第10話
ゴールド王国の王都。
朝の鐘が鳴るころ、城内の空気は重かった。
少し前に、大規模な魔物の襲撃があり、ゴールド王国の総力をあげて迎撃したばかりだった。
それこそ精強六武威の主力である、マホガニー、キャナリィといった面々が出撃する事態であった。
その戦いもさきほどようやく終わった。
ここ作戦本部では、精強六武威の1人である魔族のフラグラント将軍が指揮を執っていた。
精強六武威の一人で第三席にすわる魔族のフラグラント。
フラグラントは大陸十賢者の称号も持っており上級の氷属性魔法を使いこなす智将タイプの将軍である。
そのフラグラント将軍に対して、同じ六武威のマホガニーが何事か愚痴めいた話をしている。
マホガニーは龍族であり、その力は六武威でも最強クラスだ。
そんなマホガニーが渋い顔をする理由とは――
事前の作戦とは違うことが起こり過ぎたから、である。
「・・・・・以上が、グーズベリー・ジェンティアン方面の戦況です」
作戦本部で、参謀が地図を指し示す。
「魔物軍は壊滅。指揮を執っていたAランク相当のジェネラルゴブリンは討伐されました」
ざわり、と空気が揺れた。
「討ったのは誰だ?マホガニーではないのか」
フラグラント将軍はそう問うた。
参謀は、一瞬だけ言葉に詰まる。
「・・・・・それが」
視線が泳ぐ。
「それが・・・・戦場に出ていた兵が言うには、討ったのはホワイトという、行商あがりの人物だと言うのです」
その名が出た瞬間、室内の温度が下がった。
マホガニー将軍が吠える。
「それ見たことか!!それがしのいった通りであろう。潔くホワイトの力を認め、正式に軍に入れておけば良かったのじゃ!!」
「・・・・・また、あの男か」
呟いたのは、軍務長官だった。
「実績がない。家柄もない。それでいて、要所要所に顔を出す」
「しかも、”英太子”殿下と異様に親しい」
フラグラントは、黙って聞いている。
資料に目を落とし、静かに考えている。
「だが、事実として――」
彼は、ゆっくりと顔を上げた。
「戦況が動いた陰には、ホワイトいうものがいたのだろう」
沈黙。
「・・・・・つまり?」
フラグラントは断じた。
「“英雄”だ」
マホガニーは悪くないという表情でフンと鼻をならすが、他の面々は苦い表情だ。
そして口々に、
「身分が足りない」
「実力も定かではない」
「英雄に据えるには、不確定要素が多すぎる」
それが、マホガニーを除く軍部の結論だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その頃。
王城の別棟。
英太子クラレットは、報告書を握り潰していた。
「・・・・・まただ」
紙の端が、指の力で裂ける。
「また、ホワイトの名前が消されている」
側に控えるホーネットは、静かに言った。
「意図的ですよ」
「分かってる!」
クラレットは、吐き捨てるように言う。
「分かってるけど・・・・・どうして、こうなるんだ」
「功績を挙げれば挙げるほど、彼は“都合が悪い存在”になるからでしょう、」
ホーネットは、少しだけ視線を伏せた。
「・・・・・英太子殿下」
「なに?」
「もし、彼がこの戦から戻らなかった場合は・・・」
一瞬、空気が凍る。
「仮定の話は、やめて」
クラレットの声は低かった。
「ホワイトは、必ず帰ってくる」
「必ず」
ホーネットは、それ以上言わなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
クラレットです。
ホワイトのことを考えると胸が苦しくて苦しくて。
そっとポケットから赤い石を取り出す。
この赤い石はホワイトが別れる間際にくれたもの。
これを見ると元気が出る。
だってこの赤い石って、孤児院で別れるときに交わした約束の赤い石なんだもん。
そう考えると、嬉しくて、切なくて。
たとえ、そうじゃないとわかっていても顔が赤くなるのを止められない。
ホワイトは忘れているようだけど、ぼく、本当はホワイトからまた赤い石をもらいたくて頑張ってきたんだ。
ずっとずっと、騎士団にはいっても。
第三騎士団の団長になっても。遠征で魔物討伐をしていても。
そして、こんな状況だけど。思いがけずホワイトから約束の赤い石をもらえた。
ぼくは、これだけで頑張っていける。
たとえ振り向いてくれなくても・・・・・・




