表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/56

第11話


夜明け前。


ラベンダーは、まだ誰もいない回廊を一人で歩いていた。

足音が、やけに大きく響く。


思い返せば、いつもそうだった。


危険な役目を、自分より先に引き受ける。

目立たない場所で、誰かの“失敗”を肩代わりする。

評価されなくても、文句を言わない。


それが“優しさ”だけではなく、覚悟も混じっていたと気づいたのは、ずっと後だった。


「・・・・・私、何を見てたんだろう」


勇者。

選ばれた者。

期待される存在。


その言葉の裏で、彼が、ホワイトがどれだけ自尊心を削られていたか――

自分は、ちゃんと見ていただろうか。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ぼくクラレットもその諜報網を駆使して、ホワイトの足取りを掴んでいた。


そして、ホワイトの居る宿屋がわかった時、ぼくは、真っ先にラベンダーに伝えに行った。


「クラレットくん?」


「ラベンダー、ホワイトの居場所が分かったよ。会いに行くかい?」


「もちろん」


嬉しそうに微笑むラベンダーとは対照的にぼくのこころは落ち込む。


恋敵に塩を送るんだ。


でも、ホワイトが本当に望んでいるのはぼくじゃない。


ラベンダーだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


クラレットの案内でホワイトとラベンダーは会った。


その夜。クラレット、ラベンダー、ホワイトの運命が交錯した。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇


夜が明けて。



「急がないと」


ホワイトは、ベッドから立ち上がろうとしたが、体がよろめいた。


すぐにラベンダーがホワイトの身体を支えた。


「・・・私が支える」


ラベンダーはその腕を離すまいと強く握りしめた。


ホワイトは支えられながら一歩一歩、先へ進む。、



砂漠の奥。

崩れた神殿とは別の場所。


そこに――魔王の居城が、姿を現していた。


静かに。

圧倒的に。


その手前で、三つの運命が、同時に収束し始める。


勇者。

名を呼ばれぬ剣士。

そして、宿命を背負った魔族。


(ここで、決着をつける)


ホワイトは、胸の奥で静かに思った。


(でも――)


視線の先にはラベンダーがいた。


(僕は、独りじゃない)


その確信だけを携えて、彼は一歩、前に進んだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


砂漠の夜は冷える。

火があるのに、骨の芯が冷たい。


ホワイトは焚き火の前で、指先をじっと見ていた。


ホワイトはナイルと合流した。

震えは、止まらない。それは寒さのせいじゃない。

身体の奥が、もう摩耗しきっている。


「・・・・・顔色、最悪。でも目は死んでないわね」


ナイルが、ぶっきらぼうに言った。

だけど視線は、ずっと彼の手元を追っている。


「分かってる」


ホワイトは笑おうとして、咳き込みかけた。

耐えた。

今ここで崩れたら、もう立ち上がれない気がする。


そのとき――


「ホワイト君」


声が聞こえた瞬間、ホワイトの表情がゆるむ。


ラベンダー。


鎧の上から砂を払う仕草は、旅の途中のそれなのに――

目だけは、とても優しかった。


「なんだい?」


ホワイトの声は、思ったよりかすれていた。


その問いを無視してラベンダーは、


「あなたが、私の“邪魔”にならないために無理をしてるの、分かるよ」


ホワイトは息を呑んだ。

言葉が出ない。


ナイルが、わざとらしく咳払いをした。


「はいはい。そういう話はあとあと。時間がないわよん」


ラベンダーがナイルを見る。

ナイルもラベンダーを見る。

互いに、相手の強さを一瞬で理解する目だった。


「・・・・・あなたが、ナイル、さん?」


「そうよん」


「この魔力の流れ・・・・・龍族?」


「そう」


短い言葉のやりとり。

それだけで、十分だった。


ラベンダーはホワイトに視線を戻し、一つだけ、強い声で言った。


「私、魔王の元へ行く」


ホワイトは頷く。

それは止められない。


「・・・・・うん」


「その前に、もう一度だけあなたに会いたかったの」


“会いたかった”

その言葉だけで、胸がじんわりと熱くなる。


ホワイトが口を開こうとした時、砂の向こうから馬蹄と鎧の音が近づいた。


「ラベンダー!!」


先に飛び出してきたのは、サンドベージュだった。

すぐ後ろに、キース、ミモザ、ケイトが続く。


「勝手な行動するな!単独行動など。心配したんだぞ!」


サンドベージュの怒声が止まった。

ホワイトを見つけたからだ。


「っ、きさま・・」


空気が、硬直する。


キースが先に口を滑らせた。


「え、なに、あいつ・・・・・生きてたの?」


ミモザが小さく息を吐く。

聖女ケイトは、まるで祈るように目を閉じた。


ラベンダーは、仲間たちの前に一歩出た。


「勝手に動いてごめんなさい。私が悪いの」


そう言ってぺこりと頭を下げる。


サンドベージュは歯を食いしばり、握りしめた拳からは血が流れていた。


「・・・・・分かった。だが、時間がない」


彼が言う“時間”は、魔王への道のことだ。

そして――

ホワイトは別の“時間”を数えていた。


(僕の時間)


もう、長くない。


だからこそ、今夜で――


決めなければいけない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ