞬だけ止まった。

 

「……な……っ!? ルキウスだと……!?」


「ええ。……暴力で盤面を壊すなら、私は『法』と『人事』で、あなたの立っている地面そのものを消し去りますわ。……カイル殿下。……あなたはもう、皇太子でもなければ、軍の司令官でもありません。……ただの、一文無しの『指名手配犯』ですわ」


アイリスは、冷徹な死刑宣告を下した。

 

「ゼノス! 彼はもう『国家資産』ではありません! ……遠慮なく、ただの不法侵入者として処理しなさい!」


「……了解だ、アイリス!! 最高の命令だぜぇ!!」


ゼノスの大剣が、カイルの黒い魔力を真っ二つに裂いた。


知略が暴力を凌駕し、法が血統を打ち砕いた瞬間。

 だが、カイル皇太子の執着は、地位や名誉を失ったことで、より純粋で、より危険な「狂気」へと昇華していこうとしていた。

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