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断罪?どうぞご自由に。――婚約破棄を完璧に受理して国庫を整理したら、国王陛下に泣きつかれて次期宰相に指名されました。  作者: 折若ちい
第4章 偽りの聖女と、鉄の断罪

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16話 広場に響く「奇跡」の声

王都アステリアの中央広場。そこは普段、アイリスが整備した効率的な市場として賑わう場所だが、今日の空気は異質だった。

 中心に設置された急造の祭壇。その上に立つのは、数日前まで鉱山にいたはずの女――リリア・カステロである。


「ああ、愛すべきアステリアの民よ! 私は戻ってまいりました。皆さんの苦しみ、悲しみ、そして失われた『心』を取り戻すために!」


リリアの声は、かつての甘ったるいものとは違い、どこか重低音の響きを伴っていた。彼女の胸元で怪しく光る紫の魔石――帝国製の魔力増幅器が、彼女の「魅了チャーム」を数千倍に膨らませ、広場を埋め尽くす数万の群衆に放射している。


「……アイリス・フォン・ベルシュタインという女が、何をもたらしましたか? 確かに道は綺麗になった、税も整理された。……ですが、皆さんの隣にいる家族を、愛を、数字で測るような冷たい日々を望んだのですか!?」


群衆が、一人、また一人と虚ろな目で膝をつく。

 アイリスの急進的な改革は、確かに生活を豊かにしたが、同時に「古い慣習」や「怠惰な特権」を奪われた者たちの不満も蓄積させていた。その不満という名の種火に、リリアの魔力が油を注ぐ。


「聖女様……! 聖女リリア様だ!」

「あんな血も涙もない宰相補佐官を追い出せ!」

「我らに愛を! 奇跡を!」


狂熱。それは計算式では導き出せない、集団心理の暴走だった。

 リリアは悦悦えつえつとして、その光景を見下ろす。彼女の背後には、教団の生き残りと、帝国の息がかかった武装集団が控えていた。


「さあ、皆さん! 王宮へ行きましょう! あの氷の魔女を、真実の炎で焼き払うのです!」


シュプレヒコールが地鳴りのように響き、暴徒化した群衆が王宮の正門へと押し寄せようとした、その時。


――ガギィィィィィン!!


空気を切り裂く高周波の音が、広場全体を震わせた。

 リリアの「魅了」による陶酔感が、その鋭い音によって強制的に遮断される。


「……耳障りな周波数ですわね。騒音公害として、一〇〇万ゴルの罰金を科したいところですわ」


広場の時計塔の屋上。

 そこには、風に藍色のドレスをなびかせ、巨大な拡声魔導具の横に立つアイリスの姿があった。

 彼女の隣には、大剣を肩に担ぎ、今にも飛び降りそうな構えのゼノスが、鋭い眼光を群衆に向けている。


「アイリス……っ! 貴女、よくもノコノコと!」


「リリア様。……脱獄、公務執行妨害、および未登録の魔導具による集団催眠。……あなたの罪状リストに、また新たなページが加わりましたわね。……非効率な再会ですが、ここで清算させていただきましょうか」


アイリスは静かに眼鏡を直し、手元のレバーを引いた。

 すると、広場を取り囲む街灯の魔石が一斉に色を変え、特殊な「魔力中和結界」が展開される。


「な……っ!? 私の力が……消えていく……!?」


「リリア様。あなたが使っているその帝国製の増幅器。……出力特性はすでに解析済みです。……波長を反転させた干渉波をぶつければ、その『奇跡』とやらは、ただの発光現象に成り下がりますの」


アイリスの声は、魔法ではなく、徹底的な「科学」と「論理」によって広場を支配し始めた。

 群衆の目が、少しずつ正気を取り戻していく。


「皆さん、目を覚ましなさい。……彼女が今、皆さんに約束した『愛』や『救済』。……その財源はどこにあると思いますか? 彼女の背後にいる帝国の商人が、皆さんの農地を、子供たちの将来を、借金の担保に取ることで賄われているのですよ」


アイリスは、空中投影プロジェクションを起動した。

 そこには、リリアが脱獄の際に帝国と交わした「アステリア王国割譲に関する秘密協定書」のコピーが映し出される。


「聖女を名乗る彼女が、皆さんの国を、他国へ売り渡そうとしている。……これが、彼女の言う『奇跡』の正体ですわ」


広場を支配していた熱狂が、一瞬にして氷のような沈黙に変わった。

 リリアの顔から血の気が引き、彼女は震える指でアイリスを指差した。


「……嘘よ! そんなの、偽造よ! 皆さん、信じないで! 私は――」


「――証拠なら、ここにありますわ。リリア様、あなたが帝国の密使から受け取った裏金の金貨……すべて、アステリア王国の鋳造ミスで回収されたはずの『欠陥貨幣』ですのよ。……私の手元にある回収記録と、照合が完了しております」


アイリスの一言一言が、逃げ場のないくさびとなってリリアを縛り上げる。

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