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第4部    数百年後に生まれ変わっても    第1話

「――ようやく会えたわね。魔王、カーマイン!」


魔王の居城。


黒い石で組まれた大広間の天井は高く、柱の一本一本が、ここが“王”の場所であることを主張していた。


勇者ラベンダーは、その中心に立つ男を見据える。


堂々たる体躯。


纏う魔力は、雷の鋭さと――あり得ないはずの“聖”の清さを同時に孕んでいた。


(でも、おかしい・・・・)


教皇は言った。


魔王は人族を奴隷に落とし、苦しめ、世界を踏み荒らす存在だと。


だが、目の前の魔王の目には、狂気がない。

怒りも、憎しみも、ある。


けれど――“嗜虐的な愉悦”がない。


さらに、聖属性。


魔族の王たる者が備えるには、少々皮肉な気がする。


ラベンダーが注意深く見ると、聖の魔力は魔王の身体からではなく、腕に嵌めた腕輪型の魔道具から脈打っていた。


淡い光が、呼吸のように明滅している。


どうやら、回復効果のある魔道具のようだ。


(強力な回復力・・・・・。長期戦になるわね)


問いただしたいことはいくらでもあった。


なぜ戦争を? なぜ人族を? 本当に教皇の言う通りなの?


ラベンダーが口を開きかけた、その瞬間――


「勇者よ。質問などするだけ無駄だ」


魔王カーマインは、先に言葉を断ち切った。


まるで、問われることが分かっていたかのように。


「こと、ここに至っては言葉を必要としない。ただ剣と魔法で決着をつけるのみだ」


そして、魔王はおもむろに魔法を唱える。


その魔法を――自分の身体へと叩き込んだ。


刹那、雷が走った。


筋肉の内側から、武器を磨き上げるような鋭い力が立ち上がる。


(・・・・あれは)


ラベンダーの喉が、ひゅ、と鳴った。


(ホワイト君が邪神に向けて放った、“魔法剣”!)


龍族の技。


それを、魔族が。


魔王カーマインは雷を纏い、床を蹴った。


速い。重い。鋭い。


挿絵(By みてみん)


一撃ごとに大広間の空気が裂け、ラベンダーの受けが遅れる。


(このままじゃ――)


ラベンダーが防御に徹した、その時。


大広間の奥から、赤い影が飛び込んできた。


「遅くなった!!」


英太子クラレット。


剣を構えるその姿は、迷いがない。


クラレットは、ホワイトを愛し。


――ホワイトはラベンダーを愛した。


だから、ここに立った。


「二人がかりで、押し切るんだ!」


ラベンダーは頷き、息を整えた。


――だが。


その決戦の“結果”がどうなるかは、まだわからない。


なぜならこの夜、世界の運命は大広間ではなく――


小さな宿屋の一室で、すでに静かに動き始めていたからだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


時間は少しさかのぼる。



ホワイトがメイズの居場所を探し、ラベンダーが魔王討伐へ向かう――その隙間の時間。


クラレットがホワイトの居場所を探し出しラベンダーを連れてきた。


小さな町の宿屋。


薄い壁。軋む床。窓の外では風が鳴っている。


僕は、部屋の椅子に腰掛けたまま、指先を見つめていた。


震えは止まらない。


寒さのせいじゃない。


――また、削れる。


魔法剣を使うたびに、僕の中の何かが削れていく。


それでも、止まれない。


コン、コン。


扉が叩かれた。


こんな夜更けに、誰だろう?


警戒して立ち上がり、そっと扉を開ける。


そこにいたのは――ここにいるはずのない人だった。


「ホワイト君・・・・」


漆黒の瞳。


涙を湛えた、その瞳が、僕だけを見つめていた。


「ラ、ラベンダー?」


夢だと思った。


そうでなければ説明がつかない。


魔王の居城へ向かっているはずの勇者が、こんな片田舎の宿屋の扉の前に立っているなんて。


ラベンダーは、微笑んだ。


だけど、その微笑みは、強がりにしては弱い。


「今日は無理を言って時間を作ったの。魔王を相手にするとなると、さすがの私でも、どうなるか分からないから」


彼女は一歩、部屋へ入る。


距離が縮まるだけで、胸の奥がドキドキする。


「会いたかった。どうしても」


「でも、あなたの居場所が分からなくて。クラレット君に探してもらったの」


僕は、言葉を失った。


クラレットが。


幼なじみのクラレットが、ラベンダーを連れてきた。


「今日は朝まで大丈夫だから・・・・」


その言葉の意味するところが分からない訳じゃない。


「え、えっと・・・・いいの? 僕なんかで。僕は何もできない。誇れるものも、何もない・・・・君に、相応しくない」


途端、ラベンダーの眉がわずかに寄った。


「そんなことない!」


そして、僕の胸の前に手を当てる。


「そんなことないよ。あなたは、何もできない人じゃない。みんなのために自爆用の魔道具を使った。あれは・・・・勇気がいることだよ」


「でも、もう、あんなことはしないで欲しい・・・・・すごく悲しかったから」


胸の奥が、きつく締まる。


僕がしたことは、勇気じゃない。逃げだ。


だけど彼女は、そんな僕を受け入れてくれた。


「ねぇ・・・、私じゃ、ダメ?」


ラベンダーの声が震えた。


「私は、私はホワイト君じゃないといやだ」


僕は息を呑み、何か言おうとした。


言葉を選ぶ間もなく――


ラベンダーが僕の唇を塞いだ。


温かい。


震えている。


それでも迷いはなく、まるで今の世界で確かなものはこれしかないと証明するみたいに、強く。


知らなかった。


彼女も、僕と同じ気持ちだったなんて。


僕の指先が、恐る恐る彼女の背に触れた。


そこに確かな体温があって、夢ではないと分かった。


ラベンダーは、目を閉じる。


涙が一粒、頬を伝った。


その涙が、僕の罪を許すみたいで――


余計に苦しくなった。


僕らは、扉の向こうへ消えた。

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