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第7話

野営地を離れて三日目。



砂漠の縁をなぞるように進みながら、僕ホワイトは足跡を追っていた。

魔物のものでも、人族のものでもない――

魔力の“残滓”。


目に見える痕跡ではない。

けれど、僕には分かる。


あのとき、メイズと刃を交えた瞬間、身体の奥に焼き付いた“感触”がある。


冷たく、重く、そして――どこか哀れな、そんな気配のする魔力。


「・・・・間違いない」


呟くと、ナイルが隣で頷いた。


「ええ。進路は合ってるわねん」


彼女は空を見上げ、風の流れを読むように目を細める。


「魔族の群れをまとめていた気配は消えてるわねえ。今のメイズは・・・・一人よ」


「撤退したってこと?」


「違うわね」


ナイルは即答した。


「“切り捨てた”のよ。軍も、部下も」


僕は、息を飲んだ。


魔族は仲間意識が薄いとは聞く。

だが、あれほどの軍勢を率いていた存在が、すべてを捨てて単独で動く。


「何をする気だ」


ナイルは答えなかった。

代わりに、ぽつりと呟く。


「少なくとも追い詰められた者の気配じゃないわ。どちらかというと、余裕の構え、ね」


背中が、ひやりとした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


夜。



簡易の野営地で、焚き火を最小限に抑える。

光は目立つ。

今は、目立ってはいけない。


僕は地図を広げ、指でなぞった。


「この先に、古い神殿跡がある」


「・・・・嫌な場所ねえ」


ナイルが肩をすくめる。


「魔力の流れが溜まりやすい場所。ああいうところ、魔族は好きよう」


「儀式をしてるとか?」


「可能性は高いわね」


僕は、喉の奥が渇くのを感じた。


「魔王の戦いが、近い」


「ええ」


ナイルは焚き火を見つめながら言った。


「だからこそ、メイズは動いてるのよねえ、たぶん」


「魔王のため?」


「・・・・半分は、ね」


「半分?」


ナイルは、少しだけ言葉を選ぶように間を置いた。


「メイズは、“自分の役割”を終わらせに行ってる」


「役割・・・・」


「あなたにとっての“宿命”と同じものよ、たぶんね」


僕は、思わず拳を握った。


宿命。

そんな言葉に縛られたくなかった。


でも、ここまで来てしまえば、否定する理由も残されていない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌日、近くで喧噪がする。


なんだろう、戦いでもしているのか?


「ふんふん、どうやらあ、この近くでゴールド王国軍と魔物が戦っているみたいね、多分、あの魔族、メイズが差し向けたんだとおもうわよお」


「さきほど、上空から戦場全体を見渡したところ、ちょうど、魔物軍を指揮しているAランク相当のゴブリンジェネラルの指揮所の裏側にあたくしたち、いるわ」


「どうする?やっちゃう?」


ゴールド王国を魔王軍が襲っているというのなら僕に迷いはない。


幸い、ナイルもいる。


Aランク相当は僕の手に余るかもしれないが、魔法剣と、それにナイルがいる。


奇襲すれば討ち取れるだろう。


その後はさっさと逃げる。


指揮官であるジェネラルゴブリンさえ倒れればあとの魔物の群れも混乱し、ゴールド王国軍の勝利につながる。


その後、もう一度ここへ来よう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


僕は首尾よくジェネラルゴブリンを討ち取り、神殿跡へ戻って来ることができた。



神殿跡は、半壊していた。


柱は倒れ、石畳は割れ、それでも中心部だけは、妙に“整って”いる。


「結界ね」


ナイルが低く言う。


「外からは荒廃して見えるわよお。でも中は――」


言葉を切った瞬間、空気が変わった。


重い。

呼吸が、少しだけ苦しくなる。


僕の胸の奥で、魔法剣の“残滓”が反応した。


「・・・・いる」


ナイルが、静かに剣に手をかける。


「止めとくぅ?先ほどの疲れも残っているだろうしぃ」


「いいや」


僕は、前に出た。


「ここから先は、僕の役目だ!」


ナイルは、一瞬だけ僕を見た。


そして、小さく笑った。


「そう言うと思ったわん」


彼女は、後方へ一歩下がる。


「でも覚えておいて。あなたは独りではないわ」


クラレットに言われた言葉とリンクする。偶然だけど、ドキッとした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


神殿の奥。


割れた祭壇の前に、影が立っていた。


背は高く、輪郭は歪み、その全身から、青白い魔力が揺らいでいる。


「・・・・来たかぁ」


声が、直接、頭に響いた。


「ホワイトォ・・・・やはり、お前だったぁ」


僕は、剣を構えた。


逃げない。

もう、逃げない。


「メイズ」


名を呼ぶだけで、胸が締めつけられる。


「今度は、逃がさない」


メイズは、低く笑った。


「ほぉ・・・・良い目だぁ」


「さきほどはわれが差し向けた魔物の軍が世話になったようだぁ」


「そのおかげかぁ?その目ぇ・・・・やっと、“覚悟”を持った目だぁ」


「だがぁ・・・・」


メイズは、ゆっくりと両腕を広げる。


「まだ、足りぬぅ」


「お前はぁ、まだ“生”に未練があるぅ」


胸の奥を、正確に抉られた気がした。


「黙れ!」


吐き捨てる。


「今回は違う」


魔力を、組み上げる。


雷だけでなく。

火だけでもない。


雷と火の合成を宿した魔法剣。


強力な分、削られ方も比較にならないが、一段上の“魔法剣”。


「僕は、終わらせに来たんだ!!」


メイズの瞳が、歪んだ光を放つ。


「ならばぁ・・・・」


「始めようぞぉ。三度目の“宿命”をぉ」


神殿の空気が、爆ぜる。


剣と魔力が、正面からぶつかり合う。


――ここから先は、退路がない。


そして、僕は知らなかった。


この戦いが、“勝敗”では終わらないことを。


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