第9話
通常であればいまある騎士団だけで乗り越えられたであろう。
しかし災難はこれだけではなかったのだ。
今回の魔物の大群は、ただの大群ではなく、明確にウィスタリア聖教国を滅ぼそうとする目的をもった魔族が率いていたのだ。
その魔族の名はメイズ。
魔族という種族は、人族より遥かに長い寿命と魔力をもち、魔物を操る術に優れている。
種族として人族より、はるかに優れているのだ。
さらにこのメイズという魔族は、魔族の中でも天才と呼ばれるほどの強者であり、かつては、ゴールド王国に精強六武威として仕えていた武人でもあった。
そしていまは、聖教会に反旗をひるがえす魔王の側近である。
メイズは魔王の敵となる聖教会をたおすため、まず同盟国であるウィスタリア聖教国をほろぼすべく魔物の大群を集め、率いてきた。
それもクラレットと第三騎士団そしてラベンダーという強大な戦力がいないことを見計らったうえで。
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魔王の側近であるメイズは魔物の大群をひきいながら、眼下にそびえる防衛拠点を見ながら、
「あれがウィスタリア聖教国の最後の砦というわけかぁ。時間をかければぁ崩せないこともないが・・・・・・・・許せとは言わないぃ。我が魔王様の目的のため、ウィスタリア聖教国を滅ぼすぅ」
「魔物どもよぉ。襲い掛かれ!!」
メイズの号令一下のもと魔物たちが砦に向かって襲い掛かった。
メイズは人族より遥かに長く生きてきた。
黄金の「精強六武威」時代は戦いの連続であった。ゆえに、歴戦の将軍でもある。
率いる魔物はメイズみずから中央平原から集めた選りすぐりの魔物たちである。
それだけでもウィスタリア聖教国側は絶望的であるのに、さらにメイズは支援魔法で魔物たちを強化している。
その数15000。
その一匹一匹に支援魔法をかけるという徹底ぶり。
そんな離れ業ができるほどメイズは桁外れの魔力量を持っているのだ。
しかしながら、さすがに15000の魔物全てに魔法をかけたためメイズ自身は相当消耗した。
なので自分は直接動かず、魔物を指揮することに専念して防衛拠点を落とすことにしたのだ。
メイズが考えた作戦は次の通りである。
魔物の群れを3つに分け、3交代で24時間、防衛拠点を攻め続ける。
本能だけの魔物では決してできない芸当だが圧倒的強者であるメイズが指揮をとることでそのようなことが可能になる。
そして、これはメイズ自身が単なる武力自慢の武将なのではなく、魔物たちを指揮し効率よく相手を攻め滅ぼすことを目的とした戦術も扱えることを示している。
メイズは武力と知力と魔力を兼ね備えた名将なのだ。
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昼前にゴールド王国についたクラレットとラベンダーは国民から歓迎の声を浴びながら王宮に向かっていた。
ゴールド王国の国民は知っていたのだ。
目の前のラベンダーという可憐な少女が国を救う伝説の勇者であることを。
しかし、ラベンダーもクラレットも歓声に笑顔で応えはするものの正直言って目立つのは苦手なほう。
まだ、ウィスタリア聖教国におとずれた魔物の襲撃は報告されておらず、ゴールド王国もクラレットたちも落ち着いて勇者の認定式を行うことができた。
王宮についたラベンダーたちは、ゴールデア女王からさらなる歓待をうけた。
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ゴールド王国をあげてのパーティーが終わり、私ラベンダーが解放されたころには、すでに空が暗くなっていた。
クラレット君と第三騎士団は、私と一緒に用意された部屋に向かっていた。
向かう途中、
「驚いちゃった。クラレット君がゴールデア女王陛下直々に黄金の精強六武威の一席についてくれと言われるなんて」
「黄金の精強六武威って私たちがこどものころから英雄として活躍していた人たちだもんね。それに選ばれるなんてクラレット君てすごいのね」
クラレット君は、
「ふふ。そういう君こそ伝説の勇者じゃないか。そのなかでも空の勇者なんだろう。空の勇者は伝説の勇者の中でも格が高いと聞いたよ。ラベンダーのほうがすごいよ」
と返してくれる。だけど私はそんな風に思えない。
「くす。そうらしいわね。でも本当のことを言うと、なんだっていいの。私の目的は勇者として活躍することじゃないもの」
「本当はね。もっと力をつけてはやく世の中を平和にしたいの。どんどん魔物をやっつけて。だれもが安心して暮らせるように」
「だから、ウィスタリア聖教国やゴールド王国をおびやかしているという魔王を倒したい。倒してそれで平和な世の中になったら・・・・・・・」
「好きな人と一緒に暮らせればいいなって」
そう声をおとしながらつぶやく。
それをきいたクラレット君も、ここではないどこかを見つめるように、
「そうだね。そう。ぼくもそうだよ。はやく平和な世の中にしたいね・・・」
「そして大事な友人と仲良くくらしたい。そうおもって精強六武威の件も引き受けようと思っているんだ」
クラレット君の赤い瞳はすこし熱を帯びていた。その様子がなんだか艶めかしく感じられる。
たぶん、私とクラレット君は同じ人の顔を思い浮かべていると思う。
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ラベンダーとクラレットの2人が話しながら歩いていると用意された部屋にたどりついた。
すでに夜も暮れている。
ラベンダーはクラレットと護衛してくれた第三騎士団の面々にお礼をいって部屋に入った。
ラベンダーは部屋に入るとすぐにベッドに横たわり、明日のことを考える。
明日、勇者の認定式をゴールド王国をあげて行う予定である。
そこには女王以下、大臣や精強六武威をはじめゴールド王国の重鎮たちが軒並み出席する予定である。
そしてなんとゴールド王国に拠点があると言われている聖教会のトップに君臨する教皇までもが出席すると聞いた。
聖教会は中央平原のみならず大陸全土にひろく信仰される創造神信仰の中心となる教会である。
その影響はすさまじく大きい。
うわさでは教皇は龍族であり、そのため何万年も生きてきたといわれている。
実際教皇はいつから教皇を務めているのか誰もわからないし、記録にも残っていないほどなのである。
さらに言うと、教皇には大昔に創造神様から最初に創造された人種の一人であるという伝説もある。
それほどの伝説をもつ教皇はめったに人前に姿を現さないのである。
にもかかわらず明日の勇者の認定式には姿を現すという。
勇者の認定式がどれほど重要視されているのかそれだけでもわかると言うものだろう。
翌朝。
ゴールド王国では勇者の認定式という歴史的な記念日を祝福するかのように天候も晴れており雲一つない。
澄み渡る空を見上げながら、ラベンダーは伸びをした。
「うう~~~ん。気持ちい朝ね。ふぅぅ」
「今日は認定式だし、教皇様までいらっしゃるとか。さすがに緊張しちゃうわね。は~あ~、ホワイトくん、今頃どうしているかしら」
「さあ、支度を整えなくっちゃ。そろそろ第三騎士団の人がお迎えに来ちゃうわ」
そして、勇者の認定式。
ゴールド王国の王宮にて女王陛下や教皇以下、重鎮が並ぶなかで、ラベンダーは式典用の豪華な武具に包まれながら静かに歩を進めている。
踏みしめる赤いじゅうたんはどれぐらい厚みがあるのか想像できない。
しかし、ラベンダーはそんなことに気を使っていられないぐらい頭の中は式典で自分がとるべき行動や言うべきセリフを思い出すのに精いっぱいだった。
昨日の夜は式典の進行表とにらめっこしていたし、女王陛下の目の前ではそれにふさわしい礼儀が必要となる。
ラベンダーは思った。
これなら魔物討伐や魔族の制圧のほうがよっぽど楽ね、と。
並みいる重鎮の中には、現役の黄金の「精強六武威」に名を連ねる武人たちも並んでおり目の前の勇者を見定めている。
彼らは武人であり戦いに生きてきた戦士である。
目の前に強い戦士がいれば一体どれだけ強いのだろうかと見定めてしまうことは致し方ないことなのだ。
そんな彼らからみた勇者ラベンダーは敵に回してはいけないと言う感想しか浮かばなかった。
それほど、目の前で疲弊した表情の少女は圧倒的強者たる強い魔力を保有しているのだ。




