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第8話


剣と剣がぶつかる音は、金属音ではなかった。

雷鳴に近い。

空気そのものが、衝突して砕けている。


「――っ!!」


踏み込んだ瞬間、視界が歪む。

メイズは、身体強化魔法を使って剣を振るっており、重い。

ただ魔力が強いだけじゃない。

長年の研鑽によって膨大な魔力が完璧に制御された完成度の高い剣技だった。


(まただ・・・・)


前と同じ絶望感。

だが、今回は以前より動きが見えている。


何度も戦い、命が危機にさらされたのだ。防衛本能かもしれない。


「ほぉぉ・・・・」


メイズが、楽しそうに笑った。


「よいぞぉ・・・・よいぞぉ・・・・」


剣を受け止めながら、奴は言う。


「その踏み込み・・・・その躊躇のなさ・・・・ようやくわれと同じ段階にまで踏み込んだぁ、それでこそ対話ができるぅ」


「対話?」


歯を食いしばり、押し返す。


「ふざけるな!お前と話すことなんて――」


「あるぅ」


メイズの剣が、わずかに角度を変えた。

受け流される。

次の瞬間、腹に衝撃。


ぐっ――!


吹き飛ばされ、石柱に叩きつけられる。

肺の空気が一気に抜けた。


「っ、は・・・・」


立ち上がろうとして、膝が軋む。


「何度も言わせるなぁ・・・・」


メイズは歩み寄らない。

距離を保ったまま、語り始める。


「お前ぇ・・・・なぜ、何度も死にかけながら前に出るぅ?」


「・・・・」


「誉められたいからかぁ?愛されたいからかぁ?」


拳が、震えた。


「黙れ」


「違うなぁ・・・・」


メイズは、低く笑う。


「“置いていかれるのが怖い”のだろうぅ?」


胸の奥に、ひびが入った気がした。


「お前はぁ・・・・いつも“選ばれる側”ではなかったぁ」


「平民でぇ。力は中途半端。英雄の隣に立てるほどではないぃ」


「だがぁ・・・・立ってしまったぁ」


一歩、近づく。


「勇者の隣に。英太子の隣に」


「その場所はぁ・・・・“命を削る者”しか許されぬぅ」


「だからお前はぁ・・・・削ったぁ」


頭が、割れるように痛む。


過去の光景が、勝手に浮かぶ。


自爆用魔道具。

動かない手足。

魔法剣を使った後の後遺症。


「・・・・うるさい」


声が、かすれた。


「それでも――」


剣を、強く握る。


「それでも、僕は――」


踏み込む。


「選んだ!!」


魔法剣が、青白く輝いた。

雷とも火とも説明がつかない、もはや“生命”そのものとしかいえない光。


メイズが、初めて真正面から受け止めた。


ガァァァン!!


衝撃が、神殿全体を揺らす。


床が割れ、柱が崩れる。


「・・・・ほぉ」


メイズの声が、低くなる。


「やはりなぁ・・・・」


剣を押し合いながら、奴は囁く。


「お前ぇ・・・・“われと同じだ”」


「・・・・なに?」


「かつてのわれもぉ・・・・選ばれなかったぁ」


力が、拮抗する。


「魔族の中でぇ・・・・王でも、将でもなく・・・・ただ“便利な駒”だったぁ」


「だからぁ・・・・魔王に忠誠を誓ったぁ」


「役割を得るためになぁ」


息が、詰まる。


「・・・・それが、お前の言う宿命か」


「そうだぁ」


メイズの瞳が、わずかに揺れた。


「だがなぁ・・・・」


剣を弾き、距離を取る。


「お前はぁ・・・・まだ“戻れる”」


「戻る?」


「“生きる側”へぇ・・・・」


メイズは、剣を下ろした。


完全な隙。

致命傷を狙える距離。


だが――

身体が、動かない。


「なぜならぁ・・・・」


メイズは、静かに告げた。


「お前の背後にはぁ・・・・“帰る場所”があるからだぁ」

クラレット。

ナイル。


スレート。

そして――ラベンダー。


胸が、痛む。


「・・・・それが、どうした」


「羨ましいぃ」


初めて、感情の混じった声だった。


「われはぁ・・・・それを持てなかったぁ」


沈黙。


崩れる石の音だけが、響く。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ホワイト」


名を、正確に呼ばれた。


「この戦い・・・・われが預かるぅ」


「・・・・なに?」


「次だぁ」


剣を構え直す。


「魔王の元でぇ・・・・必ず、もう一度、戦おう」


魔力が、急激に収束する。


「待て!」


叫んだが、遅い。


結界が爆ぜ、視界が白に塗り潰される。


次の瞬間、神殿には――僕だけが立っていた。


剣を握ったまま。


息を荒げたまま。


「・・・・逃げた、のか?」


違う。


逃げる必要なんてないじゃないか。


“次へ向かった”んだ。


それがなぜだか理解できた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


神殿の外。


ナイルが駆け寄ってくる。


「ホワイト!!」


無事を確かめると、ほっと息を吐いた。


「・・・・終わったの?」


僕は、首を振った。


「いいや・・・・まだだ」


胸の奥が、妙に静かだった。


恐怖も、怒りも――ない。


ただ、メイズの本音だけが胸に残った。だけど、


(次で、必ず終わらせてみせる)


これが本当の最後。


なぜだか強く、そう思えた。


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