第6話
第二騎士団が受けていた魔物討伐の任務が終わり、騎士たちはウィスタリア聖教国の国都へと帰還した。
この日は珍しく、第一、第二、第三のすべての騎士団が国都にそろっていた。
そんなある日のこと。
「おいおいおい、その話は本当なのかよ」
「本気と書いてマジと呼ぶぐらい本当なんですって。父上から聞いた確かな情報です。第一騎士団の副団長殿が、勇者として認定されたらしい」
「だから勇者認定式のためにゴールド王国に呼ばれるんですって」
休憩時間、第一騎士団の騎士たちがひそひそと噂話をしていた。
「勇者・・・・・? 本当に、あのラベンダー副団長が?」
「信じられない気もするけど、あの魔力量だぞ。底が見えないって言われてるくらいだ」
「数千年ぶりに現れた勇者、か・・・・・」
「聖教会の古文書にしか残ってない存在だろ。あそこには、世界が創造された時代からの記録があるらしいしな」
「教皇さまも、正真正銘の化け物だって噂だ」
「おい、不敬だぞ」
「あ・・・・す、すみません」
騎士たちは笑いながらも、どこか誇らしげだった。
「でもさ、ラベンダー副団長って、勇者っていうより――」
「お姫様、だよな」
「わかる。あの黒い髪と黒い瞳、神秘的なんだよなぁ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――その噂話を。
私ラベンダーは、たまたま通りかかって聞いてしまった。
「もう・・・・・」
思わず、頬を膨らませる。
「第一騎士団の中では、もう噂が広がってるじゃない」
口止めしておくから大丈夫だ、なんて言われていたのに。
「勇者、か・・・・・」
全然、実感が湧かない。
それよりも。
「ホワイト君とも、全然会えてないし・・・・・」
またすぐにゴールド王国へ向かわなければならない。
せっかく帰ってきたのに、すれ違ってばかりだ。
そんな私の横で、従者のイオニーアさんが静かに声をかけてくれた。
「そんなに会いたいのでしたら、会わせましょうか」
「え?」
イオニーアさんは、すっと指を伸ばす。
「ホワイト様でしたら、あちらの茂みにお一人でいらっしゃいますよ」
ちょうど第二騎士団が訓練を終え、休憩に入ったところと聞いている。
きっと人目を避けて、静かな場所を選んだのだろう。
「え、ほんとに?」
ぱっと表情が明るくなる。
「やったぁ。さすがイオニーアさん!」
私は急ぎ足で、その方向へ向かった。
背後で、イオニーアさんが小さくつぶやく。
「お誉めいただき恐縮です・・・・・」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あらぁ。こんなところに、ホワイトく~ん」
声をかけると、茂みの影からホワイト君が顔を出した。
「っ、驚かすなよ」
「ちぇっ。いい隠れ場所だと思ったのに」
そう言いながらも、どこか照れた様子だ。
「その・・・・・久しぶりだな。元気だったか?」
「うん。元気だよ」
それだけで、胸の奥があたたかくなる。
他愛もない話をして、ほんのひととき。
私は、その時間がとても愛おしかった。
――そうだ。
前から渡したいと思っていたものがあったんだ。
「ねえ、ホワイト君」
私は、そっとペンダントを差し出した。
「これ、お守り」
ただの装飾品じゃない。
イオニーアさんから譲り受けたものに、私自身でさらに付与魔法を重ねた。
耐性。攻撃力、防御力。
少しでも、この人を守れるように。
「・・・・・・ありがとう」
ホワイト君は、少し驚いた顔で受け取ってくれた。
やがて休憩時間が終わり、彼は訓練へ戻っていく。
私は、その背中を見送りながら、胸の奥で願う。
――ずっと、一緒にいられたらいいのに。
その瞬間。
頭の奥から、また警鐘のようなものが鳴り響いた。
「・・っ」
一体、何?
何を思い出したらいいの。
理由は分からないけど、ホワイト君を見ているとなぜだか、大事な何かを思い出しそうな気がする。
背後で、イオニーアさんが誰にも聞こえない声でつぶやく。
「・・・・・また、ラベンダーの魂に魔力が流れ込んだ。まさか、あの者から?」
その視線は、彼の背中へ――
まるで彼の魂を見定めるかのような・・・・・・




